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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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《オペレーション・ゴルディアス》 XⅧ : 花岡斬 3

 俺はすぐに飛び出し、斬の身体を支えて「業」から離れた。

 「業」は俺たちを見ようともせずに、斬にやられた身体の修復に専念している。

 斬の下半身は喪われ、顔も半分が消し飛んでいる。

 左腕はもがれ、胸部も切り裂かれていた。

 内臓が零れ落ち、斬の身体は恐ろしく軽かった。

 亜紀ちゃんと虎蘭が飛んで来て、俺たちの背後を護ろうとした。

 俺は斬に叫んだ。


 「斬!」


 斬の残った左眼が俺を見た。

 まだ意識があるのか!


 「斬!」

 「「業」は……」


 斬の唇が少し動いた。


 「苦しんでるぜ!」

 「そうか……」

 「斬!」

 

 

 「おい、お前には……世話に……すまん……」



 斬はこと切れた。

 デュールゲリエたちが飛んできて、斬の身体を抱えて去った。

 今の戦闘の記録と共に、アラスカへ斬を運ぶはずだ。

 俺は亜紀ちゃんと虎蘭を戻した。

 斬は俺たちに多くのことを示してくれた。

 ここからは俺たちがやる。


 「聖!」

 「おう!」


 俺は「虎王」を抜いて「業」に迫った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「母さん……」


 何日も前から部屋に閉じこもっている母さんが心配で、様子を見に行った。

 母さんは理由は語らず、暗い顔をしていた。

 こんな母さんは初めて見る。

 いつも明るく優しい母さんが、誰とも話そうともせずに真剣に思いつめていた。

 食堂にも顔を出さず、大好きだったゲームをやろうともしない。

 ヨーロッパの「虎」の軍総括の立場であったが、その仕事もしていないようだった。

 全ての面会を断り、ただ部屋から出て来ようともしない。

 俺や千歌、契とも会おうとしない。

 何度か俺が母さんの部屋に無理に押し入ったが、すぐに追い出された。

 母さんは暗い顔で部屋の通信機の前に座っていた。

 一応食事は桜花たちが運んでいるが、あまり食べていないようだった。


 その母さんが部屋から出て廊下に立っていた。

 廊下の北に向いた窓を向き、泣きそうな顔を必死で堪えているのが分かった。


 「母さん!」


 母さんはゆっくりと俺を振り向いて低い声で言った。


 「士王、おじいちゃんが逝ったわ」

 「え?」


 意味が分からなかった。

 母さんは少しやつれていた。

 そして俺を振り向いて言った瞬間に、堪えていた涙を流していた。


 「おじいちゃんがどうしたって?」

 「今逝ったの。蓮花が知らせてくれた」

 「おい、どういうことだよ!」


 言葉は聞こえていたが、全身が理解を拒んでいた。

 あの凄まじく強いおじいちゃんがどうした!


 「今、ロシアであの人たちが最後の大規模な作戦を進行してる。もうロシアはこの地上にはないわ。全てあの人たちが滅ぼした」

 「おじいちゃんも行ったのか?」

 「そうよ。おじいちゃんは「虎」の軍でも最強の一人だからね」

 「そうだよな」

 

 母さんは俺を抱き締めた。

 母さんがここ数日暗かった理由が分かった。

 母さんはロシアへの大規模な侵攻作戦を聞いていて、その戦況を逸早く受け取るために部屋にこもっていたのだ。

 一つのことを知るために。


 「ついに「業」と激突したの。おじいちゃんは一人で真っ先に突っ込んで行った」

 「え!」

 「おじいちゃんはね、花岡家のけじめを付けたかったの。誰よりも「業」との決着を求めていた。おじいちゃんは、それだけのために生きて来たのよ」

 「あの凄まじい鍛錬はそのためだよな」


 俺も少しは知っていた。

 母さんの弟である「業」を生かしてしまったことをおじいちゃんが悔いていることを。

 俺も何が起きているのかが少し分かった。

 それでも、まだあの強いおじいちゃんが負けたとは思えなかった。

 俺も「花岡」をそこそこ使えるようになり、おじいちゃんがどれだけ凄まじいのかを理解するようになっていたのだ。

 お父さんや聖さんも強いが、おじいちゃんも強い。

 「業」が恐ろしい敵であることは分かっていたが、おじいちゃんが負けるはずはないと思っていた。


 「そう。見事な最期だったそうよ。全ての攻撃を反射する「業」に幾つも傷を与えて苦しませたって」

 「そうか」


 母さんが泣いているのは、もしかしたらおじいちゃんが死んだからだけではないのかもしれない。

 「業」は母さんの弟でもあるからだ。

 でも、それは決して口には出来ない。

 母さんの胸の内にだけあるものだ。

 俺なんかが何かを思うことすら間違いだ。


 「母さん、お父さんは?」

 「今、「業」と戦ってる」

 「お父さんは勝つよな」

 「当たり前でしょう!」


 母さんが叫んで俺を一層強く抱きしめた。

 

 「母さん、アラスカへ行こう」

 「え?」

 「あそこで最初にお父さんの勝利を聞こう」

 「士王……」


 全ての状況はアラスカへ真っ先に集まる。

 母さんの手を引いた。

 母さんは戸惑っている。

 あの凄まじく強かったおじいちゃんまで勝てなかったためだ。

 しかし、それは「違う」のだ。


 「お父さんは絶対に勝つよ」

 「そうだけど、それは確かだけど」

 「な! だったら行こうぜ!」

 「うん……」


 やっと母さんが歩き出した。

 俺は桜花たちに言って、「Ωコンバットスーツ」を用意してもらった。


 「俺と母さんでアラスカの「ヘッジホッグ」へ行く」

 「士王様!」


 俺は母さんから聞いた、今ロシアで展開している最終決戦のことを桜花たちに話した。


 「お父さんの勝利を真っ先に聞きたいんだ」


 桜花たちは微笑んでくれた。


 「分かりました、行ってらっしゃいませ」


 おじいちゃんの死は桜花たちには伝えられなかった。

 俺も母さんも今は余裕が無いのだ。

 お父さんが負けるわけはないと信じていながらも、それを口に出すことは出来なかった。

 あの強いおじいちゃんがやられたのだ。

 そのことが俺を大きく揺らしていた。


 母さんと「Ωコンバットスーツ」に着替えてアラスカへ飛んだ。

 桜花たちが「ヘッジホッグ」に連絡をしてくれるはずだ。


 (お父さん……)


 飛びながら祈った。





 俺と母さんの軌跡に、水蒸気が痕を残した。

 まるでそれは俺と母さんの不安を示すかのようだった。

 俺たちは一層スピードを上げ、白い軌跡を振り切った。

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