冒険者稼業に必須技能とグロとかスプラッターは全然別
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次回の更新は、3/27です。
ワジュドさんの一件はこれで片付いたし、移住の件も何とか調った。
人数が多いうちにワジュドさんのお引っ越しの準備を進めようということで、急遽ワジュドさんの塒を皆で大掃除。
全身が見事に揃ったワジュドさんのお骨は、そっくりそのままロマノフ先生のマジックバッグへと収まった。どんだけ容量があるんだか。でもそれが腐海ってかなり怖いので、帰ったら虫干しさせてもらおう。
で、塒の方なんだけど、まあ出るわ出るわ。
古王朝第四王朝時代の宝剣とか、最早伝説になっている名付きの魔物の魔石(ヴィクトルさん鑑定より判明)とか、ドラゴニュートの破壊神が暴れまわっていた時代の魔術師が書いた魔導書とか、歴史的に物凄い価値のある物ならまだいい方で。
「大昔の名のある呪術師の皮で作った呪術書とか、あーたん、いる?」
「然るべきところに! 然るべきところに預けてください!」
「だよね。他にも……色々あるんだけど。獣人百人から拷問の末に搾り取った血を吸わせたルビーとかダイヤとか」
「ひぃぃッ、聞くだけでもう怖いぃぃ!」
ヴィクトルさんが雑巾掴みしつつ本を見せてくるし、先生達はにこっと笑って宝石を見せてくる。
これらも歴史的価値は高いし、魔術史及び魔道具史的には物凄く価値が高い。イワクツキだったけど、これもあのときの浄化と解呪の余波で憑き物は落ちている。だからって、そんなの欲しくないんですよねー!
ワジュドさんが塒の掃除のお駄賃と引っ越し先の家賃、ついでにエイルさん達の引っ越し費用として、今あるお宝は全部くれるって。
因みに、ラナーさんはこれらのお宝を「うち、お母ちゃんとコレクションの趣味が合わんのよ」と引き取り拒否だったりする。そりゃな!
先生達がニコニコしてるのはアレよ、好事家に売るととんでもないお値段になるからだ。菊乃井、儲かっちゃうね。持って帰るの怖すぎだけど。
そういうイワクツキだけど売値が素敵なお宝を前に、ほんの少しエイルさんの顔が曇る。
「どうしたの、エイルさん?」
ひよこちゃんが目ざとくエイルさんに話しかける。
するとエイルさんは非常に言い難そうにしつつ、口を開いた。曰く、彼女の一族の秘薬にカビを使ったものがあるとか。
「あの、本当に薬なんだ。おかしなものじゃなくて……!」
焦るようなエイルさんに、キョトンとする。
「ペニシリンですよね? あれって、作れるもんなんですか……?」
へろっと何の気なしに言えば、さっとエイルさんの顔色が変わる。悪いわけじゃないけど、驚いた。そんな感じ。
逆に言ってしまった私の方が、背筋に嫌な汗が。
ザクっと先生方や皇子殿下方の視線が刺さったのが分かったので、極力常と同じように心がける。
「祖母が日記に『カビから作る薬があるらしい。けれど渡り人の誰もが、その薬の名前と存在は知っていても、薬の精製法を知らなかった』と残してまして。それがペニシリンという名前だというところまでは、日記のお蔭で分かったんです。それがこの世界で作れるものなんだなぁと、逆に驚いて変に落ち着いたと言いますか……」
「ああ、そうなのか。鳳蝶の祖母上は聡明で、帝国や渡り人の歴史を研究していたんだったな」
「ええ、はい。曽祖父に渡り人の知り合いがいたのが、研究の切っ掛けのようですけれど」
「ソーニャ様が『得難い人』って言ってた理由がよく分かるね」
皇子殿下方の言葉に乾いた笑いを浮かべる。
祖母については「ありがとうございます!」と土下座してもいいくらいのことと、「何やらかしてくれとんのじゃ!?」と怒りたいことが半々くらいだ。
まあ、それはおいといて。
エイルさんが僅かに焦ったのは、ペニシリンの原料がカビだということだったそうで。
彼女の説明によると、ペニシリンの製法は彼女達が大母様と呼ぶ渡り人の女医さんが齎したものだそうな。
「でもそれ以前にも、カビを治療に使ってたんだ」
「ああ、なるほど」
先生方や識さん、紡くんと一緒に頷く。
レグルスくんや奏くん、ノエくんが驚いた。
皇子殿下方やニルスさんも表情こそ変えていないものの、ちょっと雰囲気が固い。
「カビって、からだによくないものじゃないの?」
「食ったら腹壊すヤツだろ?」
「それを治療に……って、かえって悪くなりそうだけど」
「そういうカビもあるけれど、青カビっていうカビは薬にも出来るんだ。蘇の中に植えこんで、味を良くすることも出来るんだよ」
エイルさんの説明に「へぇ、そうか」となる三人。
だいたい毒草だって薬師さんの手にかかれば薬として使えるわけだから。
そういう識さんの言葉に三人が頷く。
でも、初見の人はだいたいレグルスくんや奏くん、ノエくんと似たような感想になるとエイルさんは言う。
それに青カビが人間に完全に無害かと言えば、そうでもない。
「使い方としては青カビを直接食べさせたり、傷口に塗ったり。そんな感じだったんだ。だけどカビはカビだからね。青カビの中の薬の元が病気を治すより悪さをする成分が勝っちまって、やっぱり亡くなる人もいてね」
薬というものに知識があり、青カビの中に薬の元となる物があるの知っている人間には、この治療法は魔術でも悪魔崇拝でもなく、その時に有効とされた助かる確率が高い治療法だと思えただろう。
しかし何の知識もない人間が、怪我や病気の治療のためにカビを食べるとか、傷口に塗るとか言われたら、それは正気を疑うし怪しげな儀式と誤解もしよう。
そんな話を大母様はその当時の長老から聞かされて、大母様は人々の誤解を解くために青カビから出来る薬……ペニシリンを、その時に考え得るやり方で抽出する方法を教えたとか。
エイルさんが迫害の歴史に対して複雑な思いを抱くのは、この辺も理由だそうで。
「そりゃ何の知識もなく、カビだの毒草だの食わされりゃ怖くもなるなぁって」
「否定はしませんけど、それでも迫害はした方が悪いです。許す必要はありませんよ」
「うん、それはね」
「で、それで何故顔色が悪くなったんです?」
何故私がペニシリンを知っていたかの誤魔化しが上手くいったところで、本題へ。
あのときのエイルさんはめっちゃ焦ってたみたいだけど。
エイルさんに首を傾げて見せると、まあ、答えは簡単。
「や、カビから薬を作るって、不気味だと思われないかなって……。若様、怖いものとか不気味な物が駄目そうだし」
「あー……。私が嫌いなのは意味が分からないものであって、分かっている物は全然大丈夫です。私は必要ならドラゴンを解剖する人間ですよ?」
「そうだよねぇ。何か人の皮で作った本やら、血を浴びた宝石やらを怖がってるのを見てるとさ。普通の子どもみたいに見えるから、もしかしたら~って」
「うん? 私、普通の子どもですが?」
怖がりなのはそうだし、ビビり散らかしてたことがそういう印象に繋がるのも仕方ないけど、私は普通の子どもですが?
エイルさんの頬が引き攣る。
同時に皇子殿下方の視線が遠くに向けられた。
「普通の子どもはドラゴンに怯えても、解剖はしないからな……」
「頭蓋骨開けると言われたときは、正直どうしようかと……」
これは正直解せない。
冒険者だったら解剖というか、解体なんか自分で出来ないとダメな時だってあるんだから。殿下方も菊乃井で冒険者登録してるんだし、逆にモンスターの解体が出来ないなんて冒険者として笑われるぞ。
そういうことを言えば統理殿下もシオン殿下も「ぐぬ」っと言葉に詰まる。
そんな二人を、私は腕を組んで鼻で笑う。
「もー、お二方とも。冒険者稼業を甘く見ちゃダメじゃないですかぁ」
「いや、若様もだけど統理殿下もシオン殿下も冒険者稼業は副業であって、政が本業だからな?」
奏くんの突っ込みが今日も冴えていた。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




