人生のうちに何度かある、岩に刺さった選定の剣を渋々力づくで抜いた瞬間
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次回の更新は、3/23です。
ニルスさんが、手をゆっくり握る。
そして手に向けていた視線をゆっくりと上げた。
「正直、僕に何が出来るんだって思うし、戦うのは怖い。でも、何か起こるのが解っていて、座してそれが起こるのを待つのはもっと怖い。だから、ワジュド殿、僕にお力をお貸しください。必ずや、閣下とのお約束を果たしてご覧に入れます」
「勿論や。骨の話を出したんもこっちやし、なんやったら不始末の後始末を手伝うてもらうんや。遠慮はいらへんよ」
ニルスさんの真剣な表情にワジュドさんが穏やかに返す。そこにラナーさんが加わった。
「せやで。もとはと言えば、お母ちゃんのせいやし。こき使って構へんよ。どうせ骨や。痛くも痒くもあらへんわ」
「アンタはもうちょっとお母ちゃんを労りんかいな!? ホンマにかなわん子やな!」
またドラゴン母娘のド突き漫才が始まる。
それに苦笑いを浮かべるニルスさんの肩に触れた。
「とは言えですよ。まずは戦場に出ないで済むように頑張りましょう」
「え?」
「私達子どもが出るのは最終手段ですよ。そこに至るまでには大人の皆さんに頑張ってもらう。駄目な時の切り札として、貴方を鍛える。最終的に戦闘になるかもしれないけれど、そこに至るまでに相手の力を削ぎ倒すのも戦いと言えばそうだ。寧ろ私達後方にいる為政者は、そっちこそが本分なんだから」
サムズアップでにっこり笑えば、皇子殿下方がブンブン首を上下に動かす。
そもそも前線での戦いなんて最終手段。私達為政者は、前線での衝突に至る前に相手を徹底的に封殺するのがお仕事なんだ。ニルスさんの仕事も本来はここなわけだよ。
ニルスさんがワジュドさんの骨を自在に操れるとなれば、相手は警戒して動けなくなる。それだけで、大分あちらのとれる手段を狭め、こちらのとれる手段を増やすのだ。無手無策とは全然違う。
それに、と一瞬考えて、頭の隅っこにナイナイする。これはまだニルスさんには開示できない。ニルスさんの覚悟が極まったときにしよう。
薄くワジュドさんとラナーさんが苦笑いを浮かべた。
「まあ、なんや。坊ちゃんにお母ちゃんの骨が重荷になるときは、この人契約ぐらいぶっちぎれるから」
「せやで。魂と抜け殻の骨やったら、魂のがどうあっても強い。もしも坊ちゃんが危なそうやったら、おばちゃんがその辺の制御するし気楽にしとり。大人は子どもを守るもんやしな」
ぐっとサムズアップを真似たのか、ワジュドさんが手をニルスさんへ伸ばす。安心して肩の力が抜けたのか、ほっとした顔でニルスさんがワジュドさんの指先に触れようとして止まった。ワジュドさん、透けてたから。魂には触れられない。
そういうことでエイルさんに案内してもらって、塒の奥に行けば大きなドラゴンの全身骨格があって。
元イワクツキ・現ワジュドさん憑きの鏡はもう確保してあって、それはエイルさんの腕の中にある。
エイルさんが鏡を抱えつつ、首を傾げた。
「どうやって持って帰んの?」
もっともな問いに、ニルスさんが「あ」という顔になる。
ワジュドさんが「飛ばせばええやん」とか言うんだけど、ラナーさんがジト目になった。
「ドラゴンの骨が空飛んでたら怖いやんか!」
「そう? クジラが飛ぶんやから、骨ぐらい飛んでても大丈夫やろ?」
「や、おばちゃん。大丈夫じゃないよ、流石にちょっと怖い」
「そう? ほなどうしよう?」
むーんと考え込むように、エイルさんとワジュドさんとラナーさんが首を捻る。
ちらっとロマノフ先生を見れば「大丈夫ですよ」とのお返事。
ラナーさんも大きいけど、ワジュドさんはそのラナーさんより頭一つ大きく見えるんだよね。でもロマノフ先生のマジックバッグには入るらしい。
というわけでワジュドさんのお骨はロマノフ先生のマジックバッグへ。
鏡はエイルさんが持って歩くそうで、ワジュドさんは移動中は鏡の中で寝ていることなった。
あとはエイルさん達のお引っ越しの準備なんだけど。
まあ、これはね?
先生達がルーロットごと転移させてくれるそうなので、心配なし。
一方受け入れる側の町のほうはといえば、お祭りにも使用した簡易住宅があるから。一旦そこを拠点にしてもらおうかと。
今、菊乃井は丁度区画整理検討中。
エイルさん達は医療技術スタッフとして、教育及び研究所区画に入ってもらおうかって考えてる。
勿論これは予定だから、エイルさん達の意見を聞いて変更も可能。ここは柔軟性を維持して、今の住人にも未来の人達にも良い感じにしていきたい。
じゃあ、ルーロットをどうするか?
それについてはエイルさんに意向があるようで、「それなんだけど」と切り出した。
「あのさ、大母様が遺されたんだけど。異世界にゃ『キュウキュウシャ』とか『ドクターカー』とかいう、医者や看護師を乗せて患者の所まで運んだり、逆に応急処置して患者を医者を見せるために運ぶ馬車みたいなもんがあるらしいんだ。それに使えないかい?」
「おお、いいかも。となると、馬車が超高速移動しても危なくないような道作りをやらないといけませんね。街中だけでなく、街道も整備した方がダンジョンやその他事故災害現場に行きやすいですしね」
これはさっさと帰って、そういう意見もルイさん達と話し合わないと。なんせルイさんも育休に入っちゃうしな。
他にも大根先生の学派の皆さんと共同使用になるだろうけど、薬の研究施設みたいな物も必要になるだろう。あと薬草園や温室なんかも。
それにこれは前から考えてたんだけど、実験器具や医療器具なんかを作る専門の職人さんも養成したい。
いやぁ、やらなきゃいけないことが沢山だ。
知らず、喉から「ふふふふふ」と笑いが漏れだす。
「これは益々お金が必要になるなぁ」
手がワキワキと動く。
にちゃぁと笑えばレグルスくんの顔が輝く。
「あにうえ、たのしそうだね!」
「うん。町が発展していくのは楽しいからね」
さて、どうやって搾り取ろうかな?
まず、お国からは確実にもらう。だって色々私頑張ってるじゃん?
「というわけで、お金ください!」
「とうとう言葉を飾らなくなったな……」
「お小遣い強請るのとは訳が違うんだから……」
二人に向けて手を差し出すと、統理殿下もシオン殿下も苦笑いだ。だけど二人とも、この状況が国益に繋がるのを解っているからか、あからさまに拒否はしない。
そもそもエイルさん達を菊乃井に連れ帰るだけでも、国益には適うんだ。そこに研究費を投下することに否やはなかろう。解ってないのが煩く騒ぐだけ。それも黙らせる算段もあるだろうし。
ただ、あっちもタダでお金を出すわけにはいかない。私から国益に適う何かを出すという言質を取りたいだろう。
にこにこと笑顔を張りつかせて睨み合っていると、ニルスさんが私と皇子殿下方の間で視線をさ迷わせる。
それからおずおずと。
「あの、皇子殿下方は外国の民を閣下が連れ帰ることに、疑問はお持ちにならないので……?」
ニルスさんは皇子殿下方がエイルさん達の素性を知らないと思ってるから、当然の疑問か。
それに対して統理殿下が首を横に振った。
「エイル嬢達は、この国の民と認識されていない、所謂員数外の人々だと聞いた。であるならば、国の構成員としては数えられていない。いないとされている人々が菊乃井に揃って移住しても、誰も何も言えないのでは? それに言い方が良くないかも知れないが、鳳蝶の拾い癖は今に始まったことじゃない」
「そうだよ。人でも何でも、気になったら持って帰っちゃうんだよ。それが仮令、問題を引き寄せることだとしても。君だってそうだろう?」
「あ……」
聞いてて「はぁん?」となる。
つか、ニルスさんは「君も」なんて言われて納得してどうするのさ。
あんまりな言いように眉間にしわを浮かべると、奏くんが肩をすくめた。
「若様の拾い癖って菊乃井民皆知ってるし。人が増えたくらい『またか~』くらいだって」
「そうだよ。ワジュドさんのほねがおにわにおいてあっても、どこかでひろったんだねーでおわるよ。あにうえのすることだもん」
「うん! わかさまのすることだから!」
レグルスくんや紡くんが二人してハイタッチしつつ可愛らしく言ってくれるけど、全く嬉しくないな?
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