人生のうちに何度かある、岩に刺さった選定の剣に渋々手をかける瞬間
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次回の更新は、3/20です。
斯々然々、ああなってこうなってそうなって。
かつてワジュドさんがどこぞの高位の司祭さんと協力して倒したやつの、成れの果てであるイワクツキの骨が呪いを帯びたまま行方不明。
現状有力な行先であるルマーニュ王国は、歴代王家がちょっとおかしいことを繰り返したせいで国中に負の思念が溢れている。更にこの呪いを含んだ病のせいで国際的に孤立して、鎖国のような状態だ。
長きに渡る圧政と呪いの病で集められた負の思念が、出口を失くしてまるで蠱毒の壺のよう。このままではルマーニュ王国の内部に溜まる一方だろう。
イワクツキにはとても良い状況だ。
単なる骨にそんなことが出来るのか?
出来るよ。
私達は死してなお、一族の尊厳を守るために墓を守っていた空飛びクジラの長老の骨の姿を目の当たりにしたんだから。
「……というわけで、そのイワクツキに大変都合のいい方向に転がっています。これで何もないって言うのは、ちょっとこう、楽観的に過ぎるのではないかと」
「せやなぁ。【千里眼】持ちやったら、なおのこと気になるわなぁ」
「なんてこったい。破壊神とやらより強いのが出て来るとなりゃ、卒倒したくもなるよ」
ゆるゆると首を振りつつワジュドさんが、ため息を吐く。まさか彼女も昔遭遇したヤバいのに、何百年も経ってまた話だけとはいえ巡り合うとは思わなかっただろう。誰が予測できるんだ、こんなの。
エイルさんも規模の大きな話に、ついて行けないとばかりに肩をすくめる。
繋がって欲しくない点と点が、状況という線で結ばれていく。
皆、沈黙。
こういうときに明るく「だいじょうぶだよ!」って励ましてくれるレグルスくんでさえ、難しい顔だもん。奏くんなんか、岩の天井仰いでるし。
しぱしぱと瞬きを繰り返すラナーさんがふっと顔をあげた
「戦力が多い方がええねんな?」
「ええ、恐らく」
問いかけに素直に頷く。ラナーさんはそもそも骨に関しては責任を持つと言ってくれている。だから戦力として考えさせてもらってるけれど、他に当てがあるんだろうか?
ラナーさんの言葉を待っていると、彼女は洞窟の奥に顔を向けた。
「鳳蝶はん、知り合いにネクロマンサーとかおる?」
「え?」
思いがけない単語を聞いて、目が点になる。
するとワジュドさんが「ああ」と、ラナーさんが見た奥に顔を向けて、それから「その手があったわ」と呟いた。
にこっとワジュドさんとラナーさんが笑う。
「お母ちゃんのお骨使たらええわ」
「せやせや。ネクロマンサーの魔力で骨の支配さえできれば、生前のうちと同じくらいの立ち回りも出来るやしらん」
「!?」
ざわっと空気が揺れる。
生物は死ぬと魂と肉体に別れる。
魂に宿る強い魔力で肉体から離れた魂を保護して、実体こそないものの強力な魔術を自身の意志で行使できるのがリッチとかレイスだ。これの上位のデミリッチ状態が今のワジュドさん。
魂が切り離された肉体には、生前の意志が残留思念や記憶として僅かに残る。その残った記憶を利用して、骨や死体そのものを動かすのがスケルトンとかゾンビに当たる。
ミイラには魂も僅かながらに残っているので、これはちょっと例外。
ネクロマンシーというのは、強制的に死者の魂を地上に留めたり降ろしたりもできるけれど、そもそもは残された肉体に自身の魔力で糸を繋いで操り人形にする魔術なのだそうで。
自在に死体の持つ記憶を引き出せるかは、魔術師の強さに依存する。魔力量だけあってもダメで、肉体の深層部に眠る記憶にアクセスするための制御こそ命。
なるほど、打開策は手の内に自分から転がり込んで来てたという。
ニコッとこちらも微笑めば先生達のお顔に、同じような笑顔が張り付いた。
その状態でさっきから縮こまっておろおろしているニルスさんに顔を向けると、何故かびくっと肩を撥ねさせたうえに「ひっ!?」と悲鳴を挙げる。なんでかな~?
「さぁて、ニルスさん。喜んでください、出世払いの目途が立ちましたよ」
「ひゃ、ひゃい!?」
「大丈夫。先生はきちんと見つけて来ますからね? 菊乃井留学中に、貴方には一廉以上のネクロマンサーになってもらえればいいだけです。ワジュドさん、ご協力くださいますよね?」
状況が呑み込めなくて、かつての携帯電話のマナーモードより激しく震えるニルスさんの肩をがしっと掴む。絶対逃がすか。
顔色が悪くなるニルスさんを尻目に、ワジュドさんへと問いかける。
ワジュドさんは瞬きを一つして大きく頷いてくれた。
「おばちゃんは構へんよ? 向こうの大陸にこまめちゃんが行くんやったら、他人事やあれへんし」
「わぁ、ありがとうございます!」
「ネクロマンシーの先生もおばちゃんがやったろか? ちょっとだけやったら教えられるで?」
「そうなんですね! 助かります! 流石ラナーさんのお母様、頼もしい!」
パチパチと拍手すれば、レグルスくんや奏くん紡くんも拍手。皇子殿下方や識さんノエくんもちょっとホッとしたような顔で手を叩く。
先生達は苦笑いでニルスさんを見てるけど、彼は手を祈るように組んでガクブル。震えるままに「何故ですか?」と蚊の羽音くらいの小さい声で問うてきた。
何故って、決まってるだろう。
「力なき理想は、単なる妄想でしかないからですよ」
「……っ」
ニルスさんには思い当たるところしかないはずだ。痛いだろうなと思いつつ、そこを突く。
よく考えてみてほしいんだけど。
ルマーニュ王国に骨があって、私の【千里眼】が掴んだ流れになったら、まず間違いなく厄介な化け物がルマーニュ王国の民、ひいてはユレンシェーナ伯爵家の民達に牙を剥く。
そのときに、例えばルマーニュ王国が帝国に救援を要請しても、その救援が辿り着くまでに民達を逃がすための戦力が必要だ。
けれど、ルマーニュ王国に骨がなくて、すべてが私の杞憂だった場合にも戦力はいる。
だってもうクーデターか革命かどちらかは定かでないけれど、衝突は避け得ない状態になっているのだから。
そもそもニルスさんが実家にいられなくなったのだって、一触即発状態でどの勢力が優勢になるかがユレンシェーナ家の動向にかかっているからだ。
そんな話をすると、ニルスさんの目が揺れた。
「イワクツキに対応するのは分かります。しかし、クーデターなり、革命なりのときは……」
「なにも兵士や武力蜂起した民達に力を向けろとは言いません。強い力はあるだけで抑止力になる場合が多い。それにワジュドさんには申し訳ないですけど、骨です。攻撃されても防御しているだけ時間は稼げるし、万が一撃破されても死者は出ない。ワジュドさんの骨を囮や盾にしている間に、貴方も民も逃げりゃいいんです」
「それは……、それでいいんですか?」
ニルスさんの声が驚きに大きくなる。
それにワジュドさんが「生きてるもんが優先や、好きに使い」と頷いた。
ワジュドさんにお礼を言って、ニルスさんと向き合う。
「それが出来れば重畳じゃないですか。何も出来ないまま蹂躙されるのとは雲泥の差です。どちら側に付くにせよ、貴方がせめて自領の民だけでも戦火から守りたいと思うのであれば、貴方自身が色んな意味で強くなるしかない。ネクロマンサーとしての技だけでなく、得た力の大きさや強さに溺れることなく自分を律せられるように」
力を持つ者は持っていても使わない選択ができるけど、ないものはその選択すら許されない。だから力なき理想は妄想でしかないんだ。
ニルスさんが自分の手を見つめる。
皇子殿下方や識さんやノエくん、レグルスくんや奏くんや紡くんも、何となく手を握ったり閉じたりをしていて。
力があるってことは、必ずしも良いことじゃない。
だけど無いよりはあった方が、困難を乗り越えられる可能性が高まるし、選べる選択肢が増えるんだ。
それに、私達は身をもって知っている。
力があっても行使しない自由も、力がなくて選びとれる選択肢の狭さに対する苦しさや苛立ちも。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




