繋がって欲しくない所で繋がるイワクツキの輪
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次回の更新は、3/16です。
まだ沢山あるからと、星の如くキャンディの包みを降らそうとするワジュドさんをエイルさんが止める。
「あんまり一度に沢山渡されても、食べきる前にカビるか虫歯になっちまうよ」
「そうかいな? ほな家族に持って帰ったらええやん?」
「そうだね。でもあんまり沢山はやっぱり駄目だよ。家族さんも虫歯やら病気に気を付けないと」
「ほな、このくらいにしとこか」
キャンディの雨は結局、私達のポケットに収まるくらいで止んだ。
これならロッテンマイヤーさんや家で待ってる皆に渡しても、まだ余るだろう。お礼をいうと、ワジュドさんが「どういたしまして」と首を横に振った。
で、話が元に戻るんだけど。
エイルさん達の確認したいことっていうのは、ワジュドさんの安否。それ次第で頼みたいことがあるとも言ってたはず。
それを聞くと、エイルさんが頷いた。
「頼みたいことは、若様と一緒に行っても、夏になったらまたここに来たいってことさ。おばちゃんはあたいらにとって、心の拠り所みたいなところがあるから」
「こまめちゃん……」
エイルさんがワジュドさんの足に、手を添える。
エイルさんにとってワジュドさんは、肉親のような存在らしい。
彼女のお母さんが幼い時に、ワジュドさんの足に付いた微小の……ドラゴンにとっては蚊に刺された程度の傷を、その稚い手で震えながら手当をしたのが切っ掛け。
それ以来ずっとワジュドさんはエイルさんのお母さん……おまめちゃんとその娘のこまめちゃん、彼女達の家族である一族を気にかけて見守ってきたという。
別れは寂しいものだけど、はて?
「え? お別れしないといけないもんです?」
うっかり疑問が口から転び出る。
それにレグルスくんと奏くんが頷いた。
「いっしょにいけないの?」
「デミリッチって、物に憑いてるならそのものを動かすことで移動可能だよな?」
振り返って先生方に尋ねると答えは是。
だって一昨年はそれで大変なことになるところだったんだから。
イワクツキの鏡のせいでデミリッチ化したなら、その鏡を菊乃井に持っていけばワジュドさんはエイルさん達と一緒に菊乃井に来られるはずだ。
そう言えば、皇子殿下方が顔色をさっと変えた。
「そうは言っても、デミリッチだぞ? ワジュド殿がラナー嬢と同じく人と親しく出来るお人柄であっても、いつ何時悪霊化するか分からないのに」
「そうだよ。君が何でもかんでも拾って帰るタイプでも、こればっかりは認められない」
統理殿下もシオン殿下も厳しい顔だし、ニルスさんも青褪めている。
だけど、だな。
「じゃあ逆にお尋ねしますけど。このままお別れして、何かまた別のイワクツキやら呪いが出現してワジュドさんの意識が乗っ取られたら? その方がもっとヤバいと思いますよ。その点、うちの領地なら新たな呪いだのイワクツキだのが現れても、あっちが大急ぎで逃げ出すんじゃないですか? うち、今、ちょっと様子のおかしい領地だから」
「う゛」
「あ゛」
「それにワジュドおばちゃんが昇天できなかったのがエイル姉ちゃん達のことが心配でって理由なら、傍にいた方が安心して昇天できるようになるんじゃねぇの?」
奏くんの援護射撃に皇子殿下方が沈黙する。
すると黙って聞いてたラナーさんが「ええんちゃう?」と首を縦に振った。
「全盛期のお母ちゃんやったら多分ロマノフはんでも無理やと思うけど、今のお母ちゃんやったらうちと鳳蝶はんらのパーティーで止められるし。大丈夫ちゃう?」
「せやなぁ。昔のお母ちゃんやったらいざ知らず、今のお母ちゃんやったらアンタらでも何とでもなるわな。いつ消えるか分からんのやったら、こまめちゃんらと一緒におりたいし」
こくこく首を上下させるドラゴン母娘に、笑顔が張り付く。
薄々解ってたけど、死んでもデミリッチをパシリに出来るドラゴンが弱いわけがない。大体ラナーさんが言ったじゃないか、全盛期のワジュドさんは今のロマノフ先生より強かったって。
今のロマノフ先生は私達と同じく、神様からの頂き物で大分と強化されているのにも拘わらず、だ。
もしもエイルさん達と出会わず、彼女達が件の病気に感染して儚くなっていたらと思うとぞっとする。
ワジュドさんの異変を知る者が誰もいなくなることに加え、彼女達を失ったワジュドさんがデミリッチに乗っ取られたり闇落ちしたりとかで、破壊神が解き放たれる以前に、ディザスタークラスのドラゴンのデミリッチがこの世に爆誕してたかも知れないんだ。怖すぎる。
それに、だ。さっきからちょっと気になることが、頭に浮かんでいる。
かつてワジュドさんが倒し、ラナーさんが探しても見つけられなかった、とびきりのイワクツキの骨のことだ。
まだニルスさんのお家からの調査報告はない。頼んだばかりだからな。
だけどこの手の予感は、本当に嫌になるくらい当たってくれるんだ。どうせなら宝くじ当ててくれよ、買ってないけど!
私は「つかぬことをお伺いしますが」と、ワジュドさんに声をかけた。
「ラナーさんが向こうの大陸に縄張りを持つ切っ掛けになった、奇妙な骨のことを覚えておいでですか?」
「うん? 覚えとるよ?」
「あれって、全盛期のワジュドさんでも苦労するものですか?」
「あー……恥ずかしい話やけど、全盛期やったら司祭さんのお力借りんでも、灰も遺さんと焼き尽くせたと思うわぁ」
ワジュドさんは首を捻って、目を伏せる。
その恥ずかしがる雰囲気からして、例の骨の主は往年の彼女よりずっと弱いということだろう。それでも、ワジュドさんは私達フォルティスとラナーさんの合同パーティーくらいの力はあるのだ。
「なるほど。では、今ならば?」
「うーん、そやねぇ。おばちゃん、あの頃からそない力は落ちてへんし、誰か高位の司祭さんが手ぇ貸してくれたら大丈夫やと思うけどなぁ」
骨の主がもし蘇ったとしたら、その程度の力があると仮定したほうがいいだろう。けれどそれが最低値だ。
ルマーニュ王国で怨嗟や嫉妬などの負の思念がどれだけ積まれて、そこから力をどれだけ得たのか。
それによっては下手すると私達フォルティスすら勝てない相手、先生達が出陣しないといけないような敵がお出ましになるということ。最低最悪だと、先生方でも苦労するようなのが出る可能性も……。
吐きそう。胃の内容物とか胃液通り越して、内臓とか魂とか、全部吐きそう。
さっと血の気が引いて、指先が冷えていく。
そんなものに、勝てるのか?
「あにうえ!?」
「若様!?」
レグルスくんとエイルさんの声が遠い。けれど冷たくなっていく指先を、左右から取られてハッとする。
片方はレグルスくん、もう片方はエイルさん。
何だか背中も温かいと思ったら、奏くんとロマノフ先生の手が触れていた。
ヴィクトルさんやラーラさんも、私を支えるべく手を伸ばしてくれている。紡くんや大根先生や識さんやノエくんもだし、皇子殿下方も。
大丈夫だ、立て直せ。
エイルさんが脈を計るように手首に触れて、私の顔色を確認する。
それに首を横に振った。
統理殿下が私の肩に触れる。
「【千里眼】の効果か?」
「分かりません。でも本当に骨がルマーニュ王国にあるなら、やはりワジュドさんには菊乃井に一緒に来てもらった方がいいです。戦力は多い方がいい」
「……ルマーニュ王国でどれだけの負の思念を飲み込んでいるか、それ次第で最悪ディザスタークラスの化け物が目覚める、と?」
断定は出来ないけど、恐らくは。そしてそれはディザスタークラスの中でも、間違いなく最悪の部類だ。
呑み込んだ言葉を察したのか、統理殿下がシオン殿下と目を見合わせた。そして二人して大きな息を吐く。
そんな私達のやり取りに、ワジュドさんが口を開いた。
「どういうことやの? おばちゃんに分かるように説明してくれる?」
口調こそ柔らかではあったけれど、彼女の表情には犯しがたい威厳のようなものが滲んでいた。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




