おばちゃんって大概飴ちゃん持ってるよね……。
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次回の更新は、3/13です。
だだっ広い洞窟の地面に持って来たラグを拡げ、クッションを幾つか置く。
次男坊さんから貰ったちゃぶ台をラグの上に設置すると、エイルさんが凄く上等なお茶セットでいれた薬草茶を全員の前に置いてくれた。
「こまめちゃん、お茶たった?」
「うん、ギリギリ。また補充しとくよ」
エイルさんの言葉に、ドラゴンがゆったりと首を横に振る。
「おばちゃんも、今回はなんとかなったけどいつまでこうしてられるか分からんよって」
「そんなこと言わないでおくれよ。皆、本当におばちゃんに会いたがってるんだ。今回はどうなるか分からないから、あたいが代表できただけでさ」
エイルさんの呼びかけで親子喧嘩が休戦した後、すぐに私達は山頂の洞窟へとお邪魔した。そこにはラナーさんと、やっぱり青い鱗がほんのり透けてるドラゴンがいたわけで。
感極まったようにエイルさんが「ワジュドおばちゃん!」と叫び、同じくドラゴンも「こまめちゃん!?」と、感動の再会を果たしたんだよ。私達は正直、何が何だかだけど。
それでラナーさんに説明を求めたところ、ラナーさんの嫌な予感というか「イワクツキ」が悪さをしていたのが当たっていたという話を聞かされた。
「ほんま信じられへん。オカンが前……逝んでまうちょっと前やったっけ? 何処かの遺跡で拾った鏡にデミリッチが憑いとったんやて」
「ははぁ」
ラナーさんがお母様から聞いたことによると、そもそもワジュドさんが幽霊と言うか霊体化、より正確にいうとデミリッチ化しちゃったのは、その鏡についていたデミリッチが依り代を求めてのことだったそうな。でもディザスターなワジュドさんの方が精神力も魔力も上だったため乗っ取りが出来ず、ワジュドさんの魂を地上に霊体として留めるだけに終わったんだって。
まあ、ワジュドさんも地味に未練……エイルさん達一族の行く末が気になってて、昇天して輪廻の輪に入れなかったのも要因らしい。
で、デミリッチとドラゴンの霊体の妙な従属関係……デミリッチより霊体でもワジュドさんが強くて、パシリにしてたという。つおい。
そういう関係を築いていたんだけど、この均衡がちょっと前からこっちの大陸にやって来た呪いを含む病のせいで崩れたのだと。
呪いと、病に罹った人から生まれる負の思念が、鏡に憑いていたデミリッチに力を与えた。それでデミリッチがワジュドさんへと反旗を翻し、ワジュドさんはそいつを抑えるべく孤軍奮闘していたそうな。
エイルさん達に「来るな」って言ったのは、エイルさん達を人質に取られたら、ワジュドさんは手も足も出せなくなるから。
でもその攻防戦が、ちょっと前に突然終わった。
ルッジェーロ山全体が強烈な解呪と浄化の神聖魔術に包まれ、デミリッチが呆気なく消滅したんだって。ええ、覚えがありますとも。
ワジュドさんは鏡のせいでドラゴンでありながらデミリッチ化しちゃったわけだけど、彼女には負の思念による魂の汚染がなかった。だってあるのは単にエイルさん達への心配だもん。
結果、神聖魔術の浄化対象及び討滅対象にならなかったのだ。そして今ここ。
話を聞いたラナーさんは怒った。
「うち、アレ、オカンが拾てきたときに『捨てときや』って言うとったんやで!? それをホンマ『はいはい』言うて聞き流して! もうちょっとで大惨事やったやんか!」
「あー……ねー……」
としか言えないよ。
一緒に話を聞いていた先生方とレグルスくん奏くん、皇子殿下方にノエくんと識さん、ニルスさんも微妙なお顔ですわ。
大根先生と紡くんは「ドラゴンでデミリッチになるとは、初めての例では!?」とか、ワクワクドキドキしてるけども。
これで私、デミリッチ討伐二回になるのか。今回は紡くんがちょっと微妙だけど、奏くんにも討伐判定が出るだろう。
菊乃井に帰ってから、冒険者ギルドでチェックしてもらおうか。ローランさんが遠い目になるだけで済むといいな……。
それは今はいい。
危機を脱したワジュドさんは、その元凶である鏡を探して塒をひっくり返していた。
そこにラナーさんがやって来て、「お母ちゃん、何で幽霊になっとんの!?」「実はかくかくしかじか」という会話があって、更に「だから日頃からの整理整頓がいるんやろ!?」「あー、もう! 解っとるがな!?」というアレでヒートアップして親子喧嘩に至ったそうな。コントかな?
地形が変わる前に喧嘩が終わることは稀らしいので、マルフィーザやこの周辺の人達のためにも親子喧嘩を休戦に導けたエイルさんは褒められていい。あとで讃えておこう。
それで、だ。
エイルさん達の「ワジュドさんの安否を確かめたい」というお願いはここに叶ったわけで。
それをエイルさんに聞けば、彼女の目線が地面に落ちた。それから暫く地面を見つめていたエイルさんだけど、意を決したように顔をあげるとワジュドさんに向き合う。
「あのね、おばちゃん」
きゅっとエイルさんが拳を握った。
その緊張の滲む面持ちに、ワジュドさんが大きな首を「どないしたん?」と優しく傾げる。
「あの、あのね、あたい達……この大陸を出て、海の向こうの若様の領地に行こうと思うんだ」
「え?」
ワジュドさんが首を、エイルさんの隣にいた私に向ける。
爬虫類のような独特の虹彩に、私を計るような色が浮かんだ。それと同時に『主様、今無効化したの鑑定魔術ですよ~』とかいう、夢幻の王の呑気な声が脳裏に響く。
ワジュドさんがほんの少し目を眇め、ワジュドさんの傍にいたラナーさんがくわっと吼えた。
「お母ちゃん、何しとんの!? 勝手に鑑定とか失礼やで!?」
「そうかて……。あんたの友達いうんは聞いたし、あんたがここに連れてくるんやから悪い子ぉやないんやろうけど、こまめちゃんらのこと考えたらちゃんと守れるだけの力がある人やないと」
ワジュドさんがしれっと答える。
ここに来たときに、ラナーさんは私達を信頼できる友人だと、お母様に紹介してくれた。それに関してワジュドさんは疑うことなく受け入れてくれたみたいだけど、エイルさん達一族の保護が出来るかどうかに関しては疑問があったらしい。
でも今私はワジュドさんの魔術を無効化してみせた。
ワジュドさん的にはラナーさんに鑑定魔術を使ったことを見抜かれたのは想定の範囲内だけど、私に魔術を弾かれたのは予想外だったらしい。ちょっと驚いたそうな。
「こまめちゃんもおばちゃんからしたら赤ちゃんやけど、それよりもっと小さいのに魔術が上手なんやねぇ」
「ありがとうございます」
「ちゃんとお礼も言えるやなんて、賢いなぁ。可愛らしわぁ、お菓子いる? それともピカピカ光る石あげよか?」
私やレグルスくん、奏くん紡くんだけじゃなく、ノエくんや識さん、皇子殿下方にニルスさんの前に、ワジュドさんがパラパラと光る石と丁寧な包み紙に入ったお菓子らしきものを落としてくる。
光る石の方は物凄い魔力を感じるので魔宝石なんだろうけど、問題はお菓子の方だ。一目見たヴィクトルさんがお茶を噴いた。
「そ、それ、帝国歴元年に亡くなった世界一の菓子職人ジャン・ポール・マルコリーニの、幻のキャンディじゃないか!? しかも、可食って!」
「うん? 怪我して動けんようになってたんを助けた菓子職人のお兄ちゃんが、死ぬまで毎年くれたやつやで? マジックバッグの中に入れとったさかい腐ってへんよぉ」
ニコニコとワジュドさんが笑う。
時間感覚が違い過ぎると思いつつ、手の平の上の五つほどある包みの中の一つを剥がしてみた。
綺麗なティアドロップ型のオレンジの粒で、香りもオレンジの爽やかさ。
口に含むとオレンジの少しの酸味と甘みがで、口の中がとても幸せに満たされた。
お読みいただいてありがとうございました。
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