オタク流芋づる式調べ物癖の面目躍如
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次回の更新は、2/23です。
というわけで翌日。
魔女と呼ばれた人達の末裔を菊乃井に連れて帰る話自体は皇子殿下方も知ってるんだけど、その事をニルスさんには知らせてない。
なので皇子殿下方と一緒に行動するのはちょっと不自然。それを踏まえて、皇子殿下方には一度帝都に戻っていただいた。
夏休みの件、まだドラゴンのラナーさんのお母様の墓参りが済んでない。それにも同行したいって言うから、陛下や宰相閣下に破壊神討伐の顛末を報告しに一度帰って、もう一回合流ということに。
報告自体は後でもいいんだけど、とりあえず国宝を持って帰ってもろて。
統理殿下の持って来た「パンタ・レイ」は初代皇帝陛下の佩剣で、立太子の時に次の皇帝になるべき人、つまり皇太子に渡される。
立太子すべき皇子がまだいないときは、当然陛下の佩剣と言う扱い。そして親征のときには必ず佩いて行かれる物だ。
本当ならまだ統理殿下じゃなく、陛下の御剣なわけよ。そんな物、ホイホイ持って歩かれても困る。
シオン殿下の佩いてこられた「カレパ・タ・カラ」も、立太子の折に皇太子にならなかった皇子に下賜されるもので、臣籍降下の際に返還するまではその皇子の佩剣になるってやつ。こっちもいずれはシオン殿下の物ではあろうけど、今は違うんだから仕舞って来てほしい。
それでエイルさんのお里にお邪魔することになったのが、私、レグルスくん、奏くん紡くん兄弟、それから先生方にニルスさん。
ノエくんや識さんもエイルさんは来ても構わないって言ったんだけど、ドラゴニュートの村長のことがあるので大根先生と一緒に行くことに。
識さんから爽やかな笑顔で「顔見たら半殺しで収まる気がしない」という自己申告があったのと、その識さんの宥め役にノエくんが回ったから。いやー、識さんの怒りが深い。逆にノエくんは「識がオレより怒ってるから、なんかもういいかな……って」という感じ。
大根先生は皇子殿下方を連れて帝都に戻って、ついでに菊乃井にも顔を出してくれるそうな。
馬車にごとごと揺られて一路、私達がいたアルチーナの谷の反対側の裾野へ。馬車にごとごとっていうと、子牛が売られていく歌を思い出すのは何なんだろう。
着いたのは本当に森の中で、大小の差はあれどエイルさんのと同じく家屋式馬車が群れのように並んでいた。
可愛く飾りたてて、旅の人形劇一座っぽく見えるのもあれば、踊り子さんや占い師さんがいそうな物もある。
共通点がまるで無さそうな雰囲気は、恐らく一族としての繋がりを消し去ろうとしてのことなんだろうな。
迫害の痕跡に、大きなため息が出そうだ。
前を歩くエイルさんに続いて、ほんの少し開けた場所に進む。
馬車は思い思いに止められていて、中に人がいる気配がするんだけど誰も出てこない。そりゃそうだな。一族で移住を検討してくれてるって言っても、私も為政者。皆さんのトラウマを抉る存在ではあろう。
暫くすると一際大きな、多分大家族向けのルーロットなんだろう。そこから二人の人物が姿を現した。
一人はエイルさんと似たような歳かなっていう女性。その人が、もう一人の、こちらは白髪交じりの背の低い年配の女性で、その年輪のようなシワに生きるためにした苦悩が刻まれているみたいな。
その人の前に来ると、エイルさんが横に退く。
「よくきてくださったねぇ……」
「お招きありがとうございます。大所帯での訪問の無礼、お許しください」
「なんのなんの。本来なら訪ねていくべきだなんだろうけど、あたしも年だし、何より集落をお見せするのが誠意になるかと思ってねぇ」
「麒凰帝国菊乃井侯爵家当主鳳蝶、皆さんの誠意を心よりありがたく受け止めております」
胸に手を当て深々と頭を下げると、横にいたレグルスくんも同じように頭を下げる。
この人達を菊乃井に迎えたいのは私の方なのだから、礼は尽くさねば。
そんな訳でこちら側の自己紹介をしてから、エイルさん側の番。
エイルさんが老年のご婦人に「長老」と呼びかけた。
それに老年のご婦人が応える。
「あたしは『コーラ』のリヴ。この集落で一番の老いぼれさ。お蔭で長老なんて言われてるのさ」
「コーラ……」
ざわっと背後が揺れる。
コーラっていうと、菊乃井じゃアレだもんね。
そんな私達の様子を興味深そうにしつつ、リヴさんは彼女の後ろに控えているもう一人の女性を振り返った。
「こっちが『オピュクス』のエムブラさ。さて、あたしたちの家系が何を担うか、お分かりかい?」
おっとりとした言葉とは裏腹に、リヴさんの眼光は何かを見定めるように鋭い。
だいたいの見当は付いている。それが当たっているかどうかを確認しようとする前に、奏くんが「質問!」と手を上げた。
「あのさ、リヴ婆ちゃん。婆ちゃんのコーラって異世界の飲み物であってる?」
「うん? ああ、よく知ってるね。渡り人だった我らが大母様の好きだった飲み物だよ」
その答えを聞いた途端、にまっと奏くんが笑った。ナイス、アシスト。
ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんの興味深そうな視線がざくざく刺さってくる。
まあ、アレだ。「オピュクス」の方も実は思い当たる物があるんだけど、そっちの説明をするより、奏くんに乗った方が分かりやすい。
笑顔のまま、私はリヴさんの質問に答える。
「リヴさんの家系が薬師で、エムブラさんが医師ですね?」
「おや、まあ。お前様の祖母様はそんな知識も遺していたのかい?」
「ああ、いえ。こっちは……」
どうせ菊乃井に来たら分かるんだ。話しておこう。
菊乃井の産物、コーラの話だ。
去年の夏にスパイスハンターであるジャミルさんが、次男坊さんから「スパイスを使った飲み物ある」と教わってきたのが切っ掛けで作ったアレ。
前世で作ったクラフト・コーラを再現してみたんだけど、そのコーラの原型を作ったのが薬剤師さんだったはず。
リヴさんが薬剤師、つまり薬師であるなら、消去法でエムブラさんが医者の家系で間違いないだろう。
そんな連想ゲームを話せば、エイルさんが苦笑する。
「あたいのロシニョールのときもだけど、本当によくそんなこと思いつくよね」
「まあ、先にコーラを知ってたのが大きいですね」
他にもう一つ、決め手はあった。「オピュクス」のことだ。
親友・田中が再放送を見てハマったアニメなんだけど、星座モチーフの鎧を纏って戦う少年達の話の中に出て来たんだよね。
田中がそのアニメの主人公のコスプレをしたいって言うから頑張ってアニメを制覇したんだよ。主人公の師匠のライバルかつ主人公に想いを寄せる女性キャラが「オピュクスのなんとか」って呼ばれてて、星座が蛇使い座だった。
そして蛇使い座の神話にはギリシャ神話の医学の神・アスクレピオスが関わっている。
であれば、エムブラさんの「オピュクス」は医者の家系ということになるんじゃないかな、と。
なんでそんなの覚えてるのかって言われたら、死んでも忘れないくらいには楽しかったからだろう。
とはいえ、こっちを明かす気はないけど。
因みにこっちの世界には、黄道十二宮的な星座はあったと思うけど、前世とは別物だし、蛇使い座はない。
私の答えは正解だったらしく、リヴさんもエムブラさんも「エイルの言ってたとおりだ」と笑う。
ちょっと雰囲気が柔らかくなったところで、込み入った話になるのでと場所を移動することに。
一族の長で、調薬の大事な部分を司るリヴさんの一際大きなルーロットへと案内された。
彼女の馬車は花売りのそれに擬態していて、ドライフラワーの束が天井から垂れ下がっている。これも薬を作る際に使う薬草の束を乾燥させているらしい。
全員がリヴさんの馬車に乗り込むと、エイルさんがお茶を出してくれた。ハーブティーだそうで、微かにレモンの香りがする。
一息吐いたところで、リヴさんが切り出した。
「実はお前様方を見込んで、頼みがあるんだよ。このエイルと一緒に、ルッジェーロ山の山頂近くまで行っておくれでないかい?」
物凄く悲壮そうなリヴさん達の雰囲気に、私の頭にハテナが浮かんだ。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




