SS3『男子の事情』
ある日。
雅ヶ丘高校、とある教室にて。
「どうも、センパイ。お疲れ様です」
「なんです、日比谷康介くん」
「今日はちょっと、センパイのその……力を、お借りしたい案件がありまして」
「はあ」
「……それが……とても、言い出しにくいことなのですが」
「?」
「エロ本を」
「???」
「エロ本を、大量に確保したいのですよ」
「??????」
「そういう顔をされるのはわかります。俺もまさか、センパイにこんなことを頼む日がくるとは、思ってもいなくて……」
「私もまさか、そのようなことを頼まれる日が来るとは思ってもいませんでした」
「で、でも、わかってください、センパイ。我が校の男子生徒は、もう爆発寸前なのです。辛抱たまらん状態なのです」
「知りませんよ。自分で処理しなさいな」
「男はね、そういう欲望の処理に、材料が必要なんです」
「うーん……」
「何にせよ、あんまり欲求不満の状況で放っておくと、余計な暴力沙汰のきっかけにもなりかねません」
「エロの供給不足でコミュニティ崩壊、ですか。ちょっとした喜劇ですね」
「悲劇ですよ。こんなくだらないことで争いになるなんて」
「”くだらない”自覚はあるんですか」
「もちろんです。俺だって、みんなの代表じゃなけりゃ、こんな恥ずかしいこと、センパイに頼みません」
「まあ、あなたには麻田梨花ちゃんっていう、素敵な恋人がいますしね」
「いやいや、それとこれとは別腹……」
「――は?」
「いや! 俺はね、まったくもって必要としてないんですけどね! みんながね!」
「ふーん」
「……そんな目をしないで下さいよ」
「ちなみに、そこまで言うからには、その、――物資がある場所の目星はついてるんでしょうね?」
「もちろんです。駅前にある古書店屋で、路地裏で隠れてわかりにくいところなんですけど、これがなかなか、通な品揃えなんです」
「ずいぶんお詳しいことで」
「もちろん、聞きかじりの情報ですよ? 俺には、愛する人がいますから」
「…………ふーん」
▼
後日。
同教室にて。
「いやあ、先日は見事なお手並みでした! 波のように押し寄せる”ゾンビ”の群れを、ちぎってはなげ! ちぎってはなげ!」
「……なんだか私、彼氏持ちの女生徒全員を裏切ったような気分なんですけど」
「とんでもないですよ! むしろ逆です! センパイのお陰で、我ら男子は皆、聖人のような気持ちで異性と接することができるようになりました」
「なら、いいんですけど……」
「ちなみに、集めた蔵書は、『猥褻図書館』と名付けた女人禁制の秘密部屋に隠してあります。女子には決して知られることはありませんので、ご安心を」
「共犯者に仕立て上げられた感がすごい」
「しかし、――まさか、あの伝説の『後ろからどうぞ』の九巻が手に入るとは……」
「なんです、それ」
「エロ本の最高傑作です。我々の間では、伝説となっている一冊なんですよ」
「……ああ、……そう」
「それに、見てください! これなんか、とある超有名作家のエロ漫画家時代の一冊で、『淫魔の乱……」
「あっ、ごめんなさい。興味ないです、どうでもいいです」
「――そうですか? でもこれ、すげぇプレミア品らしいっすよ」
「もう一度いいます。興味ありません」
「でもせっかくですし、この機会にご一読……」
「脛を、蹴っても、よろしい?」
「あ? ははは、失礼。……ついつい早口になってしまって」
「ねえ、康介くん。さっきからあなた、正体現わしてない? やっぱりあなた、自分の欲望のために私を利用したのでは?」
「いやいや、とんでもないっす! 俺は、みんなに言われて仕方なく……」
「ふーん。どうだか」
「でも実際、センパイには感謝してます。生徒の中じゃあ、状況が落ち着くまで、そういうことは絶対しないって決めてるカップルもいますから」
「まあ……この状況下ではいろいろと……リスクが大きい行為、ですからねえ」
「だから、みんなに替わって……本当に本当に、ありがとうございましたっ!」
「そんな、丁寧に頭を下げないでください」
「ところで!」
「は?」
「……その。今回とは別に一つ、新しい依頼が」
「???」
「実は、ですね。猥褻図書館を利用した、年配の皆さんの要望がありまして」
「??????」
「もっとこう、熟女系のジャンルは充実しないのか、と」
「????????????」
「それで俺、考えたんです」
「?????????????????????????」
「駅前にもう一軒、その手のエロが充実している本屋がありまして。そこにまた、探索班を送ろうかな、と。……ねえ、センパイ。その時また、護衛していただくことは……」
「……………――《ファイアーボール》」
「あの、センパイ? なんでその……、火系魔法を……」
「――知るかっ! 勝手になさい!」
「わああああああああ熱ッ! 熱熱熱ッ! し、失礼しましたぁ!」




