予定
夏休み前日に入りみんな嬉しそうだった。
海に行こうと言っているカップル。
家でみんなでいっしょに宿題をしようという女子たち。
ゲーセンで遊ぼうと騒ぐ男子たち。
――俺は、中学の時から仲が良い片想い中の親友、
すみれに来週ある花火大会に誘おうとしていた。
すみれは友達と楽しそうに話していた。
「ねねすみれ、明後日さ川で遊ばない?」
「うん、いいよ。あそぼ。」
「やった。じゃあ約束ね。」
そして、友達と話し終わってぶらぶらと歩いていたすみれを見つけた。
「あ、いた。すみれー!」
「んー?なにー?」
俺の声を聞いたすみれが小走りでこちらに駆け寄ってくる。
「来週、花火大会あるだろ?」
「あー、うん。いいよ。」
「え?」
思わず俺はぽかんとした顔を浮かべる。
「だってこの話し方、一緒に行こってことでしょ?」
「あ、…うん。」
「やっぱそうじゃん。全然いいよ?」
俺は、そこで告白することを決めていた。
夏の熱気をはらんだ風が、校舎の廊下を通り抜けていく。
周りの騒がしさが、急に遠くなった気がした。
心臓が、耳のすぐそばでうるさいくらいに鐘を鳴らしている。
「全然いいよ?」と無邪気に笑うすみれの顔が眩しい。
(……まじか。こんなにあっさり決まるなんて)
誘うだけで心臓が破裂しそうだったのに、彼女は俺の意図を完全に先回りしていた。
しかも、断る選択肢なんて最初からなかったみたいに当たり前のこととして受け入れている。
「あ、ありがと。じゃあ、当日は……」
「あ、でも待って」
すみれが人差し指を立てて、いたずらっぽく笑った。
「あんた、まさか私服で来ないよね? せっかくの花火大会なんだから、ちょっとは気合い入れなさいよ?」
「う、うるさいな。一応これでも考えてるよ」
「ふーん? じゃあ楽しみにしてる。あ、待ち合わせは夕方のコンビニ前でいい?」
「遅れるなよ?」
「遅れるわけないじゃん! 楽しみ。」
そう言って手を振るすみれの背中を見送りながら、俺は深く息を吐き出した。
その次の週の花火大会、すみれは来なかった。
鳴り響く花火の爆音。
周りの幸せそうな歓声。
握りしめたままのスマホ。
既読すらつかない連絡。
ぽつんと一人で突っ立っている自分。
寂しさ、怒り、心配が混ざったぐちゃぐちゃな感情を心の奥にしまって、俺はひとりで花火を見上げた。




