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アネモネ  作者: 宮っぴー
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6/9

ハサミ

高校の屋上は昼休みになると少し騒がしく、少し静かになる。

風が抜けて遠くの校庭の声がぼやける。

翔真は柵にもたかかっている。

呼び出したのは自分だ。

少し遅れて足音が聞こえてくる。


「…なによ、急に」


恵梨が来てくれた。

約束通り。


いつも通りの顔。

いつも通りの距離。


なのに今日は違って見えた。

翔真は一度だけ息を吸う。

家で何度も練習したはずの言葉なのに喉の奥からつっかえる。

それでも、言うしかなかった。

ここまで来たなら。


「俺さ」


恵梨が首をかしげる。


「恵梨のこと…が、好きだ」


風が一瞬だけ止まった気がした。

恵梨は瞬きをする。

すぐには返事がない。

翔真は逃げなかった。

逃げたくない。

恵梨は小さく息を吐いた。


「……ほんとに?」

「うん」


こくりと頷く。

恵梨は頬を赤くしながら視線を少しだけ逸らした。


「そっか」


それだけだった。

拒絶でも肯定でもない声。

でも翔真にはそれで十分だった。


「返事待ってるから。」


そう言って、屋上の扉へ歩き出す。


その日の放課後、教室はいつも通りだった。

黒板の文字も笑い声も全部いつも通りで。

その中でいつも通りじゃない恵梨は一人で窓際に立っていた。

何度もスマホを見て、また伏せる。

呼び出されていたから来ただけの場所。

そう思っていた。


「恵梨。」


後ろから声がした。

そこにいたのは瑠花だった。

幼なじみでよく翔真の話をしていた子。

いつも少しだけ、笑いながら。


「さっきさ」


瑠花は、少しだけ笑う。

でもその笑い方は、いつもと違った。


「翔真になんか言われた?」


恵梨は一瞬止まる。

そして頷いた。


「うん」

「そっか」


瑠花はそれ以上聞かなかった。

聞けなかった。

沈黙が落ちる。

窓の外では、部活の掛け声が響いている。

やがて、瑠花がぽつりと言う。


「……いいなぁ」


その声は冗談みたいに軽かった。

軽すぎて逆に重くて怖かった。

恵梨は何も返せなかった。

ただ、胸の奥が少しだけざわざわとする。


翌日。

翔真は屋上に呼び出された。

今度は、恵梨の方から。


昨日と全て同じ。

ただ違うのは空気だけだった。

恵梨は立っている。

少しだけ視線を落として。

そして、ゆっくり顔を上げた。


「……あのさ」


翔真は待つ。


「私ね。」


言葉が途切れる。

一度、息を吸う。

そして。


「私も――」


教室の窓際で瑠花はカーテンを握っていた。

視線の先は屋上。

誰がいるのかなんて見えない距離。

でも、分かってしまう。

何が起きているかなんて簡単に。


「……え?」


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