余白
付き合って三ヶ月。
最初の頃は、どんな日でも連絡があった。
「おはよう」
「今日会える?」
画面の向こうに、ちゃんと彼がいた。
それがいつの間にか、少しずつ減っていった。
「今日バイト忙しいかも」
そう言われる日が増えた。
忙しいなら仕方ない。
そういうことにしていた。
思うことでしか、納得できなかった。
会える回数も減った。
週に一度だったのが、二週に一度になり、そのうち予定は「また今度」に変わった。
それでも、会ったときは変わらなかった。
笑ってくれて、手をつないでくれて、少しだけ頭を撫でてくれる。
その時間だけは、前と同じだった。
だから、まだ大丈夫だと思っていた。
ある日。
待ち合わせの時間が過ぎても、彼は来なかった。
「ごめん、今日無理になった」
短いメッセージ。
理由はなかった。
「わかった。」
それだけ返した。
送信したあと、少しだけ画面を見つめた。
次の約束は、なかった。
その次も、そのまた次も。
気づけば、「また今度」が増えていった。
会えない日が続くのに、彼の言葉はいつも同じだった。
優しくて曖昧でどこにも引っかからない言葉。
ある夜。
スマホを見ていた。
特に何かを探していたわけじゃない。
ふと、既読のつかないメッセージが目に入る。
送るのをやめた。
そのまま画面を伏せた。
しばらくして思った。
忙しいのかもしれない。
本当にそうなのかもしれない。
でも、違うのかもしれない。
どちらも、証拠はなかった。
ただ一つだけ分かっていた。
前より、彼の時間に私はいない。
それだけだった。
最後に会った日。
彼はいつも通りだった。
少し遅れて来て、少しだけ笑って、少しだけ手を握った。
その「少しだけ」が、ずっと続いている気がした。
帰り際。
「また連絡する」
そう言って背中を向けた。
その言葉は、昔より軽かった。
私は何も言わなかった。
言わないまま見送った。
夜、部屋に戻る。
スマホはやっぱり静か。
静かなのが普通になっていた。
電源を消して裏返しにした。
部屋の明かりが少しだけ白く感じた。
「忙しいのかな」
そう呟いてから、少しだけ間を置く。
「それとも――」




