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退職処理済み針箱番号は、王妃席の灯りを読んだことにできません

王妃陛下の読了席には、まだ灯りがなかった。


書見台の油皿は空で、芯だけが白く乾いている。その横に置かれた銀札には、きれいな字で「読了補助済み」とあり、責任欄には見覚えのある番号が写されていた。


エリナ退職処理済み針箱番号、三番。


わたしはその札を破らなかった。破れば、王妃陛下が読まなかった灯りも、マルタの外套も、リネの半刻賃金写しも、トマの鍵貸出台帳も、ぜんぶ「処理済みの紙くず」になってしまうからだ。


「王妃陛下は、まだお読みになっていません」


王妃付き記録係の声は震えていた。けれど彼女は、空の油皿を胸に抱えず、補助棚三番の前へ置いた。


「わたくしも、読了と記録しておりません。代わりに、この油皿は本人読了未到着として置きます」


補助棚三番には、夜番外套の番号札、リネの半刻賃金写し、トマが閉じずに残した鍵貸出台帳が、ばらばらに差し込まれていた。そこへわたしの退職処理済み番号が、責任欄として重ねられている。


「退職済みなら、責任がない。だから空欄に使える。そういう意味にしたいのでしょう」


声に出すと、指先が冷えた。


わたしはもう、この衣装室の正規保守係ではない。返した鍵も、返せなかった印も、わたしの手から遠ざけたはずだった。


それなのに、わたしの番号で誰かの灯りが読まれ、誰かの外套が貸され、誰かの賃金が済みにされるなら、その責任だけは生活へ届くまで終わっていない。


「この番号は、王妃席の灯りを読んだことにはできません」


わたしは銀札の責任欄に、青い糸を一本重ねた。


「生活影響明細待ち。責任未引継ぎ。今夜だけ、補助棚三番の名前を変えます」


マルタが外套を抱いたまま前へ出た。


「その棚に預けるなら、わたしの名で書きます。外套は灯り受け布ではありません。帰る前に、わたしが着るものです」


彼女は外套番号札の下へ、自分の名と「未帰着」を書いた。


トマは鍵貸出台帳を閉じなかった。小さな指で時刻欄を押さえ、声に出して読む。


「六の刻二分、棚名変更。補助棚三番は、材料棚ではありません。今夜だけ、夜番帰宅確認棚です」


王妃付き記録係が、その言葉をもう一度、正式な記録の字で写した。


夜番帰宅確認棚。


たった一晩の仮の名前だった。けれど、その札が掛かった瞬間、ばらばらの外套と賃金写しと鍵台帳と空の油皿は、証拠ではなく、帰る人を待つ場所になった。


胸の奥が痛んだ。


退職処理済みにされた番号が、手柄として戻ってきたのではない。責任として戻ってきた。怖かった。けれど、その責任が戻る場所があることに、少しだけ息ができた。


わたしは棚の奥へ手を入れた。鍵受け皿の下に、古い封蝋片が挟まっている。


刻まれていた処理番号は、わたしの針箱番号ではなかった。


王太子礼服搬入許可、旧処理番号三番。


「……王妃席の灯りだけではありません」


青糸の端が、指にひっかかった。


「この棚は、王太子礼服を運び込む許可にも使われています」


マルタが外套を抱き直し、トマが鍵台帳を閉じないまま、王妃付き記録係が空の油皿を棚の外に置いた。


夜番帰宅確認棚の札は、まだ揺れていた。誰も帰っていない夜を、済みにしないために。

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