王妃読了補助済み札は、本人の灯りを夜番の外套で代替できません
王妃衣装補助棚三番の奥で、銀の小札が一枚、古い鍵の輪にぶら下がっていた。
『王妃読了補助済み。灯火代替、夜番外套一枚』
エリナは札を外さず、まず棚の前の床へ青い布を敷いた。布の上に置いたのは、マルタの帰宅外套、リネの半刻賃金写し、トマの鍵貸出台帳、そして王妃付き記録係が抱えてきた読了灯の油皿だった。
「補助済み、という言葉だけでは誰も読んでいません。灯りを代わりにしたのが誰の外套か、誰の賃金か、誰の鍵かを先に分けます」
マルタが外套の袖口を押さえた。まだ雨の匂いが残っている。
「それ、私が北門から帰る時の外套です。王妃さまの灯りに使っていいなんて、読んでません」
リネは賃金写しの端に自分の名を書いた。
「半刻分は休憩椅子まで戻ってから受け取る札です。灯火代替費に移されたら、休んだことにも帰ったことにもなりません」
トマは低い台に鍵台帳を置き、貸出時刻の横を指した。
「三番鍵、王妃さまが読了席に着く前に開いてます。でも油皿はまだ空です」
王妃付き記録係が息をのみ、油皿の底を指先でなぞった。
「補助灯は点いていません。私は『補助席準備』とは書きましたが、『王妃陛下ご本人が読まれた』とは書いていません」
エリナは頷き、銀札の下へ新しい青札を差した。
『読了補助済みではなく、本人灯火未到着。夜番外套・半刻賃金・鍵貸出台帳は生活影響明細待ち』
その瞬間、棚奥の封筒糊が乾ききらず、薄く開いた。中には王妃の筆跡ではない細い字で、こう書かれている。
『読了灯が未到着の場合、夜番外套を灯火到着証明として代用し、祝典袖の仮読了を認める』
マルタが外套を抱き直し、王妃付き記録係が油皿を胸元へ戻した。リネは賃金写しを裏返し、空欄のまま残っていた受取欄へ、小さく『まだ受け取っていません』と書く。
「灯りがないなら、読めないままにします」
エリナは封筒を閉じず、青札で端だけを留めた。
「読まない権利も、帰る外套も、同じ棚で代替しません」
補助棚三番の奥で、もう一枚の薄紙が滑り出た。題名は『祝典袖仮読了一覧』。その一行目には、ミリアの名ではなく、マルタの外套番号が候補者読了欄へ写されていた。




