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首に掛かっていない担当札は、針箱番号で貸出責任を読めません

糸巻き貸出窓口の台には、札だけがきれいに貼られていた。


王宮衣装室の担当札。白い木札に、細い黒紐。けれど紐は、首に掛けられる輪ではなく、短く切られて台帳の端へ縫いつけられている。


札の横には、夜番針子が使う小さな休憩鈴と、針刺し前掛けが一枚、畳まれたまま置かれていた。


王太子府の書記が、針箱番号の写しを指で叩く。


「担当札はあります。旧針箱番号によって貸出責任は読了済み。糸巻きは返却済みとして閉じます」


「首に掛かっていません」


エリナは、札ではなく切られた紐を見た。


「担当札は、台帳に貼る飾りではありません。誰が首に掛け、どの範囲を読み、どこまで返す責任を持つかを確認する生活手順です」


「番号が一致しています」


「番号は、首の代わりに息をしません」


高い壁釘に掛かっていた予備紐へ、トマが背伸びした。届かない。彼はすぐに木箱を持ってくるのではなく、低い位置へ仮釘を打った。


「ここなら、本人が自分で掛けられます」


その声に、夜番針子のマルタが前掛けを抱え直した。いつも強い彼女の指が、休憩鈴の縁で少し止まる。


「私、昨夜は交代していません。この札が閉じられると、休憩鈴を鳴らしたことになります」


「鳴らしていないのに、ですか」


ミリアが小さく聞くと、マルタはうなずいた。


「ええ。首に掛けていない札で交代済みにされたら、次の子が誰の針を引き継いだのか分からなくなります」


カリナは手首の本人札を胸元へ押さえた。今日はその手を隠さない。


「私の糸を、誰が借りたことになっているのかも、まだ聞いていません」


エリナは貸出台を閉じる鈴へ手を伸ばさなかった。代わりに、マルタの前へ前掛けを広げる。


「マルタ。読める範囲だけでいい。昨夜、自分の首に掛けた札、鳴らした鈴、返した針を分けて書いてください」


マルタは前掛けの裏へ、太い字で書いた。


――夜番針子マルタ。担当札、本人首掛け未了。休憩鈴、未鳴動。貸出台、交代前未閉鎖。


トマが低い仮釘へ新しい青紐を結ぶ。リネは帰宅外套ではなく、担当前掛けの襟を整え、札が首へ掛からないまま台帳へ戻らないよう押さえた。


小さな報酬だった。


休憩鈴は鳴らされずに残った。貸出台は閉じられず、夜番針子が戻って自分の範囲を読むまで、未完了の青札が置かれた。マルタの半刻休憩も、誰かの代わりに済みにされなかった。


書記は不服そうに、針箱番号の写しを折り直す。


「しかし、旧針箱番号の権限で首掛け確認は省略できます。退職処理済みの保守責任が――」


「省略できるのは、飾りではありません」


エリナは担当前掛けの襟裏を返した。


古い縫い目があった。外から見えない場所に、銀糸で一行だけ縫い込まれている。


――エリナ旧針箱番号により、首掛け確認省略。


ミリアの息が止まった。リネの手が、前掛けの襟を離さない。


エリナはその銀糸を切らなかった。切れば、誰がこの省略を作ったかも消えてしまう。


青い保留札を、縫い目の上ではなく横へ置く。


――首掛け確認省略、未発令。担当者本人・勤務範囲・休憩鈴・貸出返却まで、旧針箱番号で代読不可。


休憩鈴はまだ鳴らない。


だからこそ、夜番針子の仕事は、まだ誰かの番号に奪われていなかった。

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