到着済みの一分早い時刻は、リネの外套が北門を通る前に閉じられません
到着済みの赤印は、晩餐会開始前の時刻欄に押されていた。
だが、トマが北門灯の台帳を開いた瞬間、エリナはその一分を閉じなかった。
「灯りの記録より、到着済みの印が一分早いです」
トマの指先が震えた。北門通用口の灯は、侍女と夜番が外套を受け取り、賃金袋を持って帰る時刻だけ、控えめに点く。昨夜のその欄には、まだ小さな空白があった。
リネの名の横に、点灯確認がない。
「外套は、棚にありました」
リネは旧鍵番号三番の棚から出された外套紐を見た。自分の外套掛け写しも、半日賃金控えも、勤務札も、全部そこにあった。布と紙は、たしかに棚へ着いていた。
「でも、私、北門へは着いていません」
その言葉を聞いて、エリナは赤印の上に青札を重ねず、時刻欄の下へ置いた。
「到着済みという語を、棚の時刻だけで読ませません。リネさんの外套が北門を通り、賃金袋を本人が受け取り、勤務札を自分で閉じるまで、この一分は未到着です」
王妃付き記録係が息を呑む。
「一分なら、誤差として処理されます」
「人がまだ帰っていない一分は、誤差ではありません」
エリナは賃金盆から空の小皿を戻した。代わりに、未封の布袋を一つ置く。銀貨は袋の口へ入れず、横に並べた。払った形ではなく、本人が受け取るまで待つ形にするためだった。
トマが袋の札へ書く。
『リネ。半日賃金、本人受領待ち。北門灯点灯未確認』
マルタは外套紐をほどかなかった。証拠を抜けば、棚には何もなかったことにされる。だから紐の端を赤い時刻札の下へ結び直し、外套が棚に着いた時刻と、本人が北門へ着いていない時刻を同じ板の上に置いた。
「これで、外套だけ先に帰したことにできませんね」
「外套は帰り道を待つものです。本人より先に到着済みにするものではありません」
リネはペンを受け取った。今度は賃金札の裏ではなく、北門灯台帳の空白の横へ書く。
『リネ。外套は棚に着きましたが、わたしは北門へ着いていません。勤務札は、本人帰着まで祝典材料到着済みにしません』
小さな字だった。けれど、その字が入ると、台帳の空白はただの未記入ではなくなった。リネがまだ帰れる場所を待っている欄になった。
トマが北門灯の油皿を持ってきた。火は点けない。晩餐会前の明るい廊下で、まだ帰宅灯を点ける時刻ではないからだ。ただ、油皿を台帳の端へ置く。
「消した灯ではなく、まだ待っている灯です」
リネはその油皿を見て、外套掛けの名札へ手を伸ばした。掛ける外套はまだ棚の証拠紐につながれている。けれど名札は、候補者席にも予備布にもならず、北門へ向かう本人を待つ位置に戻った。
王妃付き記録係が新しい行を読み上げる。
『到着済み――物品棚入時刻ではなく、本人帰着、賃金本人受領、勤務札本人確認まで生活側未到着。北門灯未点灯の一分を誤差処理不可』
エリナは頷いた。
「これで、晩餐会の支度を止めるわけではありません。人を棚に残したまま、支度だけを進めないための行です」
その時、王妃付き記録係の手が止まった。
王妃祝典衣装の公式到着簿が、補助棚三番の底からもう一枚滑り出ていた。そこにも、同じ角度の赤印がある。
北門灯の点灯予定より、一分早い到着済み。
エリナはまだ、その衣装を開かなかった。王妃陛下の読了席も、書見灯も、温茶も、今ここでまとめて読んではいけない。
ただ、リネの台帳へ置いた青札と同じ形の札を一枚、公式到着簿の端へ置いた。
「次は、王妃祝典衣装がどの席より先に到着したことにされたのかを読みます。今は先に、リネさんの一分を生活へ戻します」
北門灯は、まだ点いていない。
けれど、消されてもいない。
その灯りは、外套と賃金袋と勤務名が、本人の足で北門へ着く時刻を待つために、台帳の上で静かに残された。




