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紫印の同じ手順は、ミリアの未読欄を犯人名にしません

「同じ印なら、ミリア様がやったということですか」


セリアの声は小さかった。


廊下に残っていた針子たちも、門番ノアも、王妃陛下の侍女でさえ息を詰めている。三つの紫印は、確かに同じ色だった。


退職処理済みの針箱。


王妃祝典衣装の起動確認済み。


そして、ミリアの採寸控えから切り取られた本人読了欄の端。


同じ色を見れば、誰かの名前を言いたくなる。犯人を一つにすれば、話は早い。けれど早い話ほど、空白を踏みつぶす。


私は、三枚の札を机に並べた。


「犯人名にはしません」


レオンが鼻で笑う。


「妹をかばうのか。あれだけお前の手柄を奪った女を」


「かばうのではありません。未読欄を、読んだことにも、犯したことにも、変えないだけです」


私はミリアの採寸控えを指した。


花文字の名前はある。だが、その横にあるべき本人読了欄だけが切り取られている。


読んだ印がない。


読まなかった証明もない。


それを、同じ紫だから犯人だと閉じれば、王太子側管理室は喜ぶだろう。本人が読んだ欄も、読まされなかった欄も、同じ箱に入れられるからだ。


「まず、この札を分けます」


私は青い糸を三本取った。


一つ目は、候補者外套札へ通す。


「候補者本人確認。ミリア様、リナリア様、セリア様。それぞれが何を読み、何を着て、どの外套で帰るか。名簿ではなく肩ごとに確認」


リナリアが頷いた。


「私は踵当て布を返していません。帰宅馬車まで保留、と自分で書きました」


「それでいいのです。肩が帰るまで、候補者欄は閉じません」


二つ目の糸を、夜番外套棚八番の札へ通す。


マルタ。イネス。ユリ。


そして、発熱して南門で止まったマルタの名の横に、ノアの証言を添える。


「夜番帰宅確認。欠勤処理禁止。外套未返却は怠慢ではなく、帰宅条件未完了」


ノアが短く言った。


「南門でマルタを見ました。外套なしで震えていた。自分の名を言えたが、賃金札は持っていなかった」


針子たちの間で、誰かが息を飲んだ。


「賃金札まで?」


「はい」


私は三本目の糸を、私の針箱へ通した。


「エリナ針箱。退職処理済みではなく、保守責任未引継ぎ。誰が私の印を受け取り、どの衣装を確認済みにしたのか。箱を開ける前に、責任経路を読む」


レオンが机を叩いた。


「そんな手順遊びで、祝典を遅らせるな」


「遅らせているのは手順ではありません。紫印です」


私は三枚を重ねず、少しずつずらして置いた。


同じ紫。


だが、閉じようとした空白は違う。


候補者の本人未読欄。


夜番の帰宅と賃金欄。


退職したはずの私の保守責任欄。


「同じ手順は、同じ犯人名ではありません。同じ乱暴さです。読む前に閉じる。帰る前に完了にする。引き継ぐ前に退職済みにする。その乱暴さを、人の名前へ押し込めません」


王妃陛下が、侍女に目配せした。


侍女は小さな帳面を持ってきた。表紙には、王太子側管理室、紫印台帳、と書かれている。


レオンの顔色が変わった。


「それは管理室の内部記録だ」


「祝典衣装に触れた印なら、王妃衣装の生活影響明細です」


王妃陛下の声は静かだった。


「開きなさい。破らずに」


私は帳面の綴じ糸を切らなかった。表紙を支え、最初の束だけを開く。


そこにあったのは、候補者名簿ではなかった。


ミリア採寸控え写し。


王妃祝典衣装起動確認札。


そして、夜番針子マルタの賃金札。


同じ束で、紫の受領印が押されている。


候補者ではない名が、候補者の布と一緒に綴じられていた。


マルタの賃金欄は、受領済み。


だが本人署名は空白。


私はその空白に、何も書かなかった。


代わりに青い仮止め札を一枚置く。


「本人確認待ち。賃金未到着。候補者外套との同束理由、管理室回答待ち」


セリアが、震える手でその横に自分の名を書いた。


「マルタの外套を、私が見ました。棚八番には戻っていません」


リナリアも続く。


「ミリア様の採寸控えを、私は読んでいません。けれど、読了欄が切られていることは見ました」


二人の名が並ぶと、ミリアの空白は犯人名ではなくなった。


まだ本人が来ていない場所になった。


私は採寸控えの切り口に、細い布を一枚重ねた。切られた欄を補う布ではない。ここに本来、本人が読んだかどうかを書く場所があった、と示すための当て布だ。


「空白は穴ではありません。誰かがまだ声を置いていない席です。席を犯人名で埋めたら、その人は二度と自分の声で戻れません」


セリアが、はじめてミリアの名を責める音ではなく呼ぶ音で言った。


「では、ミリア様の席も、まだ空けておくのですね」


「はい。読むために」


王妃陛下が言った。


「ミリア本人を呼ぶまで、その未読欄を閉じてはなりません。夜番針子の賃金札も同じです」


廊下の空気が変わった。


誰かを責める速さではなく、誰かがまだ読めていない場所を守る遅さへ。


そのとき、紫印台帳の次の束から、薄い布片が滑り落ちた。


白い礼服芯布の端。


そこには、私の旧保守印と同じ形の写しが押されていた。


日付は、私が針箱を返した翌日だった。


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