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王妃祝典衣装の起動確認済みは、明日の肩を今日閉じる印ではありません

明日の日付で押された「起動確認済み」の紫印を、私は針箱の蓋から剥がさなかった。


剥がせば、破れた紙片だけが残る。破れた紙片は、王太子側管理室にとって都合がいい。


「証拠を壊した」と言えるからだ。


だから私は、針箱ごと返却保留窓口の机に置いた。青い仮止め札を三枚、その横へ並べる。


候補者外套。夜番外套。エリナ針箱。


そして、四枚目の札を出した。


「王妃祝典衣装、起動確認札」


レオンの眉が動いた。


「王妃陛下の衣装を、貴様の札で止める気か」


「止めません。明日を今日にする印を止めます」


私は紫印の端を指した。


「起動確認済みという言葉は、衣装が箱から出たという意味ではありません。誰が読んだか、誰の肩に掛かるか、誰の外套を材料にしていないか、夜番が帰れたか。それが揃うまで、確認済みとは書けません」


廊下の奥で、王妃陛下が静かに頷いた。


「日付を、肩ごとに分けなさい」


私は四枚目の札を広げた。


一行目。王妃陛下本人読了欄。


まだ空白。


二行目。明日の儀礼動線確認欄。


まだ空白。


三行目。候補者外套からの転用有無。


まだ空白。


四行目。夜番外套棚八番の帰宅確認。


マルタ、イネス、ユリ。三つの名前を、セリアが小さく書き足した。マルタの名の横には、南門通過後、発熱、と門番ノアの証言が添えられる。


「それは衣装室の不手際だろう」


レオンが言った。


「祝典とは別件だ」


「別件ではありません」


私は夜番外套の札を、王妃祝典衣装の札へ重ねた。


「祝典衣装が起動済みになると、夜番の未帰宅は『作業完了後の自己都合』になります。外套が戻らなかった理由も、賃金札の欠勤も、全部閉じられます。明日の衣装を今日確認済みにする印は、今日まだ帰れていない肩を閉じる印です」


セリアが唇を噛んだ。


「マルタは、外套を返していません。返せなかったんです。外套がなかったから」


「なら、欠勤ではなく帰宅条件未完了です」


私は夜番外套札の賃金欄へ、青い糸を一本通した。


「南門通過、外套未返却、発熱。明朝、本人確認待ち。欠勤処理禁止」


セリアの肩から、目に見えない重さが一つ落ちた。


次に、候補者外套の札を開く。


リナリアの踵当て布。セリアの手袋束。ミリアの読了印欄。


ミリアの名だけが、花文字で美しく書かれていた。けれど、その横の本人読了欄は切り取られたままだ。


「候補者という身分名では、肩は温まりません」


私は言った。


「リナリア様が歩けるか。セリア様が手袋を返せるか。ミリア様が自分の名で何を読んだか。そこを分けずに王妃祝典衣装へ転用すれば、候補者は衣装の鍵になります。人ではなく」


リナリアが、自分の踵当て布を押さえる。


「では、私は候補者外套の確認欄に、自分で書きます。踵当て未返却。帰宅馬車まで保留」


「私も」


セリアが続けた。


「夜番手袋の仮貸出。マルタ確認まで閉じない」


二人の筆跡が、王妃祝典衣装の起動確認札の下へ並んだ。


レオンは笑った。


「女たちの走り書きで、王宮の起動印が止まるものか」


「止めるのは起動ではありません。確認済みという言葉です」


私は針箱に触れた。


まだ開けない。


針箱の中には、私の針と保守印があるはずだった。けれど、未確認の箱を開ければ、王太子側管理室はすぐに言うだろう。


中身確認済み。退職処理完了。


だから、開けないことが仕事だった。


「この針箱は、私物ではありません。閉じられていない名を置く台です。候補者の肩、夜番の帰宅、王妃陛下の読了欄。それらが揃うまで、蓋は開けません」


王妃陛下が、四枚目の札を手に取った。


「王妃祝典衣装、起動確認済みの印は、生活影響明細待ちとして保留。明日、私が読む欄を今日閉じることは許しません」


短い命令だった。


けれど廊下にいた針子たちが、息をした。


マルタの賃金札は欠勤にならない。リナリアの踵当て布は転用されない。セリアの手袋束は夜番の名で戻る。ミリアの未読欄は、候補者の罪として埋められない。


大きな祝典衣装が、初めて小さな肩の順番で読まれた。


ノアが紫印を見比べて、低く言った。


「エリナ様。この印、同じです」


針箱の退職処理済み。


王妃祝典衣装の起動確認済み。


そして、ミリアの本人読了欄を切り取った採寸控えの端に残った紫。


私は三つを重ねて、断罪の言葉にはしなかった。


同じ犯人、と言うには早い。


けれど、同じ手順で違う空白が閉じられている。


まだ着ていない衣装と、まだ帰っていない肩と、まだ読んでいない名が、同じ紫で明日にされようとしていた。

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