Part7 ろすとわん
超巨大企業による先進技術「星欠片」により、世界は大きく変化した。
金さえあれば永久が手に入る時代
然し、当然利益ばかりではない
表世界で人々が自適に暮らす間
裏路地では1人が死ぬ
残酷な彗星都市で自我を叫び、泥臭くとも生きる者たちの話です
※流血描写、グロ描写、鬱展開を含みます
※日曜日以外毎日1話更新予定
「…どうしたもんかな…」
恐らく湾曲の原因はあの魔王だろう
間違いない
しかし…
「勝てる…というか…「戦うイメージ」が出来ませんね」
逆らえない
戦うなんてもっての外だ
子供達にとって 「親」とはそれ程の存在だろう
あれこれ考えるが結局…
「どうしますかね…」
エフィルはぼんやりと地下牢を見渡す
汚れた机と 蜘蛛の巣の張った天井
夥しい数の張り紙 「家のルール」
埃に覆われた床にはカーペット
「ん?」
カーペットの上は 綺麗だった
床と比べて 埃が少ない
「つまり…」
エフィルはカーペットを捲る
「おいエフィル?遂に幻覚でも…!?」
カーペットの下 そこには
「ひみつきち」へ繋がる扉があった
「ひみつきち」
唯一の安息の地
だがそこは「ひみつきち」と呼ぶには余りにも殺風景であった
白い壁 一つだけのテーブル 花の無い花瓶
秒針の音だけが響く無機質な空間
その中心には 「白い仮面を被った少女」が居た
エフィルは屈み視線を合わせて優しく言う
「君 名前は? 教えてくれるかな」
「アルカ」
平坦な声 子供が出していいものでは無い
「…すまんな」
唐突にノウルが動く
「ノウル!?」
彼はアルカの首筋に 短剣を突き付けた
後数cmで 鋭利な短剣は柔い首筋に赤い線を引くだろう
横に引けば 頸動脈 笛を切断する
間近に死が迫っても 少女は アルカは
「…」
動かなかった
怯えも 怖がりも 泣きも 身を引きもしない
ノウルの目に動揺が走る
「こいつ…まさか…心が」
彼女こそが 罹湾者
「心を喪った少女」
「…ははっ」
逆に状況がシンプルになった
この少女の心を戻せば 回帰出来るはずだ
今回の回帰に必要なのは 武器では無い 技術では無い
少しばかりのユーモアだ
「そうですねぇ…」
「遊んで…あげて…」
ミラの耳に突然声が響く
「?…なるほど…」
ミラはどこからかトランプを取り出し、器用にシャッフルする
「アルカちゃん ババ抜きでもしませんか?」
ミラの顔には どこまでも優しい笑顔がうかんでいた
始めて 生まれて初めて感じた「温度」
アルカの仮面に火花が舞い 少し…ほんの僅かに ヒビが入った
「うん…」
こうしてミラ流「カウンセリング」が始まった
初めこそ黙々としたトランプ遊び
カードが擦れあう乾いた音だけが響く
だが…
「ははっ また負けてしまいましたね!」
ミラだけは 異様に明るい
ノウルの目も「お前そういうキャラだったか?」
と困惑している
心を固く閉ざしているなら
(私がピエロになって 扉を叩きましょう)
「アルカちゃん トランプ強いですねぇ」
ミラはアルカの頭をワシャワシャと撫でる
アルカの仮面にまた少し ヒビが入った
空っぽだった花瓶に 1輪のカスミソウが咲く
「喜」
純粋な喜びであり 明日を生きる活力
子供に最も似合う感情
「そういう事か…なら…」
ノウルの目が変わる
「ノウル?子供相手ですよ…」
本気の目だ 視線協会は業務柄、心理戦も良くある
「お…大人げない…」
ノウルは聞こえないふり
勝負は進み遂に終盤
「あの目の揺れはデータ上…後は…」
視線協会の情報屋としての経験
そこから培われた観察眼
本気だ
「…負けた…」
ノウルは煽るように言う
「ははっ…まだまだだな」
「!!」
「なんだ ちゃんと怒れるじゃないか」
アルカの仮面のヒビが大きくなる
花瓶には紫の芍薬が咲く
「怒」
感情の発露 吐き出す様なもの
時には怒るのも良いだろう
初めと比べて アルカの表情はかなり変化した
真剣に引くカードを悩み 勝てば喜び 負ければ悔しがる
その姿は普通の少女である
エフィルはふと思い付き 話しかける
「アルカちゃん 楽しかったですか?」
アルカは満面の笑みを浮かべる
「うん!」
アルカの仮面は砕け散った
「楽」
楽しい 純粋さ
それで十分だ
花瓶には1輪のスイートピー
もう彼女は大丈夫だろう
その時
鎖を引き摺る不快な音が聞こえる
でも…今なら…
「私…がんばる!」
魔王はアルカを見て喚く
「お前は…いつも…馬鹿で…」
今となっては馬鹿らしい
何故こんな弱々しい者に逆らえなかったのだろうか
アルカの身体を光の粒子が包み 手には槍が現れる
「…一人じゃないですよ」
3人もアルカの手を包むように手を添える
「私も…一緒に…」
光の奔流が魔王を貫いた
『湾曲体回帰を観測』




