表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天元魔術師と白詰草 ~孤独な最底辺魔術師、訳あり無気力剣士と大森林の異変に挑む~  作者: 藍川葵
交易都市セルディア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/73

偽りの討伐者

「まず、登録手続きを中断する形になったことを詫びたい」


 低く抑えた声だった。耳に引っかからないようでいて、妙に残る響き方をする。


「先ほど見せてもらった報奨金受領証は正式なものだった。つまり君たちが、ベオルン盗賊団を討伐した当事者なんだね」


 静かな確認だった。だが、目だけが違っていた。緑の瞳が、こちらの反応を削り取るように見ている。

 試されている、とグレンは思った。

 隣でシャムロックがわずかに視線を動かした。眠たげな気配のまま、しかし意識だけは起きている。


「……まあ」

「そうだな」


 短く答える。余計なことを足す気にはならなかった。

 ルドガーの目がほんのわずかに細くなる。納得というより、観察を一段深めたような変化だった。


「少し聞かせてほしい。ベオルンと戦ったときの状況を」


 指先が卓上の紙をなぞる。乾いた紙の擦れる音が、やけに大きく感じられた。朝の光が窓から差し込み、羊皮紙の凹凸を白く浮かび上がらせている。


「ゴラン氏の証言では、隊商の護衛中に遭遇したとある」

「そうだ」


 自分の声が、思ったよりも平坦に出た。妙な場だ、とグレンは内心で思う。尋問ではないが、ただの確認でもない。


「盗賊団の斥候を退け、さらに本体の襲撃を受けて、頭目を討ち取った」

「そうなるな」


 シャムロックが補う。隣から、わずかな体温が伝わってくる。


「初対面の二人で」


 言葉が空気に沈んだ。

 グレンは何も返さなかった。事実だけを並べられると、逆に現実味が削がれる。四十人超の盗賊団を、初対面の二人で壊滅させた。

 やったのは自分たちだ。それでも、他人の口から聞くと、どこか妄想じみている。


「撤退戦から正面戦闘への切り替えだ。もっとも難しい状況のひとつだよ」


 評価ではなかった。重さの確認だった。


「本当ならすごいことだ。だからこそ、直接会って確認したかった」


 なるほど、とグレンは思う。紙は結果しか示さない。そこに至る過程も、力量も、何も証明しない。

 この男は、人間を見に来たのだ。


「それから、もう一つ」


 声の質が変わった。わずかだが、重心が下がる。


「話しておかなければならないことがある。今の段階で」


 ルドガーが立ち上がる。椅子の脚が床を擦る音が、やけに長く響いた。重い扉が開くと、外の冷たい空気が一瞬だけ流れ込む。


「入ってくれ」


 廊下にいた四人が入ってきた。

 金属の擦れる微かな音。革の軋み。朝日の斜光が、彼らの装備の縁を光らせる。

 先頭の青年が一歩踏み込んだ。その視線がこちらに届く。さっき見たときの迷いは消えていた。代わりに、腹を括った者の硬さがあった。

 次の瞬間、青年が頭を下げる。


「本当にすまない!」


 迷いがなく、勢いがあった。言葉が身体を追いかけてくる。

 グレンは眉を寄せた。

 理由がわからない。名も知らぬ相手から謝罪される謂れがない。

 後ろの三人も続けて頭を下げる。四つの頭が揃って下がる光景は、圧があった。

 受付、掲示板の討伐情報、ルドガーの聞き取り。すべてベオルン討伐者に焦点が当たっている。そして、今現れた四人組。

 嫌な予感がした。


「なに急に」


 声が少し上ずった。右肩がシャムロックに当たる。近い。四人も増えたのだから、もう少し距離を取ればいいのに。

 ルドガーが手を上げた。


「ナッシュ。話には順序がある」


 青年――ナッシュが顔を上げる。青い目が真っ直ぐこちらを見る。その視線には誤魔化しがない。


「紹介しよう。セルディアを拠点に活動しているパーティだ。ナッシュ、ドーラン、リーナ、ミレイアだ」


 順に会釈が返る。

 グレンは反射的に観察する。茶髪の軽戦士。黒髪の重戦士。濃緑髪の弓手。淡い金髪の回復術師。装備は使い込まれているが、手入れは行き届いている。連携前提の構成だ。場数も踏んでいる。

 一目でわかるまともなパーティだ。

 ルドガーが続ける。


「魔術師のグレンくん、剣士のシャムロックくんだ」


 軽く頭を下げる。シャムロックは小さく頷くだけだった。


「セルディアには東方領と交易している商人も多い。ベオルンの被害を受けた者は少なくない。討伐の報せが届いたとき、皆安堵した」


 グレンは何も言わず、続きを待った。頭の中で、情報を組み替えていく。

 なぜ謝罪が先に来たのか。

 なぜこの四人が呼ばれたのか。

 嫌な形で、点が繋がり始めていた。

 隣でシャムロックがわずかに首を傾げる気配がある。


「だが、現在セルディアでは――」


 ルドガーが言葉を切る。その一瞬の間が、やけに長く感じられた。


「彼ら、ナッシュのパーティが討伐者だと認識されている」


 予想していたはずなのに、腹の奥が鈍く冷えた。

 グレンは何も言わなかった。ただ、目の前の四人を見た。

 彼らは目を逸らさなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ