第97話:力技
障壁の魔力が減り続ける中、
背後から呑気な声が聞こえて来る。
「大変そうじゃないか、団長殿」
「ルイスさん!? どうして――皆と地下通路に行ったんじゃ」
「それは帝国側に任せる事にした」
少し言いづらそうなルイスさんが、一瞬だけテレンスさんを見ながら呟いた。
良く分かんないけど、ノエルさんとアレクシスさんが地下通路に居るなら、そっちは心配しなくても大丈夫だと思う。
問題は、こっちだ。
「暇なら手伝って下さい。私、聖属性の魔術は使えないんですから!」
「貴様は馬鹿か?」
突然吐かれた言葉に、喉が詰まる。
「私達が、そんなお綺麗なものを使えると、本気で思ってるのか?」
急いでいるとはいえ、聞いた私が馬鹿だった。
確かに、この二人がもし使えたのなら、どうなってるのだと文句を言いたい。
けど今は――そうだとしても、使える人がほしかった。
「なら、何しに来たんですか」
「茶化しに……というのは嘘だが、俺達が周りの雑魚は惹きつけてやる。だから、その面倒な奴は、団長殿に任せたい」
浮ついた感じもせず、
私の目を見てハッキリと言ってくれる。
それだけで十分だった。
「良いですよ。けど、ルイスさんの領地についたら、美味しいお菓子屋さんとか教えて下さいよ」
「そんな事で良いならいくらでも教えてやる。覚悟しとけ」
お菓子屋さんを教えてもらうのに、まさか覚悟が必要とは。
いったい、どれだけ凄いお店を教えてくれるのだろうか。
なおさら気になってしまう。
これでノエルさんと、食べに行く候補地は得られた。
後は、切り抜けるだけだ。
「分かりました。楽しみにしときます」
そんな話をしている間にも障壁の上部が、地上へと近づいていた。
「それでは、私達は屋敷の裏手で戦闘を始め、徐々に森へ向かわせていただきます」
「少しぐらい、私の所に来ても良いですからね。お二人も、無茶はしないように」
「何だそれは、一体来るごとに、菓子でも要求するつもりか? 悪いが、引き受けると言ったからには、雑魚は私達で処理させてもらう。貴様はそいつだけを相手していれば、それで良い」
「壁が壊れる前に迎え打つ体勢を整えたいので、これで失礼させていただきます」
いつもの様に軽口を言い始めたルイスさんをテレンスさんが抑え、何か言いたそうなルイスさんを抱えたまま去って行く。
けれど、僅かに気がかりだった事がなくなり、かなり助かった。
「後は、集中しなきゃ」
――敵に集まった魔力は、既に捉えたくもない程に増えていた。
ノエルさんが居たら、目をつむりたくなるのかもしれない。
けど、こいつを放置すると、屋敷の地下通路を巻き込んだまま爆発されてしまう可能性すら残ってしまう。もう地下通路には入っているだろうけど、地中にも巡らされた障壁が消えるまでは近くには残っている。
そこに向かって攻撃さえされなければ、問題はない。
魔物を倒せるかどうかは後回しだ。
最悪、西側にあるグランディア神聖国から、凄腕の使い手を呼んでもらったらどうにか出来る……と思いたい。
膨れ上がる魔力を見て、そんな事が本当に可能なのかと疑いたくもなるが、帝国や共和国に居る凄い方々とも協力すれば、きっと大丈夫な筈……。
蓄えるに、蓄えた魔力。
それが周囲に溢れ、物理的な体がない筈なのに物凄い存在感を放っていた。
いきなり爆発されても困る私は、飛び退き距離をとった。
やがて下がりきった障壁の壁が砕かれ、黒い影の魔物がこちら側に足を踏み入れる。
「もうお腹いっぱいでしょ? まわ右して帰っても良いだけどな……」
そんな事が起こる筈もなく。
手を前にした影の魔物が魔術を放って来る。
――私の頭上に現れた巨大な魔術陣。
そこから、屋敷よりも大きな火の塊が空中に沈む様に出てくる。
「力技は、嫌いじゃないよ」
何もせず避けてしまえば、地中までもが爆発に巻き込まれてしまう。
それを防ぐ為に私もまた、手の甲を上に向けたまま前に出した腕を上げた。
すると周囲の地面から水が現れ、
私の頭上に――水のお椀を形作る。
それが落下してくる炎の塊を受け止めるや、水が包み込んだ。
蒸発した水が、一瞬にして内部で溜まり、
炎の爆発を起こしながら、水と炎の塊が物凄い勢いで爆発を起こした。
周囲には火の粉と水が弾け飛び、障壁で保たれていた屋敷の前にあった植物は全て吹き飛ばされ、真下にいた私にも大量の水が降り落ちてしまう。
芝がめくれあがった広い空間が出来、少し離れた後ろにある屋敷には、植物や水気を帯びた土などが無惨にも至る所で付着したり、窓を壊していた。
私の衣服は濡れ、水の重みが加わる中で――魔物に狙いを定めた。
「穿て――恵みの槍震」
周囲の地面が空中に浮かび、纏った魔力がそれをいくつかの塊へと分ける。
そこから更に圧縮された物質が、人が持てるサイズの四つの槍に姿を変えた。
物質を魔力で圧縮し飛ばすだけの攻撃だが、街や城の城壁であれば平然と貫ける威力を持っている。そんな攻撃が影の魔物に向かって飛んでいくも、魔物は避ける素振りすらもせず、ただ立っていた。
間違いなく衝突する――そう思っていた槍が近づいた箇所から塵となり、大きな音も立てずに姿を消してしまう。
余りにも現実的じゃないその光景を目にしている間に、魔物が攻撃を放って来る。
足元に魔術陣が現れ反射的に飛び退くと、光り輝いた場所が爆発した。
少し離れた位置に着地した私が魔物に目を向けると、その魔物の背後で、巨大な魔術陣が空中に浮かび徐々に光を帯び始める。
――流石にやめてほしい。
連発も良い所だ。
力技というよりは、もうただの暴力でしかない。魔物だからなのか、魔術の発動に対しても殆ど時間を要しておらず、ただ驚く様な速度で次から次に連発されてしまう。
そして、魔物の背後に作られた魔術陣に昇ってきた陽の光が当たり、更に輝きが増して見えていた。
「私が負ける側みたいじゃない――」
陽の光が向こうの魔術陣に当たり、変わらず私に陰が落ちている。
「……負けられない」
私が負けたら、放たれた攻撃にノエルさん達が巻き込まれてしまうかもしれない。
それだけは絶対に駄目だ。
「守るのは、苦手なんだけどな――」
魔術書を正面に浮かべ私は、右手を前に突き出した。




