表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/113

第93話:障壁の向こう側に――


「フィーランド伯爵、こちらは任せましたよ。クローディア、僕たちは急ごうか」


 ルイスさんに話しかけたノエルさんが扉のある場所から階段をおりて、屋敷の横に向かうようにして進んで行った。


「あぁ」


 短く応えたルイスさんが懐からビー玉よりも小さな宝石を取り出すや、それを空中に高く放り投げる。私はそれを横目に見ながら、アレクシアさんとノエルさんの後ろに続く。やがて、放り投げた宝石が鐘の様な音と光を発した事で、集まっていた人達の視線が一斉にルイスさんに集まってしまう。


「私はルイス・フィーランドだ。これより――この街を脱出する! 残りたい者だけ好きに残るが良い、だが帝国の騎士団と共に来るのなら、私の領地でお前らを迎え入れてやる。――感謝しろ」


 コアを前に出したまま、ルイスさんが大きな声で言い放つ。

 余りにも一方的で少し上から目線な物言いに、混乱していた人達も喜ぶどろこか少し困惑していて、それでなのか少しだけ冷静さを取り戻し始めていた。


「ノエルさん。ああなるって分かってたから、離れたんですか」


「まさか。ただ僕よりも、この街じゃルイス伯爵の方が適任だと思っただけだよ。僕たちは、別に手柄が欲しくて来た訳じゃないからね。出来る事を、優先するだけだよ」


 前を歩いていたノエルさんが私の方に少しだけ顔を向け、言い終えると同時にただ前だけを見始め、迷う事なく第三騎士団の人が居る所へと向かって行く。


「はい」


 それ以上は何も言わず、私はノエルさんの背中を視界に収めながら後を追った。



 それから直ぐに障壁に近づくと、円盤型の魔道具を扱うエルヴィスさんと、第三騎士団の人達や忙しなく動き回っているブレンダさんの姿を見つける。


「皆さん、ご無事で何よりです。途中ですみません、それでは動けない方は向こうに、子供であっても手を繋いで動けるのなら、大人の方と一緒に居てもらってください」


 私達の方を見て一言だけ発したブレンダさんが、もう一度だけ団員の方を向いて指示を出してから、身体の向きも変えた。


「ブレンダ、状況は?」


「魔物が東側の壁を破り侵入し、その後団員を二手に分け、片方は住人の避難。もう片方で馬車を西側に走らせていますが、危険であれば門を開け、森に出るように伝えています」


「住人の避難の方は?」


 ノエルさんがそう言うと、ブレンダさんがエルヴィスさんの方に視線を向ける。

 すると、大人達と数名の子どもたちを連れて、障壁の中へ入っていた。


「住宅を可能な限り回っていた者がただいま着きました。先に数は数え直しているので、もうじき全員の避難が行えているか判明いたします」


「ご苦労さま。一人で任せてすまなかった、礼を言うよ」


「とんでもございません。私は、当たり前の事をしたまでです」


 ノエルさんがブレンダさんを労いつつも、直ぐに馬車に連絡を取る手段を二人が確認し始める中、近づいて来た小さな人影が私の裾を掴んだ。


「あの……」


 私が来た時にお菓子をもらっていた少女の一人が、不安そうに見てくる。


「どうかした?」


「お菓子のお姉さん、マルレーネちゃん達知りませんか?」


「達って、マルレーンくんも? ごめんね。私来たばっかりだから見てないけど。この広場で、見てないの?」


「うん、ずっと探してるんだけど……」


「分かった、お菓子のお姉さんも探して見るから、君は皆から余り離れちゃ駄目だよ? 今度は君の事を心配して、皆が探し始めちゃうから」


「うん、じゃ暗い所は、お願いします」


 そう言って少女が、屋敷の正面から離れた暗い場所を指で示した。


「任せて、お姉さん暗い所は大丈夫だから」


 少女の頭に手を置くと、落ち着けたのか少女が広場の人だかりに戻って行く。


「何かあったのかい?」


 ノエルさんに話しかけられるも軽く手で謝罪しながら、私はそのままブレンダさんと目を合わせた。


「ブレンダさん、姉弟の子供が居ないみたいなんですけど、向こうとかに居る可能性ってあったりしますか?」


「いえ、ないと思います。動き回ってはいますが、基本的に連れて来た者が、中で待機している団員に引き継いだのち、向こうの植物で囲われているスペースにとどまっていている形ですので」


「そうですよね」


 念のため、魔力を広く流す。

 けれど屋敷の反対側にまで届いた魔力は障壁で阻まれ、直ぐに障壁内に行き渡った。けれど、子供らしい反応どころか一人で行動している人すら見つけられなかった。


「居ないですね……」


 最悪だ。

 かくれんぼでも良いから、せめて障壁内に居てほしかった。


「クローディア団長、つまり子供がまだ、外に居るって事ですか?」


「はい。向こうの人混みに、紛れてない限りは、そうなります」


 けど普通に考えてありえない。

 大人が子供を探すならまだしも、子供が子供を探して見つからないんだ。


 居ないと思った方が良い。

 それにあの二人だって、わざわざ隠れているとは思えなかった。


「エルヴィスさん、外に出してください!」


 私は急いでエルヴィスさんの方に駆け寄ると、素手で障壁を触ったエルヴィスさんが静かに答える。


「申し訳ありません。それは出来ません」


「どうしてですか! コアは私達が抜き取ってあります!」


「例えコアが装置に入っていなくても、この壁が消えるまでは、出る事が出来ないのです。大変心苦しい事ですが、ご理解ください」


「そんな……」


 魔力が通らないんじゃ、向こう側に私が飛ぶことすらままならない。


「おい団長殿、いったい何事だ」


「ルイスさん……それが、街にまだ子供が……」


「おい。出られないのか? コアならあるぞ」


 テレンスさんを連れたまま近づいたルイスさんが、コアをエルヴィスさんに見せつけるも、返ってくる返答は同じだった。


「申し訳ありません。クローディアさんにもご説明しましたが、不可能でございます」


「そうか、なら諦めろ」


「諦めろ!? ルイスさん、それはどういう意味ですか!」


 割り切った様に言葉を発したルイスさんに、私は咄嗟に言い返してしまう。


「そのままだ。全員を救う事は出来ない」


「だからって――」


「お待ちを!」


 私の言葉に被せるようにしてエルヴィスさんが口を挟んだのに、障壁の外を目にしているのを見て、私達もそれを追う様にして目を向ける。


 すると、街の建物の陰から、

 出て来た二人の子供の姿が目に入る。


「良かった、無事だったんだ」


「良かったな」


 それだけ言って立ち去ろうとするルイスさんを放って、私は走る二人に目を向けていた。


 けど……何か、様子がおかしい。

 

 明らかに、ただ走っているだけじゃない……。


 障壁に向かって来る二人が、何度も後ろを気にしているのを目にする。

 その先を見つけ出すと同時に――建物の陰から一体の獣型の魔物が姿を現した。


 成長しきっていないのか、個体としては小さく。

 私でも、近接戦で応戦出来る程度だ。


 ――けれど、子供からすれば十分過ぎる。

 追いつかれてしまえば、助からない。


 身体のどこかをかまれたり、

 例え体当たりされたとしても終わりだ。


 そして駆け出した魔物が、走るマルレーンくんとマルレーネちゃんに迫り始める。


 駄目だ、障壁まで間に合わない。


「こうなったら壁ごと――」


 私が魔術を発し、障壁の更に奥。

 二人の後ろから駆けている魔物を倒そうとした。


「止せ! そんな事をしたら、壁が壊れるぞッ!」


 真後ろにいたルイスさんに肩を掴まれ、放とうとしていた魔術を一度だけ抑える。


「それでもッ、見捨てるよりは――」


「ここに居る連中も巻き込まれるぞッ! こっちにも障壁を張れるのか!」


 再び魔術を行使しようとするも、途中で止まってしまう。

 というよりも、止まるしか他になかった。


 いくら供給が絶たれているとは言っても、

 壁を壊すともなれば、攻撃魔術に余力を割かないといけない。


 そんな状況で背後にいる人達も守るのは、例え簡単な壁を設けられたとしても無理だ。


「だったら――どうしろって言うんですかッ!」


 どうする事も出来ず目を向けると、

 魔物から逃げようとするマルレーネちゃんと目が合う。


 泣きながら乱れた走り方で、必死に向かって来る。

 けれど、後ろから迫る魔物の方が――明らかに速かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ