第89話:扉の中へ
「アレクシアさん、いったい何が」
ノエルさんと一緒に向かった扉の前で、アレクシアさん達三人の姿を捉えた。
「それが……」
分からない。
とは答えなかったアレクシアさんが、私を見た後にルイスさんに視線を送っていた。
それだけでなんとなく分かってしまう。
「ルイスさん、いったい全体何したんですか!」
「私が悪いというのか!」
「ルイスさん以外に考えられません。テレンスさん、ご説明を」
「かしこまりました」
「おいっテレンス。貴様はどっちの味方なんだ」
「ルイス様ご安心を。ルイス様が悪くないのでしたら、例え私がご説明した所で、何もお変わりはありませんので」
「ふんっ、好きにしろ」
「もう! そんなのはどうでも良いから教えて下さい。揺れが強くなってるんですから!」
それからテレンスさんが話し始めてくれる。
結果――。
揺れの原因を作ったのは間違いなく、ルイスさんだった。
私とノエルさんが離れた場所に居る間に、上の方で手に入れた白い球体を、テレンスさんの注意があったにも関わらず「そんなの、はめてみないと分からんだろ」とか言って埋め込んだらしい。
その結果、黒と白の球体がはめ込まれたのは良いとして。
空間全体が――急に揺れ始めてしまったのだ。
「ルイスさんが全面的に悪いに決まってるじゃないですか。せめて、私とノエルさんに一言下さい」
「面倒だ。どのみち入れないと始まらんのだから、これで良かっただろう」
「けど、中に入れないじゃないですか」
塞がっている扉が上下に開く気配はない。
いったい何が足りないと言うのか。
「そんなの、私に言われて分かる訳がないだろ」
ルイスさんがびくともしない扉を手の甲で叩き、そのまま向きを変えた手の平を押しつけていた。
「とにかく、どうにかしないとですよ。とりあえず、私とテレンスさんがもう一つの球体を入れた時は、壁が壊れて周囲に居た魔物がこっちに向かって来ました」
「つまり、今度も?」
「いえ分かりません。あの時はこんなに、揺れてはいませんでしたから」
あの時の揺れは、壁が崩れるためのものだった筈だ。
けど今起きてる揺れは、間違いなくこの空間全体に影響している。
「なろうほど。そういう事ですか」
何かに納得した様なテレンスさんの声がした。
「皆さん、上を」
促され、私達の視線が一斉に上へ向かう。
そこには横に広がっている枝と、その隙間から見え始めする黒い物体が存在した。
「何ですか、あれは……」
「まさか、魔物なのか」
数え切れない無数の魔物らしき物体。
それが隙間なく天井代わりになっている枝の間から現れ始め、やがて――一つが落下した。
「テレンスさん……あれって――」
妙に見覚えのあるシルエットを見て、私はテレンスさんに確認する様に話しかける。
すると直ぐに、テレンスさんが返してくれた。
「はい。間違いないかと、あれは――「トトコッタ」かと思います」
降り落ちるどんぐりの形をした大きな物体。
間違いなくトトコッタ達だった。
しかし、その数は百などでは収まらず、更に増え続けている様に思えてしまう。
それほどまでに降って来る数と、新たに見え始める数が異常なのだ。
「トトコッタって、あのトトコッタ?」
「どのトトコッタか知りませんけど、手のひらサイズの果実の事ですノエルさん。ただし、それの大きい奴の事ですけど……」
そんな魔物が居たのかとノエルさんが上を見上げる。
「人より、大きいのか」
「はい。それに魔術が一切効かないというおまけ付きです」
テレンスさんが話したのは、木の化け物の事だと今更ながらに分かってしまう。
それよりもどうにかしないと。
流石にこの数を一体一体相手にしてたらキリがない。
ったくこの扉が開いてくれたら、こんな事には――。
私が振り返り視線を向けると、ルイスさんはまだ手を触れさせたまま、扉のそばで立っていた。
魔物が来る状況だと考えれば、壁がある場所に無意識に寄ってしまうのは仕方がない。
けどそんな事よりも、ルイスさんが手を置いている扉の上下に描かれている枝の様な模様。その根本を表現した端の部分が、僅かに光り輝いている事に気がついた。
「ルイスさん、ちょっとどいて下さい」
扉に近づいて屈んだ私は、根本の模様が描かれている部分に目を向ける。
他の模様とは違い、光苔の様に光を発していた。
「この扉も、もしかして魔力を吸って……」
「おいっ魔物が来たぞ、どうにか出来そうなのか!」
「多分で良いなら」
屈んだまま私はルイスさんと顔を見合わせる。
「可能性があるだけ十分だ、やれ」
「言われなくても」
視線を逸らしノエルさんが頷いたのを確認する。
それから私は直ぐに立ち上がり、扉に向かって両手を伸ばした。
お願いだから開いてよね。
トトコッタ軍団と戦い続けるなんて、嫌なんだから。
後ろで物凄い落下音と、魔物が向かって来る音が聞こえる最中。
私は、ゆっくり呼吸を整えながら、手に向かって魔力を集め始める。
そして――いっきに魔力を扉に流し始めた。
殆ど薄っすらと光っていただけの模様が上下から輝き出し、私が魔力を注げば注ぐ程に強く光ながら、模様全体を輝かせようと光の線が浮き上がってくる。
「このっ――せっかく少しは魔力が回復したのに……もぉ、お願いだから……開いて――よねっ!」
ただ流した魔力量に応じて変化している訳じゃないと途中から気づき、私はどれだけ魔力を強く押し流せているかだと考え、瞬間的に送り込む魔力量を跳ね上げていた。
「ヤバっ――」
模様の光が一瞬にして扉全体に行き渡るも、はめ込んでいた白と黒の球体にひびが入り、焦って私が手を離す頃には扉が重苦しい音を立てながら上下に動き始める。
「皆さん、開きました!」
「「先に入って下さい」」
アレクシアさんとテレンスさんが同時に口を開き、私はまだ下がりきっていない壁の隙間から身体を滑り込ませ向こう側に入った。
――更に薄暗い小さな狭い空間と、奥に繋がる道。
それ以外に何もなく、安全だと分かる。
「大丈夫です、入って来て下さい!」
私が合図するとノエルさんが軽々と下がる扉に片手をついたまま身体を浮かせるや、流れるようにこちら側に入って来て着地する。
「クローディアさん、お願いします」
外からテレンスさんの声がした。
「えっ? 何を――!」
薄暗い空間から、外の景色が僅かに見えづらい中。
突然、小さな人影が扉の間から飛び込んで来る。
――それは放り投げられたであろうルイスさんだった。
「待って待って――」
「馬鹿、どけ!」
受け止めるようするもルイスさんの肩を掴みきれず、飛び込んで来たルイスさんが私に体当たりしながら、そのまま二人で後ろに倒れ込んでしまう。
「あぁ、痛い。ルイスさん。生きてますか?」
「これぐらいで人を殺すな」
子供に頭突きされることはあっても、ここまで体当たりされたのは初めてだ。
普通に痛い……。
「大丈夫そうですね。クローディアさん、ありがとうございます」
横に倒れたまま入口に目を向けると、軽々と飛び越えてくるテレンスさんと、アレクシアさんの姿を目にする。その後ろでは、小さく砕け散った二つの球体が欠片になって散り、半分開いたかどうかだった扉が殆ど一瞬にして閉まっていた。
「まさか人が飛んで来るなんて、思ってもいませんでしたよ」
「すみません。時間がなさそうでしたので」
それを言われてしまえば、私としては何も言えない。
実際、私がいなかったらルイスさんは、この硬い石畳に落ちてた訳だし。
やがて、ルイスさんが私の上から起き上がり、私に手を伸ばしてくれる。
「どうも、ありがとうございます」
「別に大した事はしていない」
「もぉ、素直じゃないんですから」
ルイスさんに起こされ私が立ち上がるや、ルイスさんはテレンスさんに詰め寄っていた。
「テレンス、貴様っ! せめて一言ぐらい投げる前にあっても良いだろ!」
「それはルイス様も同じかと」
さっき私が一言ぐらい。
っと言った事をテレンスさんは覚えていたのだろう。
こうなってしまっては、ルイスさんは何も言い返せない。
「貴様っ……帰ったら、覚えてろよ……」
「はい、承知いたしました」
いやいやテレンスさん、承知しちゃったら駄目でしょ。
やっぱりノエルさんに、テレンスさんの日頃の酷いかもしれない事について相談しなければ。
薄暗い中私がノエルさんの方を見ようすると、突然部屋の壁にかけられていた魔石が光出し、明るく空間全体を照らし出してくれる。
そして奥に繋がる通路もまた、奥に向かって次々に光り輝いた。
「ちっ、この話は後だ。今は先に進むぞ」
そう言ってルイスさんが先に進んで行く。
「クローディア、どうかした?」
「いえ、帰ってからで大丈夫ですので。お気になさらず」
この問題なのかも分からない事は、後で考えよう。
今は目の前に集中だ。
後ろに戻る事も出来ない私達は、
そのまま――目の前の通路を進んで行くのだった。
【Web版】追放された魔術師団長クローディアの愛され無双をいつもお読みいただき、本当にありがとうございます。
本日 2026年 6月 25日に、
本作品の書籍版が発売されます!
ついにこの日を迎えることができ、とても嬉しいです。
書籍版では様々な部分を書き加えさせていただいておりますので、Web版を一度読んだことのある方でも楽しんでいただける内容となっております。
それに加えて、KADOKAWA様のサイトで行える試し読み。こちらの範囲内で目次を確認出来るのですが、Web版ではなかったであろう章タイトルもあったりしますので、少しでも確認していただけますと幸いです!
引き続きWeb版の更新を行わせていただきます。
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――海月花夜――




