第86話:魔術攻撃!(物理)
氷や岩を生み出すのではない。
その辺に転がっている物質を魔術で浮かせる。
――カル村長がやっていたみたいに、小さな小石を器用には浮かせられない。
けれどただ大きくて、微調整が要らないのなら話は別だ。
私は足場にしていた壁の一部を風で砕き、そのまま宙に浮かせ始める。
その大きさは、トトコッタよりも少し分厚く、縦横の長さで言えば倍はあった。
「手始めに、これぐらいから始めようかな」
壁にぶつかって近くで寝転がっていたトトコッタ。
そこに向かって私は、壁を無造作に放り投げた。
風によって動かされた大きな岩石の塊が落ち、避ける事も出来ないトトコッタに向かって真上からぶつかり、大きな衝撃が広がると共に――砕けた岩石が埃を舞い上げる。
そして潰されたトトコッタの体が岩石に当たり負け、押し潰されていた。
私を散々体当たりで倒そうとして来た相手であっても、申し訳なく思ってしまう。
けど……他に方法がないのも事実。
「化けて出ないでよね」
もう一つ壁を持ち上げ、反対側に行ったトトコッタに落として――一体の魔物を倒す。
残るは、二体の魔物を飛び上がらせた一体のトトコッタ。
すると、その一体は浮いていた体を地面に着け、縦になり動きを止めた。
それを見て私も、直ぐに追加で壁を浮かせ始める。
――立ち止まる魔物に対して、浮かせた岩石を真上から綺麗に落とした。
しかし、落下した岩石がトトコッタに当たる事はなく――宙に静止してしまう。
「まさか……干渉されてる?」
変な方向にだけいかなれば良いと思っていた岩石には、余り魔力を当てていない。
けれど、下方向から変な干渉を受けていれば分かってしまう。
「押し比べか……。手加減してちょっと潰れるだけだと、死ねないだろうから。中途半端にギリギリを狙った魔力は出さないよ」
変に耐えられて、体の一部が残ったまま生きている状態なんて見たくもない。
だから私のやる事は決まっている。
余裕をもって押し潰せる量の魔力を、岩石の上から加え――いっきに終わらせる。
ただ添えているだけだった手をしっかりと前に伸ばし、高さを上げた。
「もしも魔力の押し引きで勝ちたいのなら、最低でも百体は居てもらわなきゃ」
そして岩石の上に当てた魔力を下に向かわせる為に、上げていた手をただ下に向かって下げる。それだけで宙に止まっていた岩石が――何事もなかった様に落下した。
トトコッタの体を巻き込んで地面に触れた岩石は跡形もなく砕け、ひかれていた石の地面を壊し、埋まっていた木の根が見える様になる。そこにはトトコッタの体の一部らしいものはあるものの、殆ど分からないほど瓦礫と紛れ、舞い上がった砂埃がそれを隠していた。
「テレンスさんは」
私の所に来ていた数よりも、テレンスさんの方に向かった数の方が多い。
だから助けようと向こうを見た時にはすでに、三体の魔物が地面に横たわっていた。
――今思えば、テレンスさんが戦うのは見るのはこれが始めてだ。
けれど、それは戦いと言えるかどうかは定かでない。
元々、魔術が効かない敵なのだから、戦い方は制限される。
だからと言っても、何が起きているのかさっぱり分からなかった。
トトコッタに向かって、空中から足を殆ど伸ばしたまま落下するテレンスさん。
そのまま蹴るのではなく――つま先がトトコッタに触れたかと思えば、ブーツでわざと音を鳴らす時の様に着いたつま先をそのまま触れさせたまま、踵の部分をストンと叩きつけていた。
たったそれだけで少し高い音が生まれ、何故かトトコッタが倒れてしまう。
それを受けただけで動けなくなっているのだ。
魔術を無効化するであろう魔物に、いったい何をしているのか。
分からない事ばかりだった。
そうしている内にも、最期の一体が踏みつけられる。
私よりも簡単そうに五体のトトコッタを倒した。その事実をどう受け止めようかと考えながら私は、戦い終えたテレンスさんの元にゆっくりと向かう。
「お疲れ様です、テレンスさん」
「いえ、クローディアさんも。見事な戦いです」
一度言葉を切って、私が戦っていた場所を見たテレンスさん。
「わざわざ確認したのに、見事とか言わないでいいですから。ただの力技ですよ」
「そんな事を言ってしまったら、私のは――ただの小細工ですよ」
「ちなみに、どうやったか聞いても?」
私が殆ど損傷もなく倒れているトトコッタを見ると、テレンスさんが直ぐに応えてくれる。
「構いませんよ。本当に大した事はしていませんので。そうですね、何から話しましょうか。クローディアさんは、魔力を水たまりなどに当てて、それで生まれる水の動き。波などを観察した事はありますか?」
「う~ん、小さい頃にやった事なら」
魔力が何であるかを考える為に、出来る事は何でもやった。
水なんて一番身近だったとも言える。
「でしたら、イメージしやすいかと思いますが、何かを当てると、それを受けたものには衝撃というのが生まれます」
「波紋ですよね? でもトトコッタには、魔力が効かない筈ですよね?」
「はい、効きませんね。そして波紋とイメージは同じですが、目に見えない戦闘に置いて重要な要素――衝撃波があります」
「あぁ、なるほど、その衝撃を時間差で確実に内部に伝えて……」
「はい。後は、ご想像していただいた通りかと思います」
何、笑顔で怖い事を言ってるんですか。
とは、倒れてるトトコッタの前では言えなかった。
「とりあえず、場所を変えませんか? 流石に少し休みたいですし」
「これは失礼いたしました。ただちに」
頭を下げたテレンスさんが、直ぐに私を運ぼうとする。
「いえ、テレンスさんは私の執事でも付き人でもないですからね!? 気にしないで良いですよ」
それを急いで手で静止するも、私の内心は気が気がじゃなかった。
この人今――平然と今度は、前で抱えようとしてたよ!?
ルイスさん。
貴方はいったい、どんな生活してるんですかっ!
「気が変わりましたら、いつでもお申し付けください」
「……流石に、それは遠慮させてください」
これ以上甘えてしまうと、取り返しがつきそうにない。
私は丁重にお断りして、静かにテレンスさんの後を付いて行く事にした。
油断してはいけない。
危うく良いように堕落させられてしまう所だった。
気をつけよう……。




