第85話:トトコッタの、逆襲?
「そんな沢山は、来ないでよね」
水分を取るのか、魔力を奪ってるのかは分からないけど、大きな葉っぱが直ぐに枯れたのは間違いない。それを考えたら、触れただけで多少なりとも悪い事が起きるのは分かっている。
「逃げますよテレンスさん、私達には無理です!」
「分かりました」
私が振り返って逃げようとし、テレンスさんも同じ様に応えてくれた。
しかし――それよりも先に現れた魔物が私達に向かって、真っすぐ突き進んで来る。
「ちょ、いきなり頭突きとかなしでしょ」
慌てて左右分かれる形で私達は飛び退いていた。
あれ、何で……さっきよりも高い。
避けようと飛んだ身体が思っていた以上に飛んでしまう。
というよりも、いつもと変わらない高さに達していた。
何で、いや「もしかして、此処なら――魔術が……」
考えが頭に浮かんだ私は、深く考える前に手のひらを自分に向け眺める。
そして、魔力をいつものように流すと、簡単に冷気が生まれていた。
「出来た――!」
普段と同じように扱える。
それが分かるや私はトトコッタに手を向け、魔力を更に流し始める。
魔術が使えなかった鬱憤、ごめんだけど受けてもらうよ。
「貫け!」
手の前で形成された氷の矢。
それが物凄い速度で魔物へ向かい――冷気の軌跡を細く描きながら飛んで行く。
軌道に狂いはなく、真っすぐ向かって来るトトコッタを捉えていた。
確実にぶつかる時を眺めていると、やがて氷の矢とトトコッタの前にした頭部が衝突する。
けれど、氷の矢が砕け散り、トトコッタだけがそのまま突き進んでいた。
「――嘘でしょ!? 何で!?」
加減を間違えた!?
いやいや、そういう問題じゃない。
何なら、いつもより強く放ったと思う。
それなのに何で!?
訳が分からないいまま、離れていたトトコッタが大きく見え接近してしまう。
とりあえず避けないと。
何も考えず右に向かって飛び、周囲のトトコッタの行動だけ注力する。
そして更に向かって来る二体のトトコッタ。
他のトトコッタに関しては、テレンスさんの方に狙いを定めていた。
「もう、お願いだから、止まってよ!」
さっきよりも大きな氷の矢、とはもはや呼べない大きさの槍。
それが空中に二本形成されると、後から向かって来るトトコッタに飛来する。
しかし、まるで風が当たったかの様に減速もしなければ、怯んだ様子もないトトコッタはそのまま私目掛けて突き進んで来てしまう。
「これも駄目なの!?」
足元から生成する氷に乗ったまま、私は上に高さを変える。
それでも真っすぐ進むトトコッタ達は私が作った氷の柱を突き破り、少し進んだ先で止まったかと思えば、頭部をくるくると回しながら浮かんでいた。
「強行しちゃって……もう」
地面との繋ぎ目が壊れ、崩れた氷から飛び降りる。そして破壊された部分に目を向けると、氷の切断面はヤスリがけをした後の様にとても綺麗な状態だった。
「うっわ、どんな吸収力よ」
葉が枯れた事を思い出し、水気が吸い込まれたと考えてしまう。
「氷も水も駄目。それで火も駄目なら、とりあえず風かな」
ペンダントに魔力を込めると同時に、現れた魔術書に魔力を流し始める。
そして私は、魔物との間を手でなぞるように腕を左から右へと流していた。
「触れるもの全てを拒み・舞い飛ばせ――風幕」
トトコッタの二倍の高さはある風のカーテン。
それが横に広がり、私と三体のトトコッタの間にゆったりと生まれる。
半透明のレースカーテンが優しく靡きながら現れ、それが見えていないのか分かっていてなのか、三体のトトコッタ達は迷う事なくカーテンの奥に居る私の方へ突き進んで来た。
「見た目よりも強いんだから、トカゲぐらいなら一瞬で細切れ――」
頭突きで突き進んでいたトトコッタ達。
そいつらが私の作った風の魔術を通り抜け……いやすり抜け、向かって来る。
――何で。
「いやいや、なしでしょ」
全力で飛び退いた私は近くに壁の上に降り立ち、焦る呼吸を整えようとする。
目を向けると風のカーテンは全部が消えている訳ではなかった。
けれど、魔物が通り過ぎた部分だけは消え去っている。
「もしかして、魔術が……効かない?」
そんな奴、今まで居なかった。
正確にはレイス系は効きづらいけど、ここまでじゃ。
これはどちらかと言うと、魔術そのものを消されている様な感じがした。
「テレンスさん、このどんぐりじゃなくてトトコッタには、魔術が効きません! 気をつけて下さい!」
離れた位置で五体のトトコッタを足場に、空中を飛び回っているテレンスさんの姿を目にする。
あの感じなら倒すのはともかく、直ぐにやられる事もないだろう。
なら先に、こっちをどうにかしなきゃいけない。でもまさか――魔術が使えない場所で現れた敵が、そもそも魔術が効かない敵だなんて思ってもいなかった。
「どうしたら……」
私が悩む間もぐるぐると回していた頭が上を向き、私に狙いが定まる。
「私が氷に乗った時もそのままだったんだから、此処には届かないでしょ……てか来ないで」
私の考えもお構いなしに一体のトトコッタが進み始め、遅れてもう一体が動き出す。
そして最初に動いたトトコッタがちょうど真ん中ぐらいの場所で止まったかと思えば、少し尖っている頭を来た方向に向けたまま体を傾けた。
「ちょっと待ってよ、そんなの聞いてないよ」
そこに――遅れてやって来たトトコッタが辿り着く。
一体目のトトコッタの体を使い、二体目が斜めに勢いよく宙に飛び上がった。
殆ど勢いを落とさず、そのまま私目掛けて突き進む。
「当たらなければ、意味ないんだからね」
少し横に飛んで、変わらず壁の上に降り立った。
その足場に衝撃が加わり、激突したトトコッタが壁の一部を壊し、そのまま余った勢いのまま壁の反対側に飛んで行ってしまう。
けれど、三体目がすぐさま私に迫るのを見て再び避けると、二体目よりも壁に激突してしまったトトコッタが壁を崩落させながらも押し返される様にコロッと真後ろに倒れていた。
「壁は消されるんじゃなくて、壊すのね」
魔術の無効化というよりは、魔力で作られた現象と物体を消している。
そんな感じがした。
後ろに倒れたトトコッタにいたっては、ぶつかった箇所の殻にひびが入り……。
「ひび――!?」
私の攻撃を受けても、びくともしなかったのに、ただ壁に当たっただけで?
違和感を覚えた私がテレンスさんの方に視線を向けると、トトコッタを踏んで飛び上がっているテレンスさんを目にする。その踏みつけたであろう頭部には、ほんの少しだけと小さなひびが入っていた。
「なるほど。あんたら、物理にはあんまり強くないんでしょ」
視線を足元に戻す。
倒せるかもと分かれば、それで十分だ。
私は、魔導書ではなくただの暴力的な量の魔力を放ち、周囲にある物体に向かって放つ。
「覚悟しなさいよ。どんぐりもとい、トトコッタ――!」
ふわふわと浮いていたトトコッタが、一瞬だけ下がった様にも見えてしまう。
けれど私の魔力は減るどころか、増しながら周囲に流れ続けるのだった。




