第84話:地上と繋ぐ繋ぐ柱
柱の様な場所を目指していた私達は、思ってた以上には早く着いてしまった。
それもこれも、テレンスさんのおかげだと思う。
私を抱えたままだと言うのに、何度も現れる魔物を華麗に飛び越え、時にはその体を足場にして進むという驚異的な動きを見せてくれた。
「ありがとうございます、テレンスさん」
ゆっくりとおろしてもらい、久しぶりにつま先に荷重が加わる。
けれど、思ってたよりも休めたのか、だいぶ気だるさがなくなっっていた。
この場所だけ、他と違うのかな。
魔力の流れもだいぶ軽減されているような気がした。
「いえ、全くもって問題ないですよ」
そして、不満そうな顔一つしないテレンスさん。
これが一流と言うべきなのか。
実に恐ろしい……っと思えてしまう。。
「それにしても、随分と立派な建造物ですね」
上を見上げると、首がこれ以上は倒れられないと自然と止まっていた。
「高過ぎますね」
数百メートルはあろう高さと、それが保てるだけの幅をもった柱。
その下の方は、人が通れる大きさで壁が取り払われている。そこから階段が目に入り自然と近づいていた私が、覗き込む様にして柱の内部を見ようとした時だった。
「ぁたっ――くっ、このっ……何でこんな所にも壁が……」
前に進んでいた頭が壁にぶつかり、抑えながら屈み込んでしまう。
普通に痛いし、この場所に来てから――いくつのたんこぶが出来たのか考えたくもなかった。
「障壁ですね。恐らく、他の場所にあったものと同じかと」
「だとしたら」
再び上を見上げるも、その先に居るであろうノエルさん達の姿が見える事はない。
この壁も破るのは無理かな。
魔力も残ってはいるけど、全快とは程遠い。
「私達の方から行くのは、無理そうですね」
「そうですね。でも、随分と落ち着いていますね。心配ではないのですか?」
屈み込んでいた私達が立ち上がると、テレンスさんが私を見てくる。
「ノエルさんの事ですか?」
「はい。普通は心配されるものかと」
心配か……確かに以前の私だったら、気が気じゃなかったかもしれない。
けど今は、少し違うかな。
「勿論心配してはいますし、助けに行けるならそばに居たいですけど。それ以上に、ノエルさんの事は信じてますから」
ノエルさんなら、私が居る所に来てくれる。
そして危険が迫っているのなら、私が代わりに戦えば良い。
けれどそれは――ずっと一緒に居れば良いという話でもなかった。
お互いがある程度は相手の事を信じる。
そうでなきゃ、相手に頼り切りになってしまう。
「テレンスさんは、ルイスさんの事が心配ですか?」
「えぇ心配ですよ」
仕方のない事だ。
いくら貴族と言っても、まだ子供なのだから。
「そうですよね、ルイスさんだと、魔物とかが来たら――」
「いえ、そうではありません」
「えっ?」
テレンスさんが突然微笑んでから、口を開いた。
「ルイス様が、帝国の方々に何か無理強いをしたり、ご迷惑をおかけしてないかと、常に不安で不安で。私はいったいどうしたら良いのか、流石にわかりかねています」
「あぁ……そういう……」
あれ、何だか急にノエルさん達の事が心配になってきてしまう。
まさかだけど、人力車みたいに変な事してないよね……。
「ものすごく不安になってきました」
「私もです」
そんな笑顔で言われても。
本当に心配しているのかも分からないテレンスさんの表情を見て、私は確信する。
やっぱりこの人は、何を考えているのかが全く分からない。
もしかしたら、私の反応を見て楽しんでいるだけかもしれないと。
邪推な事まで考え始めてしまい、私は一旦置いておいた別の問題に目を向けた。
――巨大な木の幹が近くに見え、その根に変わり始める部分に、大きな石造りの上下に開くであろう二枚作りの扉が設けられている。
「あの扉が出口、というかゴールなんですかね?」
木の中に入れるのか、本来であれば土で埋め尽くされているであろう空間に入れるのか。
どちらにしても、先に進むのならあの箇所しかない。
「もし上にあがるとしたら、私達が先程まで居た場所に着いたりして」
「正規ルートを無視しておりてきたみたいな言い方、しないでくださいよ」
「誰もそんな事は言っていませんよ。お気にされたのなら、申し訳ありません」
「いえ、大丈夫ですから。それよりも……」
私が扉の方に近づくと、後ろからテレンスさんも付いて来る。
固く閉ざされた扉は触れてもびくともせず、上下から伸びている枝の様なものが線を描いていた。その扉が重なっている部分には白と黒の凹みが二つあり、枝が途切れている様な模様になっている。
「クローディアさん。そう言えば、こういうの拾いませんでしたか?」
ふと振り返ったテレンスさんがその黒い凹みの方を指さした。
指より、少しだけ大きそうな丸い凹み。
「そうですね、何か黒い球体なら拾ってますね。ってか、やっぱり正規ルートだったって事じゃないですか! もうっ……私が倒して拾ってたらか、こうして試してみる事が出来るんですからね」
取り出した黒い球体を、そのまま扉に当てはめる。
「もう、入れられるのですね」
「え? それって、どういう……」
理由を聞く前に、足元から小さな振動が伝わって来てしまう。
「テレンスさん、はめましたね!?」
「はめたのは、クローディアさんご自身ですよ」
いつも微笑んでいるからか嫌な感じは少しもせず、それよりも焦っていない事の方が怖い。
「何が起こるか分からないんですから、少しは身構えて下さい」
そうしている内に少し離れた位置に残っていた壁が急に崩れ、反対側の道と繋がった。
不味いんじゃ……。
殆ど道がなく、広々としていた空間に道が出来る。
普通に考えても良いことはなさそうだった。
「テレンスさん……私達って、道中であのどんぐり――じゃなくてトト……」
「トトコッタです」
「そうです、そのトトコッタって、倒しましたっけ……」
「いえ、全て無視させていただきました」
「そうですよね……」
道が繋がっただけならまだ良い。
けど――見える様になった場所から、魔物が見えてしまうのは話が違った。
全長一メートルは超えているどんぐり型の魔物。
それが一体、二体、三体……五……八体と。
次々に見え始めてしまうのだった。




