第82話:許容範囲
「私が先に行き攻撃を誘発させます。その隙に、お願いいたします」
「良いんですか?」
「勿論です。それぐらいの事は、私におまかせください」
テレンスさんが前に駆け出し、私を残して木の化け物に向かい始める。
「さてと。やりますか」
緊急脱出手段はないに等しい。
それでも倒すと決めたのだから、立ち向かうだけだ。
――私は、テレンスさんとは違う角度から魔物に近づいて行く。
やがて攻撃が届く距離に来たテレンスさんを狙って、魔物が木の腕を振るった。
けれど容易にテレンスさんが飛び越えると追撃する形でもう片方の腕も迫り、真正面に位置していたテレンスさんを狙ったからか、二つの腕が交差してしまう。
それを真上から抑える様にテレンスさんが蹴り落とし、木の腕に乗ったまま私に合図を送ってくれる。
「今です」
「任せて下さい」
両腕を重ねられ、暴れ始めていた魔物のそばに私は近寄っていた。
急所を狙うのなら飛び上がり顔に近づく。
けれど、魔力を吸収させるのならどこでも良い。
もし仮に――部分的に魔力を保っていたとすれば、触れた箇所が先に限界を迎える筈。だから私は、大きな木の魔物にそっと手を触れさせた。
クヌギの木みたいに、荒々しくゴツゴツとした木肌。
それが水気を吸い取るみたいに、触れた手から体内の魔力すらも奪い始めてしまう。
しかし、お湯や冷水に手が浸かって、耐えられるかどうかを分かるように。
奪われる魔力の量と速度から――何となく分かってしまった。
私の魔力が奪われ尽きる事はないと。
暴れるどころか魔物の体が硬直し、育ってなかった幹の上からいくつも枝が生え始める。しかし、葉を生み出すどころか、必死に伸びようとする枝先から粉くずの様に崩壊してしまう。
成長と破壊が繰り返され、成長していた部分が無くなると木の魔物が暴れ出そうとするも体は殆ど動かず、私の注いだ魔力が異常な速度でその体内を巡り満たしていた。
「ごめんね」
魔力を満たされ続けた魔物の体が一瞬だけ縮んだと思えば――途端に繋がっていた木が小さな木片へと変わり果て、細かく飛び散りながら塵と化してしまう。
そこにあった筈の物体が消え、溢れ出た膨大な魔力が周囲の空間に取り込まれる中で、魔物が居た場所の中心に小さな球体と長方形の木札を目にした。
他にそれらしい物はなく、その二つだけが残っている。
「……なんだろう」
指二つで簡単に掴めてしまう黒っぽい球体と、手ただの木片とは言えないぐらいに形が整った手のひらサイズの無地の木札。普通に考えれば魔物のだけど、こんなものあったかな。
「どうかされましたか?」
「テレンスさん、これ何だと思います?」
小さな球体を持ち上げテレンスさんに見せると、少し興味深そうに首をかしげるも直ぐにいつも通り微笑んだような表情をみせる。
「コアでしょうか。残念ながら私は、見たことがありませんね」
「やっぱりテレンスさんも、見たことないですよね」
そんな球体を私が見ていると、少し離れた地面に光り輝く陣が現れた。
「……見るからに、怪しくないですか?」
「そうかもしれませんね」
敵を倒した後に出たのだから、普通ならゴールか出口とも考えられる。でも、それはこの手に持ってる球体が白かったりするならまだ……納得出来たかもしれない。
それに何で……黒っぽいんのよ。
もっと善人みたいに、白く輝いててよね。
そしたら普通にコアっぽくて、もう少し安心できたのに。
「どうしますか?」
ほぼほぼ入る事は決まっているものの念のため聞くと、テレンスさんがゆっくりと周囲を見渡した。
「他に出口らしい場所も、行く宛もありませんし。入るのがよろしいかと思います」
「分かりました。私もそれしかないと思いますので、入るのは嫌ですけど、入りますか……」
お願いだから、水中とか火山とかは止めて。
それか、もう魔術を返してくれるのなら何だって良い。
「どうぞこちらに」
先に動き出していたテレンスさんが転移陣らしきものの前に立ち、手で先に向かうように示していた。確かに執事みたいな人だったら、部屋とかに入る時は他の人を先に入れたりもするんだろうけど、これはいくらなんでもただの実験台なんじゃ……。
「ご遠慮なく」
「……ありがとうございます」
この先も移動が必要そうなら、遠慮なく運んでもらう。
実際、魔力を消費したのは間違いない。
だったら正当な理由だし、先に飛び込む報酬だ。
うん、そうしよう。
そんな事を考えながら、
光り輝く陣の中に――私は踏み込んで行った。
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――海月花夜より――




