第81話:木の化け物って――魔物!?
「ずるッ――」
綺麗な平面ではない地面。
そこで迫る攻撃に対して私は、大きく凹んでいる植物の間に滑り込んでいた。
視界の端ではテレンスさんが飛び上がる姿が目に入ると同時に、速くしなやかな物体が目の前を通り過ぎ、鈍い風切音と風が身体に当たる。
「そこ、危ないですよ」
「ん?」
飛び上がったテレンスさんが私の方を見る中、凹みから顔を出した私が敵の巨体を捉えた。
振るった腕が身体を前から抑えていると思えば、もう一方の腕が上から後ろに回されている。
「えっ、ちょっとぐらい待ってよ!」
待ってくれる筈もなく、縦に振るわれた攻撃が真っすぐ私めがけて迫った。
何も考えず横に飛ぶと元居た場所でムチを打ち付けた様な音と共に木片が激しく飛び散り、深く地面を削りながら腕らしき部分をめり込ませているのを目撃する。
「当たったら、真っ二つに……」
魔術というか、例え魔力の塊であっても身体に纏えば多少は変わる。
けれど、この場ではそれが殆ど出来ず、今の攻撃をくらえばひとたまりもない。
「てか、何で飛んでるテレンスさんじゃなくて、私なんですか!? 普通こういうのって、飛んでる方が狙いやすくてそっちを狙うんじゃ!?」
「あの魔物は、転んでる方が狙いやすい。そう判断されたのではありませんか?」
「もぉぉ知りませんよ。逃げるが勝ちです!」
清々しい感じのテレンスさんを置いて、私は先に走り出していた。
そもそも、魔術が使えない状況で私にあんな余裕はない。
何事もなかったかの様にしてるテレンスさんの方が不自然だ。
「そうですね。逃げましょうか」
さも当たり前の様に並走してくるテレンスさんは、私が数歩かかる距離を軽々と身体を流す感じで少ない歩数で付いて来る。
足の長さなのか、そもそもの移動する際に込める力の差なのか。
色々と理不尽に感じてしまう。
これが魔術を使えない無力さなのかもしれない。
「来ますよ」
「え、まっ――」
後ろから迫っていた木の化け物が再び腕を振るった。
その攻撃を私達が上に飛んで避けると、着地を狙ったかの様に反対側の手が直ぐに迫りくる。
「――て、って言ってるじゃん」
しなりながら流れて来る腕に一瞬だけ足を乗せ重心が前方に移ったタイミングで私は、力が入りづらい中で勢いよく前に向かって飛んでいた。
すると、攻撃の力と私の脚力が重なり、魔術を使ったかの様に身体が大きく前に躍り出てくれる。
――制御の効かず、空中で手足を動かしてだ。
「止まって、止まってッ! ぬぁあッ……」
足先が着いた瞬間に身体が前に転がり、起き上がると同時にそのまま走り出す。
「あぁぁもう! 今度追いついて来たら、燃やしてやりたい……」
ちゃんとした魔術は使えるか怪しくても、火種を無理やり起こすぐらいなら恐らく可能だ。ただ――それを行うだけでも、竜巻を起こす際と同程度の魔力を消費するだろうから割に合わない。
「それは、止めて置いた方がよろしいかと思いますよ」
「テレンスさん!?」
気づけば近くを走っていたテレンスさん。
嘘でしょ……どうやって!?
私と違って、攻撃の勢いは使ってない筈なのに。
「はい。テレンスですが、どうかされましたか?」
「あの、どうやって……」
「普通にです。それにしてもお見事でしたよ」
軽々と走って来る人に言われても……。
それよりも、本当に困った話だ。
テレンスさんの言う通り本気で燃やしたりは出来ない。
燃やしたいけど……。
私は走りながら少しだけ、高い位置にある天井に目を向けた。
届くかすら分からないけど、私達が見えていない場所でこの足場と天井が繋がっていたら、ノエルさん達が居る所もまとめて私達は火の海に沈む事になってしまう。
それだけは絶対に避けないと。
「テレンスさん、何かいい案はありますか?」
「クローディアさん。先程、あの魔物に触れたと思いますが、何か違和感はありませんでしたか?」
「違和感って言われても、急いで飛んだだけですよ?」
「なるほど。凄まじい魔力量ですね」
更に微笑むでもそのままでもなく、ほんの少しだけテレンスさんの表情が真剣な面持ちに近づいたような。そんな定かではない雰囲気の変化を私は感じ取っていた。
「どういう意味ですか?」
「私も、攻撃を避ける時に手を触れてみたのですが、あの魔物は、他の植物同様に魔力を吸い取ります。その吸収力は凄まじく、下手に掴まれてしまえば、私でも直ぐに魔力切れになると思います」
「接近して戦う事も出来ないじゃないですか。やっぱり逃げるしかありませんよ」
そう言って私が速度をあげて振り切ろうと考えた矢先、テレンスさんが立ち止まる。
「一つだけ、倒せるかもしれない方法があります」
「倒す、ですか?」
私も立ち止まりテレンスさんと顔を合わせると、少し離れた後ろから向かって来る木の化け物を捉えていた。
「あれを?」
「はい。っと言っても、私ではなく、クローディアさんがですけど」
「いやいや、燃やせないなら、魔術も使えないのに無理ですって」
手を前で左右に動かし無理だと伝える。
しかし、テレンスさんは一向に受け止めてはくれなかった。
「ちなみに……その方法って?」
「魔力を吸い取る魔物なら、いっそのこと魔力を与えれば良いんですよ」
さらっと笑顔で、なんて事を言うのだろうかこの人は。
「でもそれ、もし無意味で強くなっただけなら、おしまいですよ?」
「その時は、私が担いで逃げますので、安心してください」
「置いて、行ったり――」
「しませんよ。っと言っても、私の事を信用してもらう他ありませんが、どうしますか?」
視界の端に見える木の化け物が、更に距離を詰めて来る。
もう迷っている暇は殆どなかった。
「分かりました、やってみます。でも、絶対に置いてかないでくださいよ。置いて行ったりしたら、化けて出ますからね」
「それはご遠慮したいので、必ずや運ばせていただきます」
よし言質はとれた。
倒した後は、ノエルさん達と合流するまで運んでもらおう。
どのみち、疲れる事は確定したようなものだし。
「なら、決まりですね。倒しましょう」
私は、自ら木の化け物に向かって――歩み始めた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
明日13時頃に『第82話』の投稿をさせていただきます。




