第78話:城塞都市の巨大迷路
――何これ、ゴールはどこに。
巨大な迷路を目にした私は、自然とゴールらしき場所を探していた。けれど、物凄い勢いで身体に当たる風によって直ぐに、意識が引き戻されてしまう。
違う、まずは落下をどうにかしなくちゃ。
魔術を使っても、発動しなかった。
それを思い出した私は、もう一度魔力を集め始めた。
「お願い出来て……」
その魔力を使って、再び手の中に風を起こそうとする。
「出た」
明らかに小さく、勢いはないものの確かに風が渦巻いていた。
それでも、込めた魔力に対して小さ過ぎる。
これじゃ、思うように扱えるかどうか。
違う! そうじゃない。
やるしかないんだからッ。
「全員集まって!」
アレクシアさんとテレンスさんがそれぞれ姿勢を変え、ノエルさんとルイスさんを連れて私の元に寄って来てくれる。
「おいっ! どうする気だ!」
空中でルイスさんが叫ぶ。
けれど、私の答えはもう決まっていた。
「そんなの……」
先程とは比較にならない量の魔力を手に集め、魔術を行使しようとする。
「一か八かやるだけですよ」
ミスったらなんて考えてらんない。
私がどうにかすればいいんだからッ――!
「緩めますので、着地は備えて下さいッ」
ルイスさんが何も言わなければ、言葉は返ってこない。
全員なっとくしたのか、それとも私を信じてくれているのか。
私は近づく地上を見ながら、大きく声を出し始める。
「行きます、三、二、一」
手に集めた魔力で風を起こそうとし、全力で地面に叩きつけた。
地面で舞い上がった風が周囲の植物を吹き飛ばすと共に――落下していた私達五人の身体をも巻き上がらせ、勢いがリセットされるどころか少し浮き上がってしまう。
そんな状況下で風が消え、地上近くの場所で落下が再開した。
「うわぁぁあ――っ……」
私の真下に風が強く当たり殆ど制御の効かない形で舞い上がった風が、私の身体を高く舞い上がらせ不自然な体勢へと変えてしまう。
足元から着地しようとしていた私の意思とは無関係に、身体が落ち続けていた。
ヤバい、背中から落ちる――。
どうする事も出来ず、魔力を集める時間すらない。
祈るしかなく、身体を脱力させた私は目を瞑った。
そして硬い地面にぶつかる筈が、
二つの柔らかい何かによって衝撃が和らげられてしまう。
「あれ……?」
地面に激突してないのを認識しつつ、私が片目ずつ目を開ける。
薄暗い天井と壁が遠くに見え私が真上を向くと、そこには――ノエルさんの顔があった。
「ノエルさん!? 何で――」
「怪我はないかな?」
「はい……」
あれ、何で。
とういうかどういう状況なの、これ。
地面に身体が当たってなくて、支えられてて。
私いま――お姫様抱っこされて……。
「あああっの! ……大丈夫です。大丈夫なので……その、おろしてください、ノエルさん……っ!」
自分がお姫様抱っこだったこされている事を自覚した途端に恥ずかしくなってしまい、私は小声でおろしてもらえるように伝える。
「今下ろすから、少し待っててね」
少しなんて言わず、直ぐ放り投げて下さい!そんな言えもしない事を思いつつ私は、ノエルさんにゆっくりと下ろされるという長い時間を体感してしまうのだった。
「ありがとう……ございます」
自分の足で立ち、少し頭を下げることで私は顔を逸らしてしまう。
「気にしないで、君のおかげで僕たちは助かったからね。寧ろ礼を言いたいのは、僕たちの方かな」
「いえいえそんな、私の方こそ……助けてくださり、助かりました」
何を言っているのかもう訳が分からない。
けど、ノエルさんが微笑んでくれる。
だからと言って私はどうしていいのか分からず、ただ立っていると後ろから声がした。
「実に見ものだったな。団長が王子に抱えられるか」
「なっ!」
見られてた。という事実と共に私が振り返ると、誇らしげに私をからかっているルイスさんの後ろで、テレンスさんが手で静止しするように伝えてくれる。
「ルイス様も、ずいぶん軽かったですよ」
「貴様、テレンス! 何のつもりだ!」
ん? どういう……あぁそういう事ですか。
「あれ~ルイスさんも、テレンスさんに抱えられたって事ですか?」
「うるさい。行くぞ、お前たち」
話を直ぐに誤魔化したルイスさんが所構わず進み始める。
「行きましょう、お二人とも。余り離れるのは、良くないかと思います」
微笑んでいた私とノエルさんを見ていたアレクシアさんが、先を促してくれる。
無事で良かった。というよりも先にこの人なら――私が居なくても、ノエルさんを庇った状態でも無事に着地していたかもしれない。そう思わせてくれた。
「頼りにしてますね、アレクシアさん。私ここじゃ、ただの非力枠みたいですから」
「クローディア、それはどういう事だい?」
先を進もうとした私をノエルさんが呼び止め、心配そうに近づいてくる。
空中でもそうだったけど、地上におりて確信した。
「この場所では、魔力を扱う事が非常に困難です。先程の起こした風であっても、こうして両足が地面に着いている状態では、もう一度起こす事も厳しいと思いますよ」
身体から僅かに溢れる魔力が、常に周囲にある壁や植物に奪われていく。
体内に宿っている分までは取られないにしても、魔術を使おうと外に出した途端に――それらが初めからなかったかの様に霧散し形をなしてくれなかった。
「だから今の私は――」
誤魔化した所で意味がない。
私は、ハッキリと二人に事実だけを伝える事にした。
「魔術が使えません」
この現象は、今の私にはどうする事も出来ない。
出来るとしたら、身を挺してノエルさんを守るぐらいだ。
「だから、アレクシアさん。頼りにしてますよ」
そして私は、魔術が全く使えないまま――この巨大迷路を進み始める。
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――海月花夜より――




