第73話:お菓子からご飯
「どうしましょう、テレンスさん……」
「さて、どうしましょうか」
あまり深刻そうな感じがしてないのは、テレンスさんだからだろうか。
私の方は気が気じゃない。
「屋敷に入ったら、出られないのって、同じ障壁があるって事ですよね?」
「はい。そう聞いてます」
たぶん専属従者の人から聞いたのか。
う~ん困ったな。
入っても出られる保証もない。
「他に知ってる事とかって、ありますか?」
「……いえ、他には……」
「そうですか、分かりました」
聞いて言ってくれないのなら、仕方がない。
ノエルさん達に話して から考えよう。
「もう少ししたら、食事の準備も始まると思いますので、皆さん食べてください」
「良いんですか?」
「勿論ですよ。私達は、助けに来たんですから」
「ありがとうございます」
「いえ、気にしないでください」
「それでは、失礼いたします」
テレンスさんの言葉で、揃ってその場を離れ始める。
「テレンスさんどうしましょう」
「どうしましょうか」
私は歩きながらテレンスさんに話しかけていた。
「ルイスさんに屋敷には行かない方が良いって聞いたら、何て言われると思います?」
「却下。と言われるかと」
「ですよね~」
となれば、一緒に屋敷に突撃か。
明日が心配になるなこりゃ……。
そのまま歩き続けていると、近づいて来る私にノエルさんが気づいた。
手に持っていたお菓子を配り終え、他の団員に引き継いで抜け出して来てくれる。
「その様子だと、また何か問題かな?」
「私を問題児みたいに言わないでください」
ちょっと不満そうな顔をすると、近くにいた子供がそれを見て真似していた。
「私と勝負しようってか、むぅっ……」
「ふんっ……!」
「むむむむむっ」
私が子供に向かってちゃんとやり返すと、一人から二人へと増え、気づけば周囲の子供達が私に向かって変な顔で攻撃し始めてしまう。
「くっ……」
てごわい……っ。
つい視線を逸らしてしまった。
「あっ、お姉ちゃんの負け!」
「やった勝った勝った」
喜ぶ子供達の方を向き直る。
「誰も負けたなんて、言ってないでしょ!」
「顔に書いてあったよ」
「負けって?」
「「うん」」
「そうそう」
揃って頷かれてしまい、私の負けが確するのだった。
「なら私の負けだ。ほらほら、向こうでお菓子でも食べてて」
「「はーい」!」
そう言ってお菓子を受け取った、元気な子供達が離れていく。
「君でも、勝てない事があるんだね」
「ノエルさん――!?」
ノエルさんが居る状態で、私はどんな顔をしていたのか。
それが見られていなかっただろうかと考えてしまう。
「これはその……」
駄目だ。
隠れられるのなら、今すぐ荷馬車の中に潜り込みたい。
「おかげで子供達も、明るくなったみたいで良かったよ。僕達がお菓子を配ってても、君と接している時ほどの笑顔は見せてくれなかったからね」
「いえいえ、何言ってるんですか、ノエルさんだったら子供達なんて、一目でノックアウトですよ」
「ノックアウトしたら、良くない気もするけどね。それで、話を変えて申し訳ないけど、何か問題かな?」
「そう言えばそうでした」
私は先程の話を思い出し伝える。
「明日のお昼に、この街の屋敷に行く事になったんですけど。そのお屋敷に入ると、どうも出られないらしくて。でもルイスさんは昼に行くと言いそうなので困ってます。というか、この街からも出られないとの事でした」
「今さらっと、凄い事を言ったと思うのは僕だけかな……」
ノエルさんだけでなく近くでお菓子を配っていた団員の人も手を止めて、私の方を向いたまま口をポカーンとさせていた。
「もうどうする事も出来ませんので」
「確認だけど、無理やり突破するって選択肢はないのかな?」
ノエルさんらしくない、随分と強引な提案だった。
けど、助ける人達の事を考えたら一日でも早い方が良いのは間違いない。
「何とも言えない感じです。来る時に攻撃が当たったと思いますけど、あれより強いのを仮に内側から放つとして、もし障壁を破れなかった場合――その衝撃によって当たりの空間が丸ごとなくなるかも知れませんよ? それでも良いのでしたら試しに……」
「聞いてごめんね。それは打つ手がなくなってから、お願いするよ」
「分かりました」
もしもの時は、街を半壊させる事が決まってしまった。
いや、障壁を破れば良いだけなんだけど……それが簡単に出来るのなら苦労はしない。それに、この範囲を守れるエネルギーと打ち合って、今の私が勝てるかどうかまでは分からなかった。
「それなら今日はここで、街の人達と過ごして。明日、その屋敷に向かおうか」
「良いんですか? 入ったら、出られるかも分かりませんよ?」
「このままここに居ても、出られないからね。それなら行くべきだよ。フィーランド伯爵も、そのつもりと考えて問題ないですか?」
「はい。私の方からお伝えさせていただきます、ノエル王子。それでは後ほど」
そう言ってからお辞儀をしたテレンスさんが、ルイスさんの元に向かって離れていく。
「無駄がないというか、何と言うか」
「だからこそ、付き人が一人でも大丈夫なんだけどね」
「確かに、普通に考えたら沢山居てもおかしくないですもんね。一応貴族ですし」
「一応って……またフィーランド伯爵と何かあったりしたの?」
「いえいえ、とんでもないです。別に子供扱いなんてしてませんから」
何でか、ノエルさんが何とも言えない表情をしていた。
「それよりもノエルさん、ご飯ですよご飯!」
少し離れた位置で作業しているブレンダさんの元に、向かおうとするのだった。
どうせ屋敷にも入れず、今すぐ外から魔物が来る訳でもないのなら、食べれる時に食べた方が良い。
「お腹が減ってたら、いざという時に何も出来ませんから」
「それもそうだね」
「別に私だけが食べたい訳じゃないですからね!? 皆がお腹空いてるからですよ!?」
「大丈夫だよ。僕も食べたいと思ってたから」
「なら一緒に作って食べるのみですよ!」
何だか今日は、美味しい食べ物が作れそうな気がする。
よし、頑張ろう。
静かに意気込んだ私はノエルさんの背中を押して、炊事場へと進んで行くのだった。




