第17話:奥地に
行き着いた先で、広い空間が目の前に広がる。
背の高い木々の頭が地表を隠し、地下だと言うのに広い青空が頭上には見えていた。
もうダンジョンとは思えない。
まるでダンジョンという洞窟から、地上に出た気分だ。
「此処は、本当に……ダンジョンなんですよね、ノエルさん」
話しかけるも返事は返って来ず、
隣に居るノエルさんも、広がる光景に見入っていた。
「こんな場所が、帝国領内にあったなんて、まだ信じられないよ」
「ダンジョンの中ですけどね」
王国にある森とも違う。
どこか落ち着いていて、木々が伸び伸びと育っている。
そこに向かって私達の足場から、ゆったりとした道が続いていた。
「ノエルさん、この森、魔物が居ます」
広範囲を索敵していると、何体もの魔物を捉えた。
そして私の方をノエルさんが向いた直後。
――離れた位置から魔物が、高速で近づいて来ていた。
「フロスト・ウォール」
先頭に立っていた私とノエルさんの目の前に、分厚い氷の壁が一瞬にして出来る。
僅かに氷の向こうが見える状態で、突然――飛翔体が壁に激突した。
氷に体の一部が突き刺さり、残りは潰れて辺りに血や肉片をまき散らす。
――狂暴化した、鳥型の魔物だ。
あの速度で人に当たれば、身に着けている鎧に関係なく致命傷を与えている。
「ノエルさん、大丈夫ですか?」
「助かったよ、ありがとう」
「これぐらい、大した事じゃないですよ。皆さんも、十分気を付けてください」
手に持っていた剣や盾を力強く握りしめ、全員が改めて気を引き締める。
それでも、どこか全員が不安を見せていた。
「今の攻撃、次も防げると思いますか?」
いつも相手にする魔物と違うからか、判断に迷っている様に見えてしまう。
「正直な所、知っている今の状態で、避けられるかどうかだと思う。けれど、此処で引き返してしまったら、意味がない。追って来た原因の排除か、この場所について調査を行いたい」
「分かりました。でしたら、直ぐに下がりましょう。ここは見晴らしが良過ぎます」
景色が良いのは嬉しくもあるけど、今は危険かな。
私一人なら、反応出来なくもないけど。
「何だか、離れたくなさそうだね」
「顔に出てましたか?」
「少しね」
「すみません。気を付けます」
一言謝ってから、私は歩き出した。
坂を下って直ぐに聳え立つ木々に圧倒されながらも、その中に入っていく。
葉の隙間から優しく光が差し込み、本物の空なのかと直ぐに勘違いしてしまう。
ダンジョン内に秘められているエネルギーの大きさが、そのまま表れている。
魔物の数や強さ、地形などを作り出す力。
それらが何処から来ているのかと言えば、ダンジョンコアと呼ばれる物質だ。
比較的浅く弱いダンジョンは攻略される事が稀にあり、持ち出されたダンジョンコアは主要都市に設置され、常時発動型の魔術式と合わせて水や灯なども生み出し続けている。
これ程大きなダンジョンともなれば、帝国の都市一つのインフラ全てを補えるエネルギーを秘めている筈。私も実際に、見た事は何度かしかないけど、自分の分が欲しいと思ったのは秘密だ。
*
歩いていると、体感時間がおかしいのか、気づけば陽が傾いていた。
「ノエルさん」
「そうだね、野営の準備に入ろう。知らない土地で、無理をし過ぎるのも良くないからね」
「直ぐに、川がないか探してみますね」
ダンジョン内で時間の進みなんて、基本は気にしない。
腹が減ったら飯を食べ、睡眠を取ってベストな状態を維持するだけだ。
けれどそれは、昼夜がない洞窟の様な場所に限られる。
魔力を広げ、木々の間隔が途切れ、漂う魔力が動く場所を探す。
水に含まれる僅かな魔力が流れている事で、容易に違和感を見つけられる。
「ノエルさんありました。川と……魔物が二体、居ます」
「川に行って、魔物を倒す。それで良いかな?」
「はい。どの道、飲み水か食料は必要ですからね」
――数人だけ引き連れ、先行した場所で私とノエルさんは、川辺で鹿を見ていた。
見た目だけで判断するなら、普通の鹿だった。
けれど、発している魔力量が明らかにおかしい。
「でも。食べられそうかも」
「……食べられるのなら、食べてみようか。食料も調達しないと、後々苦しくなってしまうからね」
「分かりました。余り傷つけない様に、仕留めます」
手のひらを少し握った状態で上に向け、細長い氷の矢を空中に生み出す。
そして指に連動させるイメージで、腕ごと素早く前に振った。
二本の氷の矢が鹿に向かって飛び、このまま刺さると見ていた者全員が思っていた。それに例外はない、私だってそう思っていたのだから。
――直前で鹿の周囲の魔力が乱れ、気づいた時には矢が鹿を通り抜けて木に突き刺さっていた。
大きな音に合わせて鹿が顔を上げ、矢を放った私の方を見ては直ぐに逃げ出していく。
「今、何が起こって……」
まるで鹿の体を通り抜けたかの様に、見えていた。
私を含めノエルさんも何が起こったのか分からないまま、水辺を確保するのだった。




