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第16話:ダンジョンの奥地へ


「静かだ」


 ダンジョンの奥に向かって先頭を歩くノエルさんが、静かに呟いた。

 周囲に気を配っていた私は、遅れて反応する。


「ダンジョンって、もっと殺伐としてるイメージなので、感覚が狂いそうで少し怖いです」


 戦闘が起こらず安全なのは良い事だ。けれど、これで油断してしまったら危険が増してしまう。

 ダンジョンに性格や意識的なものがあるのかは、解明されていないが、戦う中で自然と最適化されているのなら、人がどういう状況で安心するのかも学習していてもおかしくない。


「また、難しい顔してる」


 ふと隣を見ると、ノエルさんが私の顔を覗き込んでいた。


「前、見てください。前」


 くすっと笑みを浮かべ、気楽そうにしている。

 先程までの真剣な表情で警戒を行うノエルさんは、どこにいったのやら。


「どうして、そんなに油断出来るんですか」


 少し言うか迷っていたノエルさんが、ハッキリと答えた。


「だって君が居れば、不意打ちなんて、されないでしょ?だったら安心だよ」


「それは、安心じゃなくて。油断しているだけなのでは……」


 これで襲われたら、笑えない。

 嬉しい気持ちも胸にしまい、私は周囲の警戒を強める。これで、いつも気張っているノエルさんが楽になるなら、それで良いと思えてしまった。


「まぁ良いですよ。適材適所です。私は、索敵か戦闘ぐらいしか出来ませんから」


「それは、十分過ぎるって言うんだよ」


 後ろを振り向いた私は、近くに居た数人の方々に苦い顔をされてしまう。


「大丈夫です!人手は、多い方が最強ですから」


 少しズレてる事を言ったと思いつつ、私は握りこぶしを作っていた。


「そう言う事だ、皆!歩きながら、何か異変がないか見落とさないように」


 ノエルさんの指示で、緩んでいた気がひき締まり、小さな掛け声が幾つも重なって響いていく。


「ノエルさん、いつもならどの辺から魔物の数や種類が変わって来ますか?」


「とっくに、だよ。いつもならこの辺りには、オーガなどが群れで現れる。それを相手にするとなると、こんな散歩気分では歩けないよ」


「オーガですか。他には、何か出てきますか? 特にアンデット系とか、死霊系とか」


「もしかして――」


「怖くありませんから! 勝手に、変な推察しないで下さい」


「まだ、何も言ってないんだけど……」


「とにかく、出るんですか?」


「どうだろう。このダンジョンは、敵に比べて手に入れられる物に価値がない事が多くてね。帝国の歴史でも、過去に洞窟から森林地帯に変わった先には、足を踏み入れた記録がないんだよ」


「どれだけ、広いんですか……」


「真っ直ぐ歩いて三日。だけど、これだけ魔物が居ないとなれば、一日で着くだろう」


 戦闘込で往復約一週間。

 確かに、昔の帝国の人達は頑張っている方だと思う。ダンジョンに入れば手に入れられる食料も限られ、仲間は疲弊していくばかりか、負傷者や死者が出てしまっては、編成や隊列を維持できない。

 それを一週間続けるとなれば、優秀だ。


「ノエルさんは、この異常に乗じて、森林地帯に入りたいんですね」


「巻き込まないと言っておきながら、すまない。力を貸してほしい」


「乗りかかった船です。というか、私が先に出てましたからね、気にしてないですよ」


 この人と関わってて、政治に巻き込まれないというのは無理な話だ。


「お菓子、一年分でどうですか?」


「随分と安いね。それだと他に買い叩かれかねないから、一生分渡しておくよ」


「私を、何だと思ってるんですか」


 扱いに抗議しつつ、思考を戻した。


 森林か。

 どんな魔物が出るんだろう。

 少し気になりつつも、倒せるのかだけを考えた。


「死霊系が出てきたら、逃げますよ」


「分かった。その場合は、大人しく引き返すとするよ」


「まぁ、他の魔物が居るのかも、分かりませんけど」


 今の所、進んでる先に反応はない。

 これだけ進んで居ないなんて、普通だったら考えられなかった。でも今なら予想がつく、あの魔物が原因で減ったのだろう。倒されたのか、消えたのかは分からないけど。


 ダンジョンが死んだ魔物を吸収する事はあっても、生きている魔物まで吸収するのかは分かっていない。


 この世界は、分からない事が多過ぎる。


「この世界って、どうしてダンジョンの解明が進んでないんですか?」


「危険だからだよ。調査するにも、それを行える人材が、戦闘員、調査員共に不足しているんだ。それに今は、南から来る魔物の脅威もある」


 王国が滅びたら、次は帝国を含め国々。

 そんな状況で好き好んで戦争する者は居なくても、各国が睨み合っていない訳ではない。


「だからって、後回し過ぎる気もしますけどね。もしかしたら、凄い物が発掘されるかもしれないじゃないですか」


「良いね。時間が戻る遺物とか、欲しいかな」


 それは少し、高望み過ぎな気がした。

 でも何かを期待する方が、少しはマシになる気がする。期待し過ぎて裏切られて、絶望するのも良くないから程々にだけど。


 そんな期待を胸に私達は、休憩を挟みながら歩き続けた。

 魔物居ないダンジョンは恐ろしく、進む速度が早く、途中何度も不安にかられていた。


 このまま行っても良いのだろうかと。そう何度も警戒してくる自分がいた。


 *


 暫く進んでいると、進行方向に放っていた私の魔力が広い空間に流れ始めた。

 流しても流しても、次々に広がり扱えない程に遠のいてしまう。


「ノエルさん、まだ、かなり先ですが見つけたかも知れません」


「君、どれだけ先まで……」


「徒歩、数時間先ですかね」


 何はともあれ、見つけた。

 ――あれが、ダンジョンの奥に広がる森林地帯に違いない。



今日はスマホで執筆して、PCで見直してからの投稿になります。

いつもより誤字脱字やスペースの空け忘れなどがありましたら、申し訳ございません。


皆様の応援、ご評価を執筆の糧に、引き続き頑張らせていただきます。


――海月花夜――

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