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第111話:第三騎士団とセリーナさん


 お待たせいたしました。

 こちらの第111話から、第三章となります。



 手紙を受け取ってから、ノエルさんは何かを考え続けていた。

 帝国に戻ってからも執務室に直行だ。


 残された私達は資材や備品を整理して、その日は終える。


 ――そして、帝国に戻った次の日。


 私たち魔術師は第三騎士団の駐屯地で、死に物狂いで走っていた。


「クローディア団長……これじゃ、私……死んじゃいますっ、よぉぉ……」


 息を切らしたセリーナさんが、姿勢を低くしたまま私の後を付いて来る。

 何かにつまずいたら転ぶと思う。


 それぐらい酷い体勢ではしている。

 けれど、ここは駐屯地内にある建物内だ。


 足場が悪いなんて事はない。


「頑張って下さいっ、セリーナさんっ、私だって……」


 余裕はない。


 寧ろ今すぐ身体を浮かせて、楽をしたかった。

 けれど、そんな事がブレンダさんにバレてしまったら、きっとただでは済まない。


 それに後ろで走ってる他の魔術師にも示しがつかない。

 意地とプライドだ。


「わたぁ……し、もぅ……」


「セリーナさん!?」


 セリーナさんが先に倒れ、道を塞いでしまう。


「おいっ――!」

「何で――!?」


 後ろで走っていた他の人達も巻き込まれ、何人かが地面に寝転がった。

 動けないのか、そのまま大きく胸を浮き沈みさせて皆が荒い呼吸をしている。


「仕方、ありませんね」


 少しだけ息を切らしたブレンダさんが、私の横で立ち止まった。

 その後ろには同じ様に、まだ走れそうな人達が立ったまま息を整えている。


 アレクシスさんに限っては、数歩先で息一つ乱さずに立っていた。


「私達は、まだ走ります。団長達は休んでいて下さい」


「そうさせて、もらいます」


 メニューを変更した初日だ。


 というか帝国に帰った翌日なんだから、何も無理をする必要はない。


 ――ブレンダさんが後ろの人達を連れて、走り出す。

 そして()()()()()、平然と私達――魔術師の所に混ざろうとする。


「いやぁ今日も走りましたな、クロ殿」

「もうへとへとですよ」


 私の事をクロ殿と呼ぶ、この二人は夜間警備の時の二人だ。


「そうそう、走ったよね」


 この二人も頑張っていると思う。


「はい、いきなりメニューを倍にされたから驚きましたよ」

「いったい、何があったんですか?」


「いやぁそれがね……」


 でも……この二人は魔術師ではない。


「って、あんた達はあっちでしょ! 走って来なさい!」


「はいっ!」

「すみませんでしたっ!」


 急いでブレンダさんの後を追わせた。


 呆れつつ私は、寝転がったり座っている魔術師の仲間に目を向ける。


「よし、休んだね? 私達は野外に出るよ」


「団長!? 私達は休んで良いんじゃ」

「そうですよ。ブレンダだって、そう言って」

「それにまだ、休み、たいです……!」


「クローディア団長!? 私もぅ、限界……」


 何人かが声を上げた後に、セリーナさんが私に涙目で訴えてきた。

 けれど問題ない。


「大丈夫だよ。そう簡単に凍死はしないから」


「「「凍死?」」」


 何をするのか分かっていない魔術師達を外に出す。

 そして拓けた場所の中央に立たせる。


「何だこの暑さは……」

「暑いって、もんじゃない……」


 照りつける陽の光。

 それが団員の皆を苦しめる。

 

「走った後だ。油断したら倒れるぞ」

「おい、誰か新入りを支えろ。死にかけてるぞ」


 倒れかけたセリーナさんが、男性と女性の魔術師に両サイドから支えられる。


 何だかんだ、仲良くやってくれそうで良かった。

 これで見捨てられてたら、考えものだったけど一安心だ。


「団長! ここに居たら、立ってるだけで死んじゃいますよ」

「そうですよ! これが訓練なんですか!?」


 暑いと言われるのは嬉しい。

 その方が、私も頑張るかいがある。


「まさか、それじゃ始めるね。ルールは簡単、私に攻撃にするのはなし。私が飽きるか魔力が尽きるまで。もしくはブレンダさん達が走り終えて、呼ぶに来るまで耐える事」


「耐える? いったい何から……」


 わざわざ答えてあげる必要はない。


「壁よ――囲え」


 氷の壁が四方からそびえ立ち、私の身体ごと高く上がっていく。


 そして私は、氷の壁に囲われた魔術師達を見下ろしていた。


「まさか……皆さん! 火を起こして下さぃっ!」


 倒れかけていたセリーナさんが必死に声を出す。


 きっと、私がやろうとしている事が分かったのだろう。

 流石、元・魔術師団の団員だ。


「良かったね。皆、暑いんだよね? なら涼しくしてあげる」


 真上から下に向かって手のひらを向ける。

 途端に凄まじしい勢いで冷気が溢れ、閉ざされた空間に舞った。


「気持ちいい、何だよ、火なんか起こさなくていいじゃないか」


 一人がそんな事を言ってしまう。

 それで火を起こそうとしていた、他の人達も手を止める。


 けれど、私は勢いを弱める事はない。


「死んでも、文句言わないでよね」


 更に勢いを強くした途端に、汗が一瞬にして凍ったのか。

 涼しそうにしていた魔術師が腕を組み始めた。


「おい! 火を起こせ、死ぬぞッ――!」


「だから言ったじゃないですか!」

「あんたも手伝いなさいよ!」


 何人かのグループが自然と生まれ、皆で身を寄せ合いながら火を起こしている。

 けれど、その灯火は余りにも弱々しかった。


「うぅん、快適だなぁ」


 真上から差し込む強い日差し。そして下から舞い上がって来る冷気が、走り続けて上がっていた私の体温を下げてくれる。


「これで後は、飲み物が飲みたい……」


 片手から魔力を出し続けながら、私はのんびりと氷の上に座っていた。


「あぁあっぁあぁぁ……寒い寒い寒い」

「無理、無理、無理」


「ブレンダも鬼だけど、団長は悪魔じゃねぇかよ」


「セリーナさん。クローディア団長って、魔術師団の頃からあんなだったの!?」


 身を寄せ合う彼らは互いに腕を組み、手を前に出していた。

 そして火を生み出せないセリーナさんが、皆の頭上にゆっくりと土の壁を作ろうとしている。


 本当にあの子は、こういう時に力が発揮出来る。

 別にズルいとは思わない。


 私が言った内容に反してなければ、方法は問わない。

 それこそ、火がまともに扱えない人は居る筈だ。


 それを考えれば、自己判断で対処してもらう分には寧ろ嬉しい。


「いえ、随分とお優しくなられたかと」


「あれで!?」

「あれでかよ!」


 聞こえてはいけない声が、下から聞こえた気がした。


 別に気にして……ない。


 やがてセリーナさんの土が、全員の頭上を覆い尽くす。


「土で覆っただけで、生き残れたら苦労しないでしょ?」


 冷気を出していた私も、今度は別のものへと変えていく。


「熱せ――」


 勢いの弱い炎を下に向かって叩きつける。

 それと同時に、氷の外壁の一部に穴を空けて――横に向かって風を通し続けた。


「熱い熱い! お前ら、水だ! それか氷を出せ!」

「氷なんて出せないわよ!」

「だったら冷たい水を出してくれ!」

「炎しか出せない脳筋は、黙っててよね!」


 そんな会話が聞こえてくるも仲が良さそうで何よりである。


 セリーナさんも彼らの輪に入ろうと、一緒に知恵を絞り出そうとしていた。


 これなら思っていたよりも早く馴染んでくれそうだ。

 私以外の人とも関われるのなら、それが良いに決まっている。


 そして私は団長として、

 ブレンダさんが呼びに来るまで続けるのだった。




「ほらもっと行くよ! しっかりしてよね!」




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