第110話:告げる光
偶然通ったという事はなかった。
店の前に馬車が泊まる。
そしてアルメル王女が、テラス席に姿を見せた。
「お取り込み中に失礼いたします、お兄様。そしてクローディアさんもお久しぶりです」
「お久しぶりです。アルメル王女」
「あら、アルメルと呼んでいただいても、構いませんよ」
テラス席に入って直ぐの場所でそう話すも、後ろに居る第六騎士団の団長と副団長は少し不機嫌そうに立っていた。きっと呼び捨てにしたら、何か言われるに違いない。
ってあれ、以前も似たような経験が……あった気がした。
「いえいえ、アルメル王女は、アルメル王女ですから」
「そうですか? 残念です。ですが、いずれはアルメルと呼んでいただけるように、私も頑張りたいと思います」
人の良さそうな笑みを浮かべたアルメル王女が手を重ね合わせて、左頬のそばに寄せる。
顔は傾けていないからか嫌な感じはしないし、寧ろ少し可愛い。
けど、少しだけ怖い。
そんな感じがした。
「アルメル、その辺にしてもらえるかな?」
「はい、お兄様がそうおっしゃるのでしたら、そういたしますわ」
アルメル王女がすんなりと聞き入れる。
やっぱりノエルさんの事は、素直に慕っているのだろう。
良好な兄妹関係なのならば、私も加わりたい。
「アルメル王女、よければお座りになりますか?」
「よろしいのですか? お楽しみの所だったかと思いますが」
知ってて来たのは少し酷い。
と思ってしまうも、来てしまったものはしょうがない。
それに、
「良いんですよ。赤髪で見下ろしてくる人とは違いますから」
「あら、随分と嫌われた方も居るものですね。いったい何があったのやら、少々気になってしまいますわ」
「いずれ、二人っきりでお話する機会がありましたら、色々と話しましょう」
ノエルさんの事とか聞きたい。
絶対に、シグルド王子よりは何か知っている。
私はそう確信していた。
「まぁ、それはとても嬉しいご提案ですこと。ですが、今回はご遠慮させていただきます。今回は、お兄様にお渡しする物があり、参りましたので」
私に断りを入れたアルメル王女が、ノエルさんの方を向き一歩近づいた。
「お兄様、帝都へお戻り下さい」
離れていた団長が近づき、アルメル王女に手紙らしき包を渡す。
受け渡しが終わるや、直ぐに団長が下がって行く。
「どうぞこちらを――全騎士団に、召集がかかりました」
召集……?
騎士団に……?
理解が出来ず、私の思考が止まってしまう。
「ありがとうアルメル。おかげで少し時間に、余裕が出来たよ」
「とんでもございません。何度でも、お届けにまいります」
「君が届けてくれて、僕も嬉しいよ。でも来た理由は、それだけじゃないよね?」
「まぁお兄様、私が隠し事をしていると、おっしゃいますの?」
「そうは言ってないよ。隠す気はないみたいだからね」
「はい。でも、これだけ見放しの良い場所なら、お伝えせずとも問題ないでしょう」
広い共和国の空を見渡したアルメル王女がそんな事を口にする。
見放しが良いと、何か都合が良いのだろうか。
更に分からなくなっていた。
「クローディアさん、この度の多大なるご功績、お見事でございます。心より敬意を示させていただきます。今後とも、私とも仲良くしていただけますでしょうか?」
「それは、こちらこそお願いいたいですけど……ご功績? 何の事ですか? 城塞都市から街の人を避難させた事に関しては、私よりも第三騎士団の皆が頑張ってくれただけですので」
「もちろん、そちらも存じております。ですが、それだけではありませんのよ?」
「ん?」
私は少し首をかしげていた。
けれど、楽しそうにするアルメル王女が私とノエルさんに深く頭を下げる。
「それでは失礼いたします。クローディアさん、今度は帝都でゆっくりとお話ししましょうね」
「はい」
私が答えると、アルメル王女が護衛の二人を連れて離れて行った。
「ノエルさん、何の事を言ってたか分かりますか?」
「アルメルが分かるって言ってたんだから、気にしなくて良いんじゃないかな」
「まぁ、ノエルさんがそこまで言うなら気にしませんけど」
そう言いながら、最後の一欠片を口にする。
でも本当に何の事だったんだろう。
多大なる功績?
まるで記憶にない。
いつも何かあれば、それ相応の事はしてもらっている。
もちろん、無自覚に行ったとかもない。
最近はずっと、城塞都市の事だけで手一杯だったんだ。
他にも行う方が無理がある。
ならやっぱり、城塞都市絡みからな。
でも……それらしい事は思い浮かばない。
大変は大変だったけど、功績ではない。
本当に私達は、ただ助けに行っただけだ。
そしてノエルさんの言った通り、一筋縄ではいかなかった。
もう少し間違ってたら、救出はどうなっていたのか。
考えたくもない。
――いっそこの事、全ての国が手を取り合えば違うものを。
国が一つになるか。
起こったとして、どうなるのやな。
「ノエルさん。仮にですけど、一国が全てを支配してしまったら、世界はどうなるんですか?」
「急にどうしたんだい、世界征服でも考えた?」
ノエルさんがゆっくりとした声色で返してくれる。
「いえ、ただの興味本位です」
「そういう事なら、帝国としての考えじゃなくて僕の考えを話させてもらうけど。意味がないんじゃないかな」
「どうしてですか?」
「管理が出来ないからだよ。千人の人が居れば悪人が一人は居る様に、ある程度地位を持つ者が必ずしも善人とは限らない。けれど、地位や権限を与えずには部下を管理する事も出来ない。だから国が例え一つに纏ったとしても、いつかは崩れ去る。長い人々の歴史がそうだったように」
「なるほど……」
理解は出来るし、納得も出来る。
けれど、納得はしたくないという気持ちもあった。
つまり人だけになると、争うという事だ。
「だったら、魔物は――居たほうが良いのかもしれませんね」
魔物が居るから、国同士が助け合っている。
その存在が居なくなったら、きっとまた争いが起こってしまう。
「けど、相手が人や魔物であろうとも。対話が行えるのなら、平和の可能性は残されていると思うよ」
魔物も含まれている事に少し驚いてしまう。
私が城塞都市で遭遇した、あのでたらめな存在。
ノエルさんは、あんな奴とも会話する気があるのだろうか。
そうだとしたら、とても頼もしい。
「良いですね。対話で仲良くなりましょう。魔物とも」
「まさか魔物が先とはね。王国とは良いのかい?」
「前にも言いましたけど、それだけはお任せします」
少し笑って答えると直ぐに重苦しい雰囲気はなくなり、私が更にパフェを食べる。
そして涼しい風を受けながら、ゆっくりとしていた。
北西の方角に、光が――突然現れるまでは。
「ノエルさん、あっちは帝国ですよ!? 急いで」
何が起こったのかと焦る私に対して、ノエルさんは冷静だった。
「大丈夫だよクローディア。あの光は、アルメルが言っていたものだと思う」
「えっ……」
遠く離れた場所。
そこで、昼間であっても気づく程の光が空へと高く伸びている。
次第に光がゆっくりと高さを落とし、左右に広がっていく。
移り変わるその様子は、私達が城塞都市で見た障壁と余りにも似ていた。
でもありえない……。
あれほど巨大なエネルギーをいったい――。
「ノエルさん、あれってもしかして……」
城塞都市を囲っていたコアは、ルイスさんが持っている。
そして、それよりも広範囲に。
例え一面だけだとしても、規模が規模だ。
それを補えるコアと言えば、私がノエルさんと一緒に取ったダンジョンコア以外には――思い浮かばなかった。
多大なる功績。
その言葉の意味が分かると同時に、私は頭を抱えてしまう。
これでまた、面倒事に巻き込まれるのは目に見えている。
そんな状態で他の騎士団やら、ノエルさんの兄妹の前に姿を現すの!? 出来れば遠慮したい。
恐らく全員から集中砲火されてしまう。
それが分かりきっているのだ。
どうにかして遠慮出来るなら、遠慮したい。
「その……ノエルさん……。さっきの集まりって、私は参加しなくても……大丈夫、だったりしますか?」
遠くを見ていた私がノエルさんの方を向く。
そして、少し申し訳なさそうにノエルさんが口を開いた。
「今回ばかりは出てくれると、僕としても助かるかな」
ノエルさんが困った顔で私を見ている。
うぅ、心が痛む。
これで断ってしまっては、ノエルさんにご迷惑が。
……そして私は、決断した。
団長として、色々言われることを。
「聞いてみただけなので、もちろん、引受させてもらいますよ……!」
休んで良いと言われたら休んでいたと思う。
けれど、今の私はもう。
ただのダンジョンの夜間警備ではない。
「私なりに頑張ってみます」
どこまで何の役に立てるのかも分からない。
それでも、ノエルさんが少しでも助かると言ってくれるのなら、今度は私が助ける番だ。
「これでも、第三騎士団の団長ですから」
団長になったばかりなのだから、それで良い。
というかそれ以外は許されない。
でもいつかは、
クローディアとしても隣を歩きたい。
少し贅沢な願いかもしれないけど、願うのは自由なのだからと。私は胸の内で――そう願うことにした。
第二章を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
引き続き『第三章』の投稿を来週には始めたいと考えております。少しでも面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークをしてお待ちいただけますと大変嬉しく思います。
また【書籍版の】追放された魔術師団長クローディアの愛され無双 I では、Web版一章の内容に加筆が行われております。是非そちらも、ご確認していただけますと幸いです。
皆様の応援や反応が、執筆の原動力に繋がります!
何卒よろしくお願いいたします。
――海月花夜――




