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第107話:ロッティ……さん!?


「お菓子の人」


 マルレーンくんに呟かれてしまう。

 そしてマルレーネちゃんと、もう一人の子も私を見ていた。


 ――二人のちょうどあいだぐらいの背丈の子。

 

 男の子がするボーイッシュショートな短い髪型をしていて、とても動きやすそうな印象かと思えば、動く動作は少し控えめだった。


 さっきまで私が相手してた子たちとは大違いだ。


「元気してた?」


 昨日はずっと馬車で眠っていたから、何だか久しぶりに覚えてしまう。

 厳密に言えば、一日と数時間ぐらいだ。


「うん、元気だよ?」


 マルレーンくんが少し自信なさげ答えてくれる。


「もしかして、手が痺れてたりする?」


「ううん、平気だよ?」


「ちょっとごめんね」


 マルレーンくんの手に触れ、異常がないか確認する。


 けれど私が分かる範囲では異常は見当たらない。

 検査したと思うけど、ルイスさんに言ってもっかい診てもらおうかな。

 

 それか、とりあえず治癒を施してもらうのもありだ。


「さっきまで暴れてたもんねー」


「暴れてないよ。あれはお姉ちゃんが」

「私は何もしてないわよ。ねぇ、ロッティ」


「えっ、私?」


 ようやくもう一人の子が声を出し、私は気づいてしまう。


 この子は、多分だけど女の子だ……。

 可愛い顔をしているとは思ったけど、男の子のかっこよくなる様な柔らかさもあったから、そっちだと思ってた。それにマルレーンくんとも仲が良さそうな話だったし。


「ねぇ、マルレーンくん。あの子が?」


 少し慌てたマルレーンが、その子の方を向いて話し始めてくれる。


「うん。ロッティって言うの、友達」


「そっかありがとね。教えてくれて」


 約束通り教えてくれて、私は少し膝を曲げてその子と目を合わせた。


「初めまして私はクローディア。まぁお菓子の人って呼ばれる人かな。貴方がロッティ……さんで良いんだよね?」


「何でさん付け?」

「ロッティ、知ってた?」


「ううん。知らない」


 色々迷ったあげく、止まりかけた思考がさん付けを選択してしまった。

 他意はない。


「ロッティ……です。その、さんじゃなくて、ロッティって呼ぶか、その……ちゃん。って呼んで下さい」


「うん、分かった。よろしくね、ロッティちゃん」


「はい」


 私がそう言うとロッティちゃんが明るい表情を見せてくれる。

 良かった……これで良かったみたいだ。


 でもやっぱり、子供って凄いな。


 確かに、遠い昔を思い出せば、男の子の同級生が先生に女の子だと間違えられてた事があった。それを考えたら、的確に見抜ける人は普通に凄い。


「あの、あれはクローディアさんが、作ったんですか?」


 ロッティちゃんが巨大なプールとなった氷を指さしていた。


「そうだよ。凄いでしょ」


「はい。でも、水が冷たすぎるんじゃ……」


 そんな事を言われてしまうも、抜かりはない。


 水の中に火を灯せる私が作った水。

 よほど適当に生み出さない限りは、周囲の氷に影響されすぎて必要以上に冷たくなったりする事もなければ、周囲の氷自体に触れて皮膚がくっついたりする事もない。


 ほんと、魔力を注ぐという力技で解決する事が多いのだから、私にとっては嬉しい限りだ。


「大丈夫だよ。冷たいって言っても、これぐらいだから」


 前に出した手の平に少し冷やした水を出して、三人に近づける。


 そこに三人が、指を触れさせた。


「冷たい」

「けど、川の水もこれぐらいだよね?」

「うん」


 三人が各々で口を開くも、何だかとても仲が良さそうだった。


「でしょ? 私、凄いんだから」


「他にも作れるの?」


「作れるよ、大きな塔とか、大きな壁とか」


 マルレーンくんに聞かれ、私は直ぐに答える。


「なら、氷のバラとかも作れるんですか?」


「バラ? バラって……あの赤いバラ?」


「はい!」


 ロッティちゃんに聞かれ、私は少し……困ってしまう。


「それは……ちょっと。ねぇ?」


 大きなバラなら……もしかしたら……。


「無理なの?」


「うん。小さいのは、ちょっとね……」


 なんて情けないんだ。



 改めて、カル村長に教えてもらいたくなる。


 バラの作り方なんて知らないよ。自分で考えておやり。などと言われそうな気もしなくもないけど、自分でやるにしても細かい作業には限度って物がある。


「でも、沢山氷が出せて、凄いです! 私なんて、全然出せないので……」


「あれ、ロッティちゃんは、魔術が使えるの?」


「魔術って言えないんですけど、小さな氷なら……」


 そう言われ私は驚いてしまう。

 それはつまり――魔力を何かに変えているという事になる。


 確かに魔術と呼ぶに呼べないけど、誰にも教わってないのに出来ているのなら凄い事だ。


 さっきの子もそうだけど、最近の子は凄すぎる。


 無限の行動力というのは、やっぱり最強なのかもしれない。

 子供の方が成長が早いとは言え、本当に凄いな。



 ――私に教える才能がしっかりあったら、魔術講師なんかも……やってみたかったな。



 事故なく魔術を扱えるようにしてあげられたら、それで良いんだけど。

 今のところはそんな自身はない。


「ちょっと見せてくれる?」


「でも……」


「ロッティなら大丈夫だよ! いつも頑張ってるんだから」

「やってみたら良いじゃない」


 マルレーンくんとマルレーネちゃんが背中を押していた。


「無理しなくて良いからね、ゆっくりだよ」


 意を決したロッティちゃんが手で左手を前に出して、その手首を右手で掴んで見せようとしてくれる。


「うぅっん……!」


 魔力が微かに流れているのが分かり、小さな輝きが現れる。


 形作られた結晶が光を跳ね返し、

 ロッティちゃんの手の平に――小さな氷の粒が出来ていた。


「出来たっ!」


「すごい! すごいよロッティ!」

「だから早くやれば良いって、言ったのよ。私のおかげね」


「お姉ちゃんは何もしてないでしょ」

「私だって、言ったわよ。頑張ってって」


「言ったっけ?」


 マルレーンくんがロッティちゃんの方を見るも、そのロッティちゃんは少し疲れた様に優しく息をはいて落ち着こうとしている。


「凄いよ、出来たじゃん」


 本当に小さいけど、十分に凄い。

 今後、どの道に進むのかは分からないけど、間違いなく大きな一歩だ。


「はい、ありがとうございます」


「私は何もしてないよ。貴方が自分で頑張ったんだよ」


 本当に私は何もしてない。 


 けど、明るく楽しそうにしているロッティちゃんを見ていると私も嬉しかった。


「でも、出来て良かったです!」


「毎日、練習すると良いかもよ。あっでも、無理はしちゃ駄目だからね?」


「はい、頑張りますっ」


 小さく両手を握ったロッティちゃんを、近くに居るマルレーンくんとマルレーネちゃんが羨ましそうに見ている。


「僕も……また、魔術が使えるように、なる?」


 マルレーンくんの手を使って火を出した。

 その事を言っているんだろうけど正直に言って、それは私にも分からなかった。


 無茶をしてしまったのだ、今は何とも言えない。


 仮に片手は使えなかったとしても、感覚を薄っすらとでも覚えている分もう片方での魔術の上達が早い可能性すら残されている。


「今は、しっかりと休んで、もう少し大きくなってからじゃないと分からないかな。だから、君も無茶したり、どうにかして使おうとしたら駄目だからね?」


「うん……」


「良し、そうと決まれば、皆の所に行って遊ぼうか」


 あの巨大プールを作った責任者として、少しは遊んでもらいたい。

 それにまだ、時間なら残っている。


 ノエルさんと甘い物を食べに行くのは、その後だ。


「また、ウルトラスーパー、ウォーター? やるの?」


「聞いてたんだ……」


「うん」

「聞こえてました」

「はい」


 何だか、むず痒い気持ちになってしまう。


 勢いで言っただけで意味なんて何もない。

 そんな言葉を覚えられてしまっても、普通に恥ずかしい。


 小さい子も多かったから、言っただけだ。

 本当に他の意味は何もない。


 無言でも、あの程度で良いなら使えるんだから――。



「その……出来れば、忘れてくれるかな?」


 悩む間もなく返事が返された。


「僕、忘れる!」

「私も」

「私もです」


「助かるよ」


 これで私が、将来的に良く分かんないダサいフレーズで水を出していた魔術師などと言われる危険性は、少なからず下がったと思う。


 ありがとう三人とも。


「先に、お菓子もらおうか」


「うん!」



 マルレーンくんが答えてくれたので、私達はノエルさんの所に向かった。


 既にお菓子を貰おうとする子供の姿はなく、何だかんだ言って二つや三つ食べた事も居たという話しを耳にする。それでも、お菓子が七つ以上残っていたのを一番喜んだのは多分私だ。


 三人に二つずつ渡して、更に余った一つを渡そうとするも遠慮され何故か私に渡されてしまう。


 だから私とノエルさんは、一つのクッキーを半分に分けていた。


「皆で食べよっか」


 ノエルさんと二人で分けて、三人がそれぞれ持っている分を食べる。


「美味しい」


 そんな風に皆と食べるお菓子は、いつもより美味しかった。



「またお菓子、持って来るからね」


 機会があれば必ず――持って来よう。

 そう考えた私はノエルさんを見て、小さく二人で頷いていた。



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