第106話:子供たち
近くでお菓子を買った私達は、大きなお菓子缶を一つずつ持っている。
本当は個別の物を買いたいけど何人居るのかも分からないから、とりあえず大量のクッキーが敷き詰められた物を買う事にした。
「おい、私が持つ必要が感じられないのだが?」
ルイスさんが両手で持つと、不思議と少し大きく見えてしまう。
私のよりも中に沢山入っていそうだが、同じ大きさだ。
「何言ってるんですか。重ねて持ったら、子供たちが二箇所からしか取れないですけど、三人で別々に持ってたら三箇所になるじゃないですか」
「だから何だと言うんだ」
「分かってないですねぇ、我先にと来る子供たちに対応するには、そうするしかないんですよ」
何なら、ルイスさん一人に缶を三つ渡して親しみやすさ……などと考えたが。地面に三つ並べて、勝手に取れと言ってそうな姿が思い浮かんでしまう。
それだけは回避しないと。
「金に集まる貴族と同じか」
「そんなものと一緒にしないでくれますか!?」
とんでもないものと同じにされ、慌てて否定する。
「変わらんだろ」
「変わりますって。ねぇノエルさん」
「そうだね。ちゃんと一人ずつ渡そうか」
今思えば、ノエルさんにお菓子を持たせるというのは、とんでもない事なのではないだろうか。今更ながら考えてしまうも、何も言われてないうちは……きっと大丈夫だと思いたい。
でも、気をつけないとな。
子供を使ったいたずらならまだしも、暗殺だってないとは言えない。
考えるのも嫌だけどそれが起こってしまう世界なのだから、綺麗事では片付けられない問題だ。
けど、そのノエルさんも、私と同じように楽しそうにしている。
「喜んでくれると、良いんですけどね」
「きっと大丈夫だよ。ルイス伯爵も居るからね」
どういう意味だろう。
普通に考えたら、ルイスさんの人気度だけど。
他にも何か、理由があるのかもしれない。
子供だから、子供たちが親しみやすいとか?
仲間みたいに……見えなくもないしな。
う~ん、どうだろう。
少し気になりつつも歩く私の耳に、子供たちの声が聞こえてくる。
邪魔しちゃ悪いけど、お菓子を持っていれば問題ない。
そのまま私達は、声のする方へ近づいて行った。
大きな建物に隣接する広場。
そこで子供たちがボールを蹴ったり、数人の子は手から僅かな水を出して他の子にかけたりして、楽しそうに遊び回っている。
あの子はきっと、将来有望な魔術師になるに違いない。
そしたら一緒に、子供たちに水をかける仲間になってもらおう。
直ぐに何人かが私達に気づき、視線が集まった。
「お菓子持って来たよー!」
「ほんと!?」「やったぜ!」」
「俺一番!」「ふざけんじゃねぇ、俺が先だッ」
「私も! 男の子はさっき、皆のお菓子勝手に食べたでしょ!」
言いたい放題のまま、一斉に駆け出していた。
「おいおい、待て待て。そんなに走ってくるなっ!」
慌てるルイスさんの声も届かず、子供たちが突撃してくる。
その勢いにルイスさんが逃げようとするも、いつのまにか背後をとられたルイスさんは、小さな女の子に逃げ道をふさがれていた。
「いつのまに……」
呆然としているルイスさんを、子供がちょっとだけ見上げる形で声を出す。
「お菓子、ちょうだい」
どっちも子供なのだが、お菓子を持っているのはルイスさんの方だ。
ルイスさんが缶の蓋を開き、中に入っていたクッキーを見せる。
すると手を伸ばした子供がそれを選び取った。
「ありがとう」
「受け取ったのなら、さっさと離れるんだな」
無愛想なルイスさんが本陣に視線を戻す。
既に迫る大群は――おびただしい数に膨れ上がっている。
軽く二十人を超える子供たちが三つの集まりに分かれ、ルイスさんや私、そしてノエルさんに迫った。
元々、街で配った子たちだけじゃなく、初めから避難していた子供たちも合わさり、凄い数の子供たちが此処に居る。それが一斉に向かって来るのだから、やはり三人だけじゃ、厳しかったかもしれない。
並ばせるよりも先に伸ばされ手が、私の持っていたお菓子に触れる。
一つ。
また一つと、物凄い速度で減り続けていく。
「ちょ――君! 今二つ取ったでしょ! 皆一つずつだからね!?」
「分かってるよ」「早くしろよ俺にもよこせ!」
「俺も俺も!」「邪魔すんなよ!」
何故か私の所には元気な男の子たちが密集してしまう。そしてノエルさんの所には、押し合う素振りすらもない女の子ばかり集まっているのを横目で捉える。
この差は……。
などと考えそうになるも、冷静に考えるまでもなかった。
相手はノエルさんだ。
いくら私がお菓子を持っていても、同じ物を持っていては敵わない。
「あの、ありがとうございます」
「どういたしまして。また後で、余ってたら配りに行くからね」
「はいっ!」
そんな平和な会話がノエルさんの方から聞こえるも、私の前でカオスとなった音がそれをかき消していく。
「ちょっとは落ち着いて! お願いだから! お菓子あげないよ!?」
「何だよそれ!」
「俺達で全部食べてやる!」
「取れ取れ!」「よこせ!」
マナーなどなにもない。
缶に入っているお菓子がありえない速度で減っていき、私の身体ごと突き飛ばされそうな勢いで子供たちがぶつかってくる。
「やった二個め!」
「ちょ確信犯!? それは駄目だって――」
「ぶへぇッ――」
犯行を認めた子の顔に魔力で作った水を飛ばし、その子が手で水を落としながら私の方を見る。
「もっかい! もっかい!」
しまった。
つい――やってしまったのが――仇となった。
「ずりぃぞ! 俺も――」
「えぇ私も遊びたい!」「もっと沢山出せないのかよ!」
「でも、魔術って難しいから」「それはアレルだからだろ」
「大人なんだから、それぐらい簡単に決まってるだろ!」
さっき水を放ってた子まで巻き込まれ、子供たちの意識が別のものに移り始める。
「分かったから! 水を受けたい子は、あっちに集まって!」
そう言って、少し離れた誰もいない場所に水の塊を落とした。
大きな音と共に子供たちが振り返る。
子供たちが遅れて目にしたのは、大量の水が地面で広がっている光景だった。
「すげぇ、見たかよ」
「やっしゃ、行こうぜ」「水だ! 水だ!」
大半の子供たちがそばから離れ、水が落ちた場所に向かう。
それはルイスさんやノエルさんの所に居た子も同じだったらしく、七割ほどの子供が自然と集まって、軽く五十は超える子供たちが地面が濡れた場所に集結する。
「くらえ! ウルトラスーパーウォーター!」
良く分からない事を適当に呟きながら魔力を水に変え、子供たちの頭上に――水を薄く引き伸ばしたものを生み出す。「「「ぉおぉ」」」と声を出す子供たちに向かって、それが真下に落ちた。
ぱしゃん――と水が落ちて子供たちの楽しそうな悲鳴が広がり、一瞬で全員がびしょ濡れになってしまう。
「もっかい!」「もっと沢山!」
「すげぇ!」
更に興奮した子供たちから要望が出され、私は水を生み出した。
「この! これでもくらえ!」
再び同じ量の水を落として、直ぐに追加で水を落とす。
一度に落とす量を増やすと危険だからこれ以上は増やせないけど、楽しそうで何よりだ。
「ったく、ひどい目にあったじゃないか」
隣から、残っていたお菓子を配り終えたルイスさんが文句を言いながら歩いてくる。
「まぁ良いじゃないですか、たまには」
ノエルさんが言っていた事はきっと、私とノエルさんに集まらない子がルイスさんになら行きやすいからかと、勝手に思う事にした。
実際、子供からしたら親しみやすさは大切だ。
「なぁ、もっとやってくれよ! お菓子の人」
話していると離れている子供たちから追加で要求され、私は片手で水をほうり落す。けれど、もう片方の手では別の場所に氷を作り始めた。
氷の薄い地面と、子供が腰掛けられる低い壁。
それが簡易的な巨大プールとなり、水を少し入れた。
周りで大人しくしていた子も自然とそこに集まり、小さな声で冷たいと良いながら入っていってくれる。
そして私は――少し離れた所で、集まっている三人組を目にした。
マルレーンくんとマルレーネちゃん。
それともう一人一緒に、話している子が居る。
「見つけた」
あの子が二人の言ってた『ロッティ』って子なのかは分かんないけど、二人に会えるのは嬉しい。
私はもっていたお菓子をルイスさんに託し、三人の元へ近づいていく。
「えぇもうやらないの!?」
「あっ! やめんなよ! もっと水出してくれよ!」
そんな声が聞こえ、私は再び氷を生み出し始める。
氷のプールに辿り着く形で、横に広々とした巨大な滑り台を作る事にした。もちろん裏手にある階段は、すべらないように表面をざらざらとさせている。
興味をひけたのか水を要求していた子供たちは滑り台に走り出し、氷の滑り台を十人以上が一斉に滑り始め、水の張られたプールに勢いよく落ちていく。
「よしよし、とりあえずはあれで、満足して貰えるかな……」
他を要求されたら、何をやろうかと考えてしまう。
例えこの世界だとしても、多少の安全面を考慮したら――子どもの膝より高くは水を張る事も出来ず、氷で他の物を作るにしては色々と難しいし私が思いつくかどうか……。
だから私は何かを言われる前に、マルレーンくんたちの方へ避難するのだった。




