802話 命は懸けない 04
「ベルカーヌは、強いけどさー。
何か、あたしらとは違うんだよね」
エンガワに腰掛けた炎狼が、ぽつりと呟く。
意外にも小柄な『暴君』の脚が、地面に届かずにプラプラと揺れている。
「あたしも、ダグマイアーもさ。
剣の道を進む為に、汗水垂らして、血ヘド吐いて努力するけど。
『その事』に、命は懸けてないじゃん?」
「・・・言葉にすりゃ、カッコ悪いんだけどな。
一応、事実としてはまあ、そうだな」
「格好良くたって別に、意味は無いからね。
本当に命懸けなら、すぐ死ぬもん。
自分より強いヤツにしつこく挑めば、あっという間に『死体』になれるけど。
”命懸けで剣を極めます!”って、初日でくたばって。
一体、それの何が凄いってのよ?」
「どのみち剣なんてやってりゃあ、死ぬのは『秒』だろう。
多分、最期の瞬間は、何かを思い出してる暇も無ぇな」
「そそ。
『命懸け』なんか誓わなくたって、失敗したら死んで終わり。
それが当然で。
死なずにやり遂げたいからこそ、苦労してるんだよね、あたし達。
けど、ベルカーヌはそこからして、違うと思うよ?
あの娘はね。
『死にたくないから強くなりたい』、って感じ」
「・・・・・・」
「堕天の身の上だし、色々あるんだろうけどさ。
死にたくなきゃ、『戦うことを避ける』のも選択の一つなのに。
それを選べないくらい、恐いんでしょ、死ぬのが。
そういう娘と戦うのは、気が乗らないなー。
勝っても負けても、可哀想で」
「・・・何となく、分かる気はするぜ」
言われてみりゃ、妙な感じだったんだよな。
あのねーちゃん、俺の双剣を止めた時に《怒り》があった。
強い者を前にした喜びや、自分のほうが強い、という驕りでもなく。
ただ、《怒り》や《憎しみ》とかのネガティブな感情。
そして、そこには。
『陛下を攻撃された』事に対しての憤りが、殆ど含まれていなかった。
”強い”という事実の裏にも、そこに至るまでの様々な理由があるわけか。
「───ま、だからこそあんたは、相手として丁度いいんだよねー」
「そんなもんか」
「そうだよ。
数字で言えば、あんたがあたしに勝つ確率は、4割くらいあるし」
「そりゃ買い被り過ぎだろ」
「ホントだってば」
「なら、何で何回やっても勝てねーんだよ?
勝ちそうにすらなったことねーぞ、一度も」
「や、そんなの当然だし!
サイコロ転がしての、運任せじゃないんだから!
4割も勝たせない為に、こっちも真剣にやってんの!
あんただって、10回に4回勝てりゃいいや、って手加減してやしないでしょ?」
「4割を『通す』にも、努力が必要ってか」
「楽して強くなれるわけないもん。
自己否定したり悩むより、さっさと前に歩き出さないとね!」
喉を鳴らしてムギチャを飲み切り、グラスを置く炎狼。
「───でも、よかったよ。
あんたがまた、剣を手にしてくれて」
「・・・・・・」
「強敵がいる、そいつが今も高みを目指して頑張ってる。
その事が、あたしにとって嬉しくて、励みになるし。
それにさぁ」
「何だよ」
「《雪崩二刀》の復活は。
少なくとも一匹の『紳士猫』を、笑顔にさせるんじゃない?」
「・・・・・・」
んな事、知るかよ。
てゆーか、なんで炎狼が知ってんだよ、それ。
どうにもやるせない思いを、溜息と共に吐き出せば。
嬌声を上げてすぐ側を通り過ぎる、ジャル&ジャエ。
とびきり元気に、庭を走り回っていやがる。
いや。
正しくは、肩に乗せた黒騎士を、『走り回らせている』。
ああ。
いよいよもって、俺は自分の性格ってヤツを見失いそうだぞ。
「さぁてと!
もう一戦、やろっかねー!
お互いがギリギリ死なない程度に、張り切ってさー!」
「・・・・・・おう」




