801話 命は懸けない 03
庭に面して張り出した板張り───エンガワとやらに腰を下ろし。
冷たいムギチャのグラスに口を付ける。
山間を抜ける緩い風が、火照った体に心地良い。
宇宙では得られない、充実感。
あちこちが痛むのにさえ、何故か嬉しさを感じる程だ。
「・・・なあ。
こっちは、ともかくとしてさ。
アンタのほうは、俺と戦って修行になんのか?」
「勿論!
なるからやってんでしょ」
「いや、でもな。
もっと他に、適役なのがいるんじゃねーか?
ほら・・・あれだ、陛下の護衛の。
殴りまくる『ねーちゃん』とか」
「んー?ベルカーヌのこと?」
「名前は知らねーけども。
俺、陛下に斬り掛かった時、あいつに二刀とも素手で止められちまったぜ?」
「おおー!!
やっちゃったかぁ、あんたも!!」
「え?」
「いやー、あたしもさ!
昔、陛下にブチかましたんだよねー!」
なんか、俺と斬り合ってる時以上のキラキラした瞳で笑う、炎狼。
「大戦よりずっと前、あたしがまだ子供だった頃なんだけどね!」
「ガキの時分にッ!?」
「そうそう!
真夜中にふと、思い付いて!
パジャマのまま『これ』担いで、陛下の寝所を襲いに行ってさぁ!」
足元の土に突き立てた大剣を、至極当然のように指差すが。
「ちょッ!?おいおい、おいッ!!」
「メルヘンチックだよねー!」
「どこがッ!?」
「子供のやる事だし、腕の一本くらい落としても許してくださるだろう、と!
まあ、斬り掛かるや否や、デコピン一発でぶっ飛ばされ、終わりだったよ!
そこらの建物やら壁を全部ブチ抜いて、超高速の帰宅!
気付いたら自分のベッドの上、引っ繰り返ってたわー!」
「・・・・・・」
「ただ、やられた分はやり返さないと、気が済まないからね!
あたしが大きくなってから、ちゃんとデコピンを撃ち返しておいたっ!」
「待てよ。
そりゃちょっと、おかしいだろ」
「え?何が?」
「お前が『しでかした』から、デコピンを頂いたんだろ?
それをまた返してしまったら、計算が合わないぞ。
一回分、お前の攻撃が多いじゃねーか」
「全然おかしくないってば。
やられたから、やり返したんだよ?
あたし、『やられた分』しかカウントしてないよ?」
「何つう自分勝手な理屈を」
「大体さぁ。
あんただっていきなり、陛下に仕掛けたわけじゃん?
同類でしょ、あたしら」
「・・・う・・・」
言われてみりゃ、ごもっともか。
第三者からすれば完全に、『どっちもどっち』。
《剣狂い》の馬鹿による、常識外れな蛮行にすぎないよなぁ。
───炎狼と同列に語られることを、素直に喜べばいいのか。
───それとも、ここからでも《真っ当な道》に引き下がるべきか。
まあ、炎狼に尋ねたって、答えは分かり切ってるな。
満面の笑みで、”よし、もう一戦やろっか!!”、だ。
こういうのを相談できる・・・相談したい相手も、いるにはいるんだが。
しばらく連絡をとってないせいで若干、顔を合わせ辛い。
こっちから会いに行くのが、億劫なんだよなぁ。




