第46話 グルミネス・ロッド
一連の出来事が信じられなかった。
まさか、神上達雄が消されてしまうなんて……
「父さん……」
神上未咲の小さな声が聞こえてくる。
「これで『神上家』は力を失ったも同然だな」
『杖』を持った飯地が笑った。
もはや、かつての飯地の面影はない。
『神上家』の黒服たちを蹂躙する飯地は、楽しんでいるようにさえ見えた。
「後は、儀式を行うだけだ」
そう言って、飯地は『杖』を振るった。
ビュォォォォォォォォォ!!!
突風が辺りに吹き荒れ、飯地は姿を消した。
「未咲……」
俺は地面に力なく俯いている未咲に呼びかけた。
「父さんは……うちで唯一人、あたしに優しくしてくれました……」
神上未咲が唐突に喋りだした。
俺の声は聞こえているんだろうか?
「母さんは、あたしを冷たい目で見下し、兄さんは、あたしを除け者にしました。黒服の人たちもあたしを見て嘲笑うだけで、助けてくれません」
神上未咲が呟くように言っている。
あまり意識していなかったが、『神上家』の神上未咲への扱いは相当酷いようだ。
俺が見てきたのは、あくまでも表面でしかなかったんだな……
俺は『杖』を使う『魔女』を狂信的に崇拝する母さんがあまり好きじゃなかったけど、少なくとも母さんから俺への愛情というものは感じた。
少なくとも、母さんがいなくなってから、俺への愛情があったことを感じた。
「学校でも、兄さんの圧力で虐められました。あたしは、負けないように必死で対抗しましたが、所詮は見栄に過ぎませんでした……」
神上未咲がか細い声で言う。
じゃあ、俺を神上臨から助けてくれた時なんか相当無理してたってことか……
「竜司先輩……」
「ん?」
突然、神上未咲は俺を呼んだ。
「先輩は、あたしに優しくしてくれた2人目の人なんですよ」
「はあ……」
俺はどんな返事をしたらいいのか分からなかったので、曖昧な返事をした。
「普通の人は、兄さんが虐めた人間には寄り付かなくなります。でも、竜司先輩は違いました。竜司先輩は兄さんに虐められた人とも喋っていました」
確かに、神上臨に虐められていた結城やその他の人とも、俺は特に気にすることもなく話した。
だが、それはあくまでも虐められていた人たちが友達だったから、接していただけだ。
「それがどうかしたか?」
俺は神上未咲が言ったことがそれほど特別なこととは思わなかった。
「竜司先輩は気付いていないかもしれませんが、そういう人ってあたしのような人にとってはヒーローみたいなものなのですよ」
神上未咲が立ち上がって言った。
「あ、あのあたし……」
そして、顔を赤くしてオロオロした。
何かまずいことでも言っていただろうか?
「そんなことより、もう大丈夫か?」
先程よりも神上未咲は元気なようだった。
「はい!」
神上未咲が笑顔で返事をした。
それから俺たちは、もう自分たちがここにいる理由が無いことに気づき、それぞれの家に帰った。




