第九話「魔心魔王 ―覇王の資格―」
第九話「魔心魔王 ―覇王の資格―」
天城市――。
山と海に囲まれた地方都市。
歴史ある城跡公園と、新しい高層ビル群が共存する街。
その中心に立つ天城中央タワーの展望デッキで、一人の男が街を見下ろしていた。
織田信長。
オウゴンイエロー。
彼は腕を組みながら眼下の街を眺めていた。
「面白いな」
呟く。
「戦もなく、飢えもなく、人はこれほど増えるのか」
隣では風間史郎が緊張した様子で説明していた。
「現代はですね!物流と経済によって――」
「長い」
「すみません!」
即座に謝る風間。
その時だった。
街全体が震えた。
ゴォォォォォ―――ッ!!
突風。
空が黄金色に染まる。
「来たか」
信長の目が細くなる。
同時刻。
大十字ラボ。
警報が鳴り響いていた。
《歴史歪曲反応確認》
《危険度レベル5》
《幹部級存在出現》
大和の顔色が変わる。
「まずい……!」
命が振り向く。
「幹部?」
風間が青ざめる。
「今までとは違うんですか!?」
大和はモニターを見つめた。
「違う」
画面には黄金の炎。
巨大な反応。
「これは――IF武将だ」
市街地中央。
人々が逃げ惑う。
空間が歪む。
その中心。
黄金の玉座が現れた。
まるで王城。
いや。
王そのもの。
そこに座る男がゆっくり立ち上がる。
黄金の甲冑。
燃え上がる金炎。
圧倒的威圧感。
《我が名は》
男が告げる。
《魔心魔王》
街中の窓ガラスが震える。
《天下を統べし者》
《完成した織田信長だ》
幸村たちが到着する。
だが。
誰も動けなかった。
重圧。
存在そのものが違う。
まるで巨大な山を前にしたような感覚。
「……信長」
幸村が呟く。
信長もまた男を見つめていた。
魔心魔王。
もう一人の自分。
その視線が交差する。
《久しいな》
「初対面だがな」
信長が笑う。
《同じだ》
魔心魔王は静かに言った。
《我はお前》
《お前は我》
《違う道を歩んだだけ》
黄金の炎が広がる。
街が震える。
《見ろ》
魔心魔王が両手を広げる。
《人間は弱い》
《争い》
《嫉妬》
《憎悪》
《愚かさ》
《だから我が支配した》
幸村が眉をひそめる。
「支配だと?」
《そうだ》
魔心魔王は笑った。
《人は自由だから争う》
《ならば全てを支配すれば良い》
《苦しみもなくなる》
《戦も消える》
命が前へ出る。
「それは違う!」
魔心魔王は初めて命を見る。
《何が違う》
「選べない未来なんて!」
命は叫ぶ。
「生きてる意味ない!」
一瞬。
魔心魔王の目が細くなった。
《愚かな娘だ》
その瞬間。
黄金の波動が放たれた。
轟音。
道路が砕ける。
「変身だ!」
幸村が叫ぶ。
五人が家紋コアを起動する。
「変身!!」
赤。
青。
金。
緑。
紫。
五色の光が爆発した。
グレンレッド。
ムーンブルー。
オウゴンイエロー。
セイギグリーン。
シャドウパープル。
戦国戦隊サムライジャー。
出陣。
「行くぞ!」
幸村が飛び出す。
だが。
魔心魔王は動かない。
振り下ろされた双槍。
受け止めた。
片手で。
「何!?」
幸村が驚く。
《遅い》
吹き飛ばされる。
続けて政宗。
ライフル射撃。
だが。
黄金の障壁。
全弾停止。
「効かない!?」
《効くはずがない》
信長が大剣を構える。
「ならば我が試そう」
オウゴンイエロー。
魔心魔王へ突撃。
黄金と黄金。
二つの炎が激突する。
轟音。
街が揺れる。
剣と剣がぶつかる。
火花。
衝撃波。
互角。
いや。
少しずつ押される。
「信長!」
幸村が叫ぶ。
だが信長は笑っていた。
「面白い」
《何がおかしい》
「お前は確かに強い」
信長は言う。
「だが」
大剣を弾く。
後退。
距離を取る。
「退屈そうだな」
魔心魔王が止まる。
《何?》
信長は街を指した。
避難する人々。
助け合う家族。
泣く子供を抱える母親。
走る消防隊。
「人は弱い」
信長が言う。
「だから面白い」
《弱者に価値はない》
「ある」
即答だった。
《なぜだ》
「予想を裏切るからだ」
魔心魔王が沈黙する。
信長は笑った。
かつての自分も。
世界を変えたかった。
誰にも理解されなかった。
孤独だった。
だが。
この時代に来て知った。
人は弱い。
だが。
弱いからこそ変われる。
「支配では変化は生まれん」
信長が言う。
「未来とは選ぶものだ」
魔心魔王の炎が揺らぐ。
《選択……》
その瞬間。
命の声が響く。
「みんな!」
「未来は決まってないよ!」
黄金の炎が乱れた。
ほんの一瞬。
その隙を政宗が見逃さない。
「今だ!」
「おう!」
幸村が飛ぶ。
光秀の影が拘束する。
謙信の結界が仲間を守る。
信長が跳躍した。
覇王大剣〈布武〉が輝く。
「魔心魔王!」
《織田信長……》
「天下とは」
信長は叫ぶ。
「支配するものではない!」
黄金の炎が爆発する。
「天下布武・断罪斬!!」
巨大な一撃。
魔心魔王の胸を貫く。
静寂。
黄金の炎が崩れていく。
《なるほど……》
魔心魔王が笑った。
初めて。
穏やかに。
《それも……一つの天下か》
信長は頷く。
「ああ」
《悪くない》
黄金の光が空へ昇る。
《ならば見てみたかったな》
《その未来を――》
そして消えた。
戦いは終わった。
だが。
遥か闇の黒き城。
邪神天統は静かに笑っていた。
《獄炎》 《独眼零》
《魔心魔王》
《いずれも敗れたか》
その時。
黒き城に風が吹く。
冷たい風。
白銀の光。
現れた男は静かだった。
白き甲冑。
長槍。
氷のような瞳。
《次は私が行こう》
邪神天統が頷く。
《裁天》
男は目を閉じる。
《正義とは迷わぬこと》
《悪とは裁かれること》
《ならば私は世界を正す》
その姿は――
上杉謙信によく似ていた。
次回。
第十話
「裁天 ―正義の果て―」
正義を極めたもう一人の上杉謙信。
許さないことだけを選び続けた世界。
義を貫く戦士は、その先に何を見るのか――。




