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第十話 「裁天 ―正義の果て―」

第十話 「裁天 ―正義の果て―」

魔心魔王との戦いから二日後――。

天城市は平和を取り戻していた。

街を歩く人々の顔には笑顔が戻り、 壊れた建物の修復も進んでいる。

だが。

大十字ラボの作戦室には重い空気が流れていた。

モニターに表示されているのは、 これまで出現した幹部たちのデータ。

獄炎。

独眼零。

魔心魔王。

そして――

未確認反応。

白い光。

「次の幹部か」

幸村が腕を組む。

大和は頷いた。

「おそらくな」

風間が資料をめくる。

「今までの幹部には共通点があります」

全員が見る。

「全員が、自分の思想を極端に突き詰めた存在です」

幸村は、顔をしかめる。         「獄炎は、敗北を許さなかった」       政宗が頷く。

「独眼零は合理性の極致だった」

信長も続く。

「魔心魔王は支配の完成形…」

その時だった。

警報が鳴る。

《歴史歪曲反応確認》

《天城市中央公園》

《危険度レベル5》

全員が立ち上がった。

「来たな」

謙信だけが静かだった。

だが。

その瞳は少し険しい。

――嫌な予感がしていた。

天城市中央公園。

休日。

多くの家族連れで賑わっていた場所。

だが今は違う。

空が白く染まっている。

風が止まっていた。

鳥も鳴かない。

音がない。

静寂。

その中心に男が立っていた。

白銀の甲冑。

長槍。

閉じた瞳。

まるで神像。

幸村たちが到着する。

男は静かに目を開いた。

氷のような瞳。

そして告げる。

《我が名は裁天》

空気が震えた。

《完全なる正義》

《裁きそのものだ》

謙信が前へ出る。

男を見つめる。

「……私か」

《そうだ》

裁天は頷く。

《お前が捨てた可能性》

《迷いを捨てた上杉謙信》

命が小さく呟く。

「また……」

大和が顔をしかめる。

「謙信のIF存在か」

裁天は周囲を見渡した。

遊具。

木々。

逃げ惑う人々。

そして言う。

《人は罪を犯す》

《嘘をつく》

《裏切る》

《奪う》

《だから裁かねばならない》

謙信は静かに聞いていた。

《正義に例外は不要》

《情けも不要》

《許しも不要》

その瞬間。

裁天の槍が地面へ突き刺さる。

白い衝撃波。

広場全体に広がった。

次の瞬間。

人々が止まった。

「え?」

「動けない!」

公園中の人間が硬直する。

幸村が驚く。

「何をした!?」

《裁きだ》

裁天は答える。

《罪を犯す可能性がある》

《ならば先に止めればいい》

命が叫ぶ。

「そんなの違う!」

《何が違う》

「何も悪いことしてないじゃない!」

裁天は迷わず答えた。

《未来に悪を成す可能性がある》

《ならば同じことだ》

その言葉に。

光秀の顔が曇る。

かつて。

歴史は自分を裏切り者と呼んだ。

事情など関係なく。

結果だけで裁かれた。

だからこそ。

裁天の言葉は恐ろしかった。

「それは……違う」

光秀が呟く。

「変身!」

五人が光に包まれる。

戦国戦隊サムライジャー出陣。

だが。

戦いは異様だった。

幸村が突撃する。

裁天は避けない。

槍が振るわれる。

白い光。

幸村の動きが止まる。

「なに!?」

次に政宗。

銃撃。

しかし。

弾丸は空中で停止した。

「ありえん!」

信長の斬撃。

光秀の影。

全て止まる。

まるで世界そのものが命令を聞いているようだった。

《正義の前では》

《全てが停止する》

謙信だけが動いていた。

裁天は見つめる。

《お前なら分かるはずだ》

《正義は絶対であるべきだ》

謙信は答えない。

《悪を許した結果》

《どれだけの命が失われた》

戦国時代。

思い出す。

奪われた命。

守れなかった人々。

義を貫いても救えなかった者たち。

裁天は続ける。

《ならば裁け》

《全てを》

《迷わず》

《情けなく》

《絶対に》

白い光が強くなる。

仲間たちが苦しむ。

命も倒れる。

「みこと!」

幸村が叫ぶ。

裁天は見向きもしない。

《正義に犠牲は必要だ》

その瞬間。

謙信の瞳が揺れた。

そして。

ゆっくりと前へ出る。

「違う」

裁天が止まる。

「何?」

謙信は静かに言った。

「私は確かに正義を信じている」

風が吹く。

緑の粒子が舞う。

「だが」

槍を構える。

「正義とは人を守るためにある」

裁天の瞳が細くなる。

「守る?」

「裁くだけでは人は救えない」

命を見る。

幸村を見る。

仲間たちを見る。

「迷うから人だ」

「許すから前へ進める」

「それでも守る」

謙信は叫んだ。

「それが義だ!」

緑の光が爆発する。

裁天の拘束が砕け散った。

「動ける!」

幸村が立ち上がる。

政宗が笑う。

「ようやく目が覚めたか」

信長も笑った。

「それでこそ上杉だ」

裁天は初めて怒りを見せた。

《義ではない》

《甘さだ!》

「そうかもしれない」

謙信は頷く。

「だが私はその甘さを選ぶ」

そして。

槍を天へ掲げた。

「義心結界!!」

巨大な緑の結界が広がる。

人々を包む。

裁天の白い支配を押し返す。

さらに。

幸村が突撃。

政宗が援護。

光秀が影を縫う。

信長が道を開く。

謙信が跳んだ。

毘沙門槍〈義心〉が輝く。

「裁天!」

《上杉謙信!!》

「正義は!」

槍が振り下ろされる。

「裁くためだけにあるのではない!」

緑の光が爆発する。

「義心結界・天浄槍!!」

白い核を貫いた。

静寂。

裁天の身体が崩れていく。

《なるほど……》

初めて。

裁天が微笑む。

《守るための義》

《それもまた……正義か》

謙信は静かに頷く。

「ああ」

裁天は空を見る。

《少しだけ》

《羨ましいな》

光になって消えていった。

ーーー                    裁天が光となって消えた後――。

天城市中央公園には静かな風が吹いていた。

避難していた人々が動き出す。

子どもが泣きながら母親に抱きつく。

友人同士が無事を確かめ合う。

その光景を見ながら、謙信は静かに目を閉じた。

「守れたな」

幸村が笑う。

「ああ」

謙信も小さく頷いた。

命が駆け寄ってくる。

「みんな無事だよ!」

その笑顔を見て、謙信は少しだけ微笑んだ。

かつて守れなかった人々。

救えなかった命。

それでも。

今は守れる。

それだけで十分だった。

その夜――。

大十字ラボ。

作戦室。

風間史郎が古い史料を調べていた。

机の上には戦国武将たちの資料。

その中に一冊だけ異質な本がある。

『本能寺異聞録』

風間は首を傾げた。

「こんな本……あったっけ?」

ページを開く。

そこには奇妙な文章。

裏切り者は誰か。

信じる者は愚かである。

真実は闇の中にある。

「なんだこれ……」

その瞬間だった。

ページが勝手にめくれ始める。

バラバラバラバラ――

部屋の電気が点滅した。

風間が立ち上がる。

「え?」

本の中から。

黒い影が滲み出した。

まるで墨が流れるように。

影は壁を伝い、天井へ広がる。

そして。

誰かの笑い声が響いた。

《ククク……》

風間が凍りつく。

「だ、誰だ!?」

影の中で。

紫色の瞳が開いた。

一つ。

二つ。

三つ。

無数に。

《人は面白い》

《信じたいものだけを信じる》

《だから簡単に騙される》

風間が後退る。

足が震える。

逃げたいのに動けない。

《明智光秀》

《裏切り者》

《そう呼ばれ続けた男》

影が人の形になる。

紫の羽織。

妖しく揺れる瞳。

不気味な微笑み。

《ならば教えてやろう》

《信頼の終わりを》

紫の炎が燃え上がる。

《我が名は――闇暗鬼》

その瞬間。

大十字ラボ全体に警報が鳴り響いた。

《歴史歪曲反応確認》

《内部侵入反応》

《警戒レベル最大》

幸村たちが作戦室へ駆け込む。

だが。

そこにいたのは震える風間だけだった。

床には開かれた古書。

そして壁一面に残された文字。

信じるな

紫色の文字が、ゆっくりと滲むように消えていく。

光秀だけが、その言葉を見つめていた。

静かに。

誰よりも長く。

そして小さく呟く。

「……来ましたか」

その表情は。

これまでで最も険しかった。

次回

第十一話

「闇暗鬼 ―信じる者たち―」

裏切り者と呼ばれ続けた男、 明智光秀。

信頼を捨てたもう一人の自分 「闇暗鬼」が天城市に現れる。

疑心暗鬼が人々の心を蝕み、 仲間同士の絆さえ引き裂いていく。

信じるとは何か。

裏切りとは何か。

そして光秀が語る、 本能寺の真実とは――。


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