第八話 「独眼零 ―感情なき覇者―」
第八話
「独眼零 ―感情なき覇者―」
朝。
大十字ラボ。
窓から差し込む光が作戦室を照らしていた。
昨日の戦いの疲労も残る中、幸村たちは朝食を囲んでいた。
「なるほど……」
幸村が牛乳を見つめる。
「牛からこれほど白い飲み物が出るとは」
「今さらか」
政宗が呆れる。
「だが美味いぞ」
幸村は真剣だった。
信長は新聞を広げている。
謙信はきちんと箸を揃えている。
光秀は静かにコーヒーを飲んでいた。
そんな平和な時間。
突然。
警報が鳴った。
《歴史歪曲反応確認》
《市街地東部》
《レベル4》
大和が立ち上がる。
「来たか!」
市街地東部。
人々が逃げ惑っていた。
道路が歪んでいる。
建物が捻じ曲がる。
空間そのものが壊れていた。
中心に立つ男。
青い外套。
漆黒の甲冑。
片目だけが青く光る。
幸村たちが到着した瞬間。
政宗が止まった。
男が笑う。
《久しいな》
その声。
その立ち姿。
その眼。
まるで鏡だった。
「……俺か」
政宗が呟く。
大和の顔が険しくなる。
「まさか」
男が静かに名乗る。
《独眼零》
《感情を捨てた伊達政宗》
空気が凍った。
独眼零は街を見渡した。
《無駄が多い》
《感情》
《慈悲》
《友情》
《愛情》
《全て勝利の妨げだ》
その言葉に命が顔をしかめる。
「そんなことない!」
独眼零は見向きもしない。
《証明できるか?》
静かな声。
だが冷たい。
《私は失敗しない》
《全て計算できる》
その瞬間。
独眼零の瞳が輝いた。
青い波動が広がる。
《戦況予測開始》
《未来演算完了》
政宗の顔色が変わる。
「まずい!」
独眼零が動いた。
速い。
一瞬だった。
次の瞬間。
謙信の槍が弾かれる。
信長の剣が止められる。
光秀の分身が見抜かれる。
全員が吹き飛ばされた。
「何!?」
幸村が驚く。
独眼零は振り向きもしない。
《予測済み》
《次》
銃声。
政宗のライフル。
しかし。
独眼零は弾道を先読みして避ける。
《予測済み》
また銃声。
避ける。
また。
避ける。
全部だ。
完全に読まれている。
「ありえない……」
大和がモニターを見る。
「行動予測能力か」
風間史郎も青ざめる。
「歴史上の政宗公ですら天才だったのに……」
独眼零はその究極形。
勝利だけを求めた政宗。
感情を切り捨てた未来。
《合理的に終わらせる》
青い光が集まる。
巨大なエネルギー砲。
周囲には避難できていない人々。
幸村が前へ出ようとする。
だが。
政宗が止めた。
「待て」
「政宗?」
幸村が振り向く。
政宗は独眼零を見ていた。
静かに。
ずっと。
見つめていた。
戦国時代。
誰も信じられなかった。
家臣。
同盟。
親族。
裏切り。
陰謀。
毒。
暗殺。
生き残るためには疑うしかなかった。
だから政宗は一人で戦った。
誰にも頼らず。
誰も信用せず。
それが正しいと思っていた。
独眼零は言う。
《一人が最も強い》
《感情は弱さ》
《仲間は足枷》
政宗は静かに笑った。
「そうかもしれないな」
全員が驚く。
だが。
続く言葉は違った。
「だが――」
幸村を見る。
謙信を見る。
信長を見る。
光秀を見る。
命を見る。
「つまらん」
独眼零が目を細める。
「何?」
政宗は笑った。
本当に楽しそうに。
「一人で勝つより」
ライフルを構える。
「仲間と勝つ方が面白い」
独眼零が初めて動揺した。
《理解不能》
「当然だ」
政宗が言う。
「感情だからな」
変身。
青い光が吹き上がる。
ムーンブルー。
三日月式ライフル展開。
独眼零も銃を構える。
青と青。
二人の伊達政宗。
対峙する。
《排除する》
「やれるものならな」
銃声。
同時発射。
弾丸が空中で激突する。
爆発。
政宗が叫んだ。
「幸村!」
「おう!」
「信長!」
「面白い!」
「謙信!」
「承知!」
「光秀!」
「準備済みです」
独眼零が驚く。
《なぜ分かる》
政宗が笑う。
「信頼してるからだ」
その瞬間。
五人が同時に動いた。
予測不能。
独眼零の演算が乱れる。
《エラー》
《演算不能》
《予測不能》
幸村が突撃する。
信長が斬り込む。
謙信が守る。
光秀が影を縫う。
そして。
政宗が跳んだ。
月光ライフルが輝く。
「独眼零!」
《……》
「お前は俺だ」
独眼零が止まる。
「だから分かる」
政宗が静かに言った。
「お前は誰も信じられなかっただけだ」
独眼零の瞳が揺れた。
ほんの一瞬。
その隙。
政宗は引き金を引く。
「三日月狙撃!!」
青い閃光。
一発の弾丸。
壁を跳ねる。
標識を跳ねる。
窓を跳ねる。
軌道を変え続ける。
そして――
独眼零の胸の核を撃ち抜いた。
沈黙。
青い光が崩れていく。
独眼零は静かに笑った。
《なるほど》
《仲間、か》
政宗は頷く。
「悪くないぞ」
独眼零は空を見上げた。
《一度くらい……》
《試してみたかったな》
そのまま光となって消えていった。
戦いは終わった。
だが。
闇の神殿では。
黄金の炎が燃えていた。
玉座の前に立つ男。
覇王の気配。
圧倒的な威圧感。
邪神天統が静かに言う。
《次は貴様だ》
男が笑う。
その笑みは。
どこか信長に似ていた。
《当然だ》
黄金の炎が燃え上がる。
《世界とは支配するもの》
《魔心魔王――出陣する》
次回予告
「強者だけが世界を持つ」
織田信長の前に現れる、支配を完成させたもう一人の信長。
魔心魔王。
最も似ていて、最も危険な敵。
信長は自らの覇道と向き合う。
第九話「魔心魔王 ―覇王の資格―」へ続く。




