第七話 「獄炎 ―もう一人の真田幸村―」
第七話
「獄炎 ―もう一人の真田幸村―」
中央商店街。
炎が舞う。
赤と黒。
二つの炎が激しくぶつかり合っていた。
グレンレッドの双槍と、獄炎の巨大な黒槍が火花を散らす。
轟音。
アスファルトが砕ける。
「はああああっ!」
幸村が連撃を放つ。
だが。
獄炎は片手で受け止めた。
《遅い》
黒炎が爆発する。
「ぐっ!」
吹き飛ばされるグレンレッド。
道路を転がりながらも立ち上がる。
その様子を見ていた政宗が舌打ちした。
「力だけなら向こうが上だ」
「厄介ですね」
光秀が静かに言う。
獄炎は幸村の動きを完全に理解していた。
それもそのはず。
相手は幸村自身の可能性。
戦い方も癖も同じなのだ。
《守るために戦う?》
獄炎が笑う。
《そんな甘さで何が守れる》
黒槍が振り下ろされる。
轟音。
地面が大きく割れた。
幸村は避けたが、その言葉が胸に刺さる。
守れなかった記憶。
失った仲間。
燃える城。
消えない後悔。
《お前は負けた》
《だから全てを失った》
「違う!」
幸村が叫ぶ。
しかし声に迷いがあった。
獄炎はそれを見逃さない。
《なら証明してみろ》
黒炎がさらに膨れ上がる。
その時だった。
「幸村!」
政宗の声。
三日月式ライフルが火を吹く。
数発の弾丸が獄炎へ向かう。
だが。
獄炎は振り向きもせず黒炎で弾いた。
《邪魔だ》
黒炎の衝撃波。
政宗が後方へ飛ばされる。
「ちっ……!」
「させぬ!」
謙信が飛び出した。
毘沙門槍〈義心〉を構える。
「義心結界!」
緑の光が展開される。
黒炎を押し返す。
だが獄炎は止まらない。
《守るだけでは勝てぬ》
黒槍が振り抜かれた。
結界に亀裂が走る。
「なっ……!」
謙信の表情が変わる。
圧倒的な力。
獄炎は本当に幸村が辿る可能性の一つなのだ。
「面白い」
その時。
信長が前へ出た。
オウゴンイエロー。
黄金の炎が燃え上がる。
「ならば我が試してやろう」
覇王大剣〈布武〉を肩に担ぐ。
「天下布武!」
地面を蹴った。
轟音。
巨大な斬撃が走る。
獄炎も黒槍で迎え撃つ。
激突。
衝撃波。
周囲の窓ガラスが震える。
だが。
互角だった。
信長が笑う。
「なるほど」
《織田信長》
獄炎も笑った。
《貴様にもあるぞ》
《支配を完成させた未来が》
信長の目が細くなる。
《いずれ会うことになる》
不気味な言葉だった。
その時。
光秀が小さく呟く。
「今です」
影が広がる。
シャドウパープル。
影分身刀〈桔梗〉。
分身が一斉に飛び出した。
《無意味》
獄炎が振り向く。
しかし。
それは囮だった。
本体は背後。
「闇刃・影討ち!」
紫の閃光。
獄炎の肩を斬り裂く。
初めて傷が入った。
《……ほう》
黒い血のような粒子が舞う。
「効いている!」
幸村が気付く。
だが。
獄炎は笑った。
《痛みなど意味はない》
黒炎が暴走する。
身体が巨大化し始める。
「まずい!」
大和の通信が響いた。
『歴史因子が異常上昇!』
『暴走歪曲体になるぞ!』
商店街全体が揺れ始める。
黒炎が空を覆う。
人々の悲鳴。
車が浮き上がる。
建物が軋む。
《勝てば守れる》
《勝てば守れる》
《勝てば守れる》
獄炎の声が繰り返される。
その姿はもはや怪物だった。
巨大な黒炎の武者。
「幸村!」
命の声が響く。
振り向く。
避難場所から見ている命。
不安そうな顔。
だが。
その目は真っ直ぐだった。
「帰ってきて!」
幸村の心が止まる。
帰ってきて。
その言葉は戦国時代にはなかった。
死ね。
戦え。
勝て。
そんな言葉ばかりだった。
だが今は違う。
命は言った。
帰ってきて、と。
幸村は静かに目を閉じた。
思い出す。
守れなかった人々。
失った仲間。
だが。
今守れる人たちもいる。
命。
仲間たち。
この平和な街。
「そうか……」
幸村は小さく笑った。
「俺はずっと勘違いしていた」
双槍を握る。
赤い炎が静かに燃える。
「守るために死ぬんじゃない」
顔を上げる。
獄炎を見据える。
「守るために生きるんだ!」
その瞬間。
六文銭コアが眩しく輝いた。
『歴史因子同期率上昇』
『適合率120%』
『新出力解放』
大和が驚く。
「まさか……!」
赤い炎が街を照らした。
仲間たちも振り向く。
政宗が笑う。
「やっと答えを見つけたか」
謙信が頷く。
「それでこそ義だ」
信長が不敵に笑う。
「面白い!」
光秀は静かに微笑んだ。
「信じていましたよ」
幸村が前へ出る。
炎が集まる。
双槍が一つの巨大な槍へ変形した。
獄炎が咆哮する。
《認めない!》
《負けは許されない!》
「違う!」
幸村が叫ぶ。
「負けても立ち上がれる!」
赤い炎が爆発した。
「六文銭――」
仲間たちの力が重なる。
青。
金。
緑。
紫。
五色の光。
「紅蓮地獄!!」
巨大な閃光が走る。
一直線。
獄炎の胸を貫いた。
沈黙。
黒炎が止まる。
獄炎は静かに幸村を見た。
《そうか……》
黒い顔に、わずかな笑みが浮かぶ。
《お前は……そう選んだか》
黒炎が消えていく。
《なら……見せてみろ》
《その未来を》
光となって消滅した。
静寂。
そして。
朝日のような光が街を照らした。
戦いは終わった。
だが――
その時。
誰も気付かなかった。
遥か遠く。
闇の神殿。
玉座に座る存在。
邪神天統。
その周囲に、新たな影が現れていた。
青い瞳。
片目が光る武将。
《次は私が行こう》
独眼零。
伊達政宗のIF。
感情を捨てた未来。
邪神天統が静かに笑う。
《始めよ》
《第二の試練を》
こうして新たな戦いの幕が上がる。
次回予告
街に現れた謎の青年。
彼は未来を知っていた。
そして現れる独眼零。
政宗は、自らの未来と向き合うことになる。
次回 第八話「独眼零 ―感情なき覇者―」




