第五話「歴史を愛する男」
第五話 「歴史を愛する男」
市立白嶺中学校の屋上。
大十字大和からの通信が終わる。
『歴史歪曲反応を確認』
『場所は市立歴史資料館』
幸村たちの表情が引き締まった。
命が少し不安そうに見上げる。
「また怪物なの……?」
「ああ」
幸村は頷いた。
「だが心配するな!」
命は小さく笑う。
「うん」
その笑顔を見て、幸村は少しだけ胸が温かくなった。
守るべきもの。
それが少しずつ分かり始めていた。
◇
三十分後。
市立歴史資料館。
地方都市にある中規模の施設だった。
だが周囲には異様な空気が漂っている。
空間が歪んでいた。
紫色の稲妻が走る。
一般人は既に避難している。
幸村たちは入口へ向かった。
その時だった。
「待ってくださいぃぃぃぃ!」
遠くから絶叫が聞こえた。
全員が振り返る。
一人の男が全力疾走している。
眼鏡。
ぼさぼさ頭。
資料の束。
年齢は三十代前半。
「はぁ……はぁ……」
男は幸村を見る。
政宗を見る。
信長を見る。
謙信を見る。
光秀を見る。
そして――
固まった。
十秒ほど固まった。
次の瞬間。
「本物だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫した。
「真田幸村だぁぁぁぁ!」
「伊達政宗だぁぁぁ!」
「織田信長だぁぁぁ!」
「上杉謙信だぁぁぁ!」
「明智光秀だぁぁぁ!」
全員が少し引いた。
「こやつは、誰だ……?」
信長が真顔で聞く。
男は胸を張った。
「歴史研究家!」
「風間史郎です!!」
満面の笑みだった。
◇
数分後。
資料館前。
「なるほど……」
政宗が呟く。
「こいつは、変人か!」
「違います!」
風間が即座に否定した。
「歴史を愛する研究者です!」
「同じでは?」
光秀が冷静に言う。
風間は気付いていない。
幸村の周囲を回る。
「うわ〜本物の六文銭……」
感動。
政宗を見る。
「ひゃー本物の独眼竜……」
感動。
信長を見る。
「おおぉ!本能寺以前の信長公……」
感涙。
信長本人が少し引いていた。
「大和」
信長が小声で言う。
「こやつ大丈夫か」
「……私にも分からん」
大和は即答した。
◇
その時だった。
資料館全体が揺れる。
轟音。
窓ガラスが震えた。
「来るぞ!」
大和が叫ぶ。
空間が裂ける。
黒い霧が吹き出した。
資料館の中央展示室。
戦国武将の鎧展示コーナー。
そこから巨大な影が現れる。
《歴史修正開始》
冷たい声。
全員が身構える。
姿を現したのは――
巨大な鎧武者だった。
全身が黒い甲冑。
燃えるような赤い目。
手には巨大な刀。
その胸には無数の怨念が渦巻いている。
「歴史型歪曲体!」
大和が叫ぶ。
「実在した武将への歪んだ認識が怪物化した存在だ!」
《弱者は滅びる》
《歴史は勝者だけが残す》
《敗者に価値はない》
不気味な声。
幸村が眉をひそめる。
「違う」
その言葉は。
彼ら自身を否定するものだった。
歴史には勝者だけではない。
敗れた者にも想いがある。
◇
「変身!」
五人が叫ぶ。
家紋コアが輝く。
「勇士・起動!」
「独眼・起動!」
「布武・起動!」
「義心・起動!」
「幻影・起動!」
五色の光が爆発した。
サムライジャー出陣。
◇
巨大な刀が振り下ろされる。
轟音。
地面が砕ける。
「散開!」
政宗の指示。
全員が動く。
ムーンブルーの銃撃。
オウゴンイエローの斬撃。
セイギグリーンの結界。
シャドウパープルの分身。
だが。
怪物は強い。
攻撃が効かない。
《敗者は無価値》
再び響く声。
幸村が歯を食いしばる。
その時だった。
風間が叫んだ。
「違う!」
全員が振り向く。
風間だった。
震えながらも前へ出る。
「歴史は勝者だけじゃない!」
「敗れた人も!」
「苦しんだ人も!」
「生きた人も!」
「全部含めて歴史なんだ!」
怪物が揺れる。
核が反応する。
大和が気付いた。
「そうか!」
「この怪物の核は歴史そのものへの誤解だ!」
◇
幸村が前へ出る。
「聞いたか」
怪物を見上げる。
「歴史は一つではない」
信長が笑う。
「面白い男だな」
謙信が頷く。
「義ある言葉だ」
光秀も静かに言う。
「少なくとも嘘ではありません」
政宗が銃を構える。
「なら決まりだ」
◇
五人が同時に動く。
政宗の弾丸。
信長の大剣。
謙信の結界。
光秀の分身。
そして。
幸村が跳ぶ。
六文銭が背後で輝く。
「守るために!」
炎が集まる。
「六文銭・紅蓮地獄!!」
赤い閃光。
核を貫く。
怪物が光へ変わった。
《理解……修正……》
静かに消えていく。
◇
戦いは終わった。
資料館に静寂が戻る。
風間は放心していた。
「本当に……」
「本当に武将がヒーローになってる……」
幸村が苦笑する。
「まだ慣れぬ」
風間は突然顔を上げた。
「決めました!」
全員が嫌な予感を覚える。
「僕も協力します!」
「歴史改変組織を調べます!」
「皆さんをサポートします!」
大和がため息をついた。
「……そう言うと思った」
命が笑う。
「仲間が増えたね!」
夕日が差し込む資料館。
その時。
誰も気付かなかった。
遠く離れた異空間で。
黒い玉座に座る存在が、静かに目を開いたことを。
《観測完了》
《サムライジャー確認》
《歴史改変組織――ヒストリーリビジョンズ、作戦開始》
闇の中で五つの影が浮かび上がる。
幸村によく似た赤い影。
政宗によく似た青い影。
信長によく似た黄金の影。
謙信によく似た緑の影。
光秀によく似た紫の影。
彼らはまだ知らない。
自分たち自身の「もしも」の姿。
最悪の可能性との戦いが近づいていることを――。
次回 第六話「歴史改変組織ヒストリーリビジョンズ」




