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第五話「歴史を愛する男」  

第五話                「歴史を愛する男」

 市立白嶺中学校の屋上。

 大十字大和からの通信が終わる。

『歴史歪曲反応を確認』

『場所は市立歴史資料館』

 幸村たちの表情が引き締まった。

 命が少し不安そうに見上げる。

「また怪物なの……?」

「ああ」

 幸村は頷いた。

「だが心配するな!」

 命は小さく笑う。

「うん」

 その笑顔を見て、幸村は少しだけ胸が温かくなった。

 守るべきもの。

 それが少しずつ分かり始めていた。

 三十分後。

 市立歴史資料館。

 地方都市にある中規模の施設だった。

 だが周囲には異様な空気が漂っている。

 空間が歪んでいた。

 紫色の稲妻が走る。

 一般人は既に避難している。

 幸村たちは入口へ向かった。

 その時だった。

「待ってくださいぃぃぃぃ!」

 遠くから絶叫が聞こえた。

 全員が振り返る。

 一人の男が全力疾走している。

 眼鏡。

 ぼさぼさ頭。

 資料の束。

 年齢は三十代前半。

「はぁ……はぁ……」

 男は幸村を見る。

 政宗を見る。

 信長を見る。

 謙信を見る。

 光秀を見る。

 そして――

 固まった。

 十秒ほど固まった。

 次の瞬間。

「本物だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 絶叫した。

「真田幸村だぁぁぁぁ!」

「伊達政宗だぁぁぁ!」

「織田信長だぁぁぁ!」

「上杉謙信だぁぁぁ!」

「明智光秀だぁぁぁ!」

 全員が少し引いた。

「こやつは、誰だ……?」

 信長が真顔で聞く。

 男は胸を張った。

「歴史研究家!」

「風間史郎です!!」

 満面の笑みだった。

 数分後。

 資料館前。

「なるほど……」

 政宗が呟く。

「こいつは、変人か!」

「違います!」

 風間が即座に否定した。

「歴史を愛する研究者です!」

「同じでは?」

 光秀が冷静に言う。

 風間は気付いていない。

 幸村の周囲を回る。

「うわ〜本物の六文銭……」

 感動。

 政宗を見る。

「ひゃー本物の独眼竜……」

 感動。

 信長を見る。

「おおぉ!本能寺以前の信長公……」

 感涙。

 信長本人が少し引いていた。

「大和」

 信長が小声で言う。

「こやつ大丈夫か」

「……私にも分からん」

 大和は即答した。

 その時だった。

 資料館全体が揺れる。

 轟音。

 窓ガラスが震えた。

「来るぞ!」

 大和が叫ぶ。

 空間が裂ける。

 黒い霧が吹き出した。

 資料館の中央展示室。

 戦国武将の鎧展示コーナー。

 そこから巨大な影が現れる。

《歴史修正開始》

 冷たい声。

 全員が身構える。

 姿を現したのは――

 巨大な鎧武者だった。

 全身が黒い甲冑。

 燃えるような赤い目。

 手には巨大な刀。

 その胸には無数の怨念が渦巻いている。

「歴史型歪曲体!」

 大和が叫ぶ。

「実在した武将への歪んだ認識が怪物化した存在だ!」

《弱者は滅びる》

《歴史は勝者だけが残す》

《敗者に価値はない》

 不気味な声。

 幸村が眉をひそめる。

「違う」

 その言葉は。

 彼ら自身を否定するものだった。

 歴史には勝者だけではない。

 敗れた者にも想いがある。

「変身!」

 五人が叫ぶ。

 家紋コアが輝く。

「勇士・起動!」

「独眼・起動!」

「布武・起動!」

「義心・起動!」

「幻影・起動!」

 五色の光が爆発した。

 サムライジャー出陣。

 巨大な刀が振り下ろされる。

 轟音。

 地面が砕ける。

「散開!」

 政宗の指示。

 全員が動く。

 ムーンブルーの銃撃。

 オウゴンイエローの斬撃。

 セイギグリーンの結界。

 シャドウパープルの分身。

 だが。

 怪物は強い。

 攻撃が効かない。

《敗者は無価値》

 再び響く声。

 幸村が歯を食いしばる。

 その時だった。

 風間が叫んだ。

「違う!」

 全員が振り向く。

 風間だった。

 震えながらも前へ出る。

「歴史は勝者だけじゃない!」

「敗れた人も!」

「苦しんだ人も!」

「生きた人も!」

「全部含めて歴史なんだ!」

 怪物が揺れる。

 核が反応する。

 大和が気付いた。

「そうか!」

「この怪物の核は歴史そのものへの誤解だ!」

 幸村が前へ出る。

「聞いたか」

 怪物を見上げる。

「歴史は一つではない」

 信長が笑う。

「面白い男だな」

 謙信が頷く。

「義ある言葉だ」

 光秀も静かに言う。

「少なくとも嘘ではありません」

 政宗が銃を構える。

「なら決まりだ」

 五人が同時に動く。

 政宗の弾丸。

 信長の大剣。

 謙信の結界。

 光秀の分身。

 そして。

 幸村が跳ぶ。

 六文銭が背後で輝く。

「守るために!」

 炎が集まる。

「六文銭・紅蓮地獄!!」

 赤い閃光。

 核を貫く。

 怪物が光へ変わった。

《理解……修正……》

 静かに消えていく。

 戦いは終わった。

 資料館に静寂が戻る。

 風間は放心していた。

「本当に……」

「本当に武将がヒーローになってる……」

 幸村が苦笑する。

「まだ慣れぬ」

 風間は突然顔を上げた。

「決めました!」

 全員が嫌な予感を覚える。

「僕も協力します!」

「歴史改変組織を調べます!」

「皆さんをサポートします!」

 大和がため息をついた。

「……そう言うと思った」

 命が笑う。

「仲間が増えたね!」

 夕日が差し込む資料館。

 その時。

 誰も気付かなかった。

 遠く離れた異空間で。

 黒い玉座に座る存在が、静かに目を開いたことを。

《観測完了》

《サムライジャー確認》

《歴史改変組織――ヒストリーリビジョンズ、作戦開始》

 闇の中で五つの影が浮かび上がる。

 幸村によく似た赤い影。

 政宗によく似た青い影。

 信長によく似た黄金の影。

 謙信によく似た緑の影。

 光秀によく似た紫の影。

 彼らはまだ知らない。

 自分たち自身の「もしも」の姿。

 最悪の可能性との戦いが近づいていることを――。

次回 第六話「歴史改変組織ヒストリーリビジョンズ」

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