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第十三話 「失われた虎」

第十三話

「失われた虎」

闇暗鬼との戦いから一週間――。

天城市には、久しぶりに穏やかな時間が流れていた。

公園では子どもたちが遊び、商店街には活気が戻り、人々の顔にも笑顔が見える。

大十字ラボ。

作戦室で命が大きく伸びをした。

「平和だぁー!」

幸村が笑う。

「いいことじゃないか」

政宗はソファに寝転がったままスマホを見ながら言う。

「戦いがないならそれが一番だろ」

信長も腕を組む。

「乱世ばかりでは人は疲れる」

光秀が微笑む。

「珍しく信長様がまともなことを」

「何だと光秀」

「事実です」

二人のやり取りに全員が苦笑した。

だが。

その時。

大和博士だけがモニターを見つめていた。

「……妙だな」

風間が振り返る。

「どうしたんです?」

モニターには、小さな反応が表示されていた。

《未確認家紋エネルギー反応》

《出力レベル低》

《座標・天城市中央商店街》

命が首を傾げる。

「歴史歪曲?」

「いや」

大和は静かに言う。

「これは歴史歪曲ではない」

「家紋コアの反応だ」

全員が立ち上がった。

「家紋コア!?」

幸村が驚く。

大和はゆっくり頷いた。

「もしかすると――」

「まだ仲間がいる」

天城市中央商店街。

昼下がり。

威勢の良い声が響いていた。

「焼きたてだぞー!」

団子を焼いている大男。

大きな身体。

豪快な笑顔。

子どもたちの人気者。

店の名は――武田堂。

男の名は――武田信。

「しん兄ちゃーん!」

「肩車して!」

「おう!」

信は豪快に笑いながら、子どもを軽々と肩車する。

「高いぞー!」

「わああー!」

周囲の人々も笑顔になる。

だが。

信には過去の記憶がなかった。

数年前。

山中で倒れていたところを保護された。

覚えているのは、「武田信」という名前だけ。

それでも。

今の生活を愛していた。

「俺には、この商店街がある」

「それで十分だ」

そう思っていた。

その時だった。

空が曇る。

黒い雲。

不気味な風。

信が顔を上げる。

胸がズキリと痛んだ。

馬。

戦場。

旗。

赤備え。

血煙。

そして――

四文字が脳裏に浮かぶ。

風林火山。

「なんだ……これは……!」

大十字ラボ。

警報が鳴り響く。

《風林火山紋確認》

《家紋エネルギー急上昇》

大和博士が叫ぶ。

「間違いない!」

「六つ目の家紋コアだ!」

命が叫ぶ。

「場所は商店街!」

「みんな!」

幸村たちは駆け出した。

商店街。

突然。

空間が裂けた。

黒い霧の中から、巨大な鬼武者が現れる。

燃える刀を持つ歴史魔人。

人々が悲鳴を上げる。

「逃げろー!」

信は子どもたちを庇う。

「みんな、こっちだ!」

だが。

崩れた看板が、小さな少女へ落ちる。

「危ない!!」

信は飛び出した。

その瞬間――

右手が光る。

橙色。

眩い光。

《風林火山紋認証》

《戦極適合者確認》

世界が止まった。

甲斐の国。

武田軍。

川中島。

赤備え。

上杉謙信。

そして。

病に倒れ、無念のまま閉じた瞳。

全てを思い出す。

信は、ゆっくり顔を上げた。

「そうか……」

「俺は……」

橙色の炎が吹き上がる。

「武田信玄!!」

《風》

《林》

《火》

《山》

《戦極起動》

橙色の鎧が装着される。

《タイガーオレンジ》

誕生。

「おおおおおっ!!」

巨大な戦斧。

風林火山アックス〈甲斐〉を振り上げる。

「俺の前で!」

「民を泣かせるなァァッ!!」

一撃。

轟音。

歴史魔人が吹き飛ぶ。

さらに。

《風モード》

高速移動。

《火モード》

斧が炎を纏う。

「終わりだ!」

《風林火山・絶対陣!!》

巨大な橙色の陣が展開。

敵を拘束。

そして。

渾身の一撃。

「粉砕ッ!!」

歴史魔人が爆散した。

静寂。

商店街から歓声が上がる。

「助かった!」

「しん兄ちゃん!」

子どもたちが駆け寄る。

だが。

信玄は、ただ空を見上げていた。

失われた記憶。

武田家の滅亡。

守れなかった家臣たち。

「俺は……負けたんだ」

その時。

後ろから、静かな声が響いた。

「ようやく思い出したようだな」

信玄が振り向く。

そこにいたのは――

緑の鎧を纏う武将。

上杉謙信だった。

信玄の目が見開かれる。

「お前……!」

謙信は静かに微笑む。

「久しいな、武田」

しばらく。

言葉が出なかった。

戦国最強と呼ばれた二人が。

現代の商店街で再会していた。

幸村たちも息を呑む。

やがて。

信玄が豪快に笑った。

「ははははっ!」

「まさか、本当に生きていたとはな!」

謙信も少しだけ笑う。

「お前こそ」

「昔と変わらんな」

「どこがだ?」

「声が大きい」

「それは生まれつきだ!」

幸村たちが吹き出した。

政宗が笑う。

「なんだよ」

「犬猿の仲じゃなかったのか?」

信玄が笑う。

「喧嘩はしたさ」

「何度もな!」

謙信が続ける。

「だが」

「誰よりも互いを認めていた」

二人の視線が交わる。

幾度となく戦場で刃を交えた男たち。

信玄が少し俯く。

「……すまなかった」

幸村たちが驚く。

「武田家を守れなかった」

「家臣たちも」

「俺は負けた」

悔しさを滲ませる信玄。

だが。

謙信は首を横に振った。

「違う」

「お前は最後まで戦った」

「最後まで民を想った」

「それを負けとは言わない」

信玄が顔を上げる。

謙信は真っ直ぐ見つめた。

「もし本当に負けていたなら」

「お前の家紋コアは、お前を選ばない」

「今ここにいることが」

「その証だ」

信玄の目が少し潤む。

そして――

豪快に笑った。

「相変わらず真面目だな!」

「説教臭い!」

謙信も珍しく笑う。

「お前ほどではない」

「何だと!」

二人が睨み合う。

命が吹き出した。

「なんか仲良し!」

「違う!!」

声が揃う。

その場に大きな笑いが広がった。

信長も腕を組みながら笑う。

「戦国最強の二人も」

「現代ではただの悪友か」

「悪友とは失礼だ!」

信玄が言い返す。

そして。

仲間たちを見渡した。

幸村。

政宗。

信長。

光秀。

謙信。

皆、何かを失い。

それでも前へ進もうとしている。

信玄は、力強く言った。

「今度は守る」

「仲間も」

「街も」

「未来も」

謙信が頷く。

「ああ」

「共に守ろう」

その時――

遠くの空に。

一枚の桜の花びらが舞った。

誰もまだ知らない。

最後の戦士が。

静かに目覚めようとしていることを――。

次回 第十四話「桜の記憶」

記憶を失った少女・巴。

彼女の胸に眠る桜紋がついに覚醒する。

戦場に咲く一輪の花――

ブロッサムピンク、参戦!

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