部下たちのピンチ
翌日の早朝。
空からの斥候をハーピーのハピナ、陸地の斥候をワーウルフのジェイクが勤めている。
地上部隊は先頭をジェイク、すぐ守れる位置に盾役のミノタウロスのセスタス、人間の剣士前衛のダビデ、弓手のエルフ、ココロ、弓主兼アイテム調合師、ドワーフのダイモス、後衛に鼻もよく効くケルベロスのポチ。
この隊列で進んでいた。
今のところ、モンスターとはエンカウントしていない。
ハピナの目から見ても、特に障害になる物はなく、地上のジェイクから見ても罠の類もなく、順調な行進だ。
しばらく行くと、ハピナの目に、オークの集落が見えていた。
「前方2時の方角に、敵集落発見っす! 見張りは2名。それ以外屋外に出ているものは居ないっす」
ハピナの報告に、一同がうなずく。
ジェイクを筆頭に罠を警戒し、他のモンスターの姿も警戒する。
鳴子やアラームの類もない。順調だ。
「ここは私が」
エルフのココロが木にするすると登ると、矢を番える。
見張りに照準をしぼり、弓を引き絞る。
人間のダビデからすれば、まだ豆粒ほどの大きさにしか見えないオークだが、エルフの鷹のような目は、確実に敵の急所を捕らえていた。
ひょう、と音がして、矢が放たれる。
しかも、矢継ぎ早の2連射。
見張りのオークは声を挙げる間もないまま、脳漿を撒き散らして骸となった。
しかし、倒れる音まではごまかせない。
ハピナがその音を聞きつけて、他の仲間が出てこないか、確認する。
5秒……10秒……。
増援はない。
それを察知した一行が、すばやくオークの砦に潜入する。
まずは、人質となった村娘の救出が先だ。その数は3人。
斥候二人の活躍で、どの建物に人質が居るのかも把握していた。
「ここで二手に分かれよう」
人質を救出する係り。
陽動し、人質たちを村に逃がす係り。
この二手に分かれて、行動を開始する。
まずは、人質を助けるパーティーは、ハピナ、セスタス、ポチの三名、
空を飛ぶハピナと四足で足の速いポチは、助けだした娘達を村まで運ぶ役目を担っている。
セスタスは、その二人を村の外に逃がし、その後前線へと向かう。
娘達は木で出来た強固な折の中に入れられていた。
「大丈夫。私達は、村からの要請で貴方たちを助けに来たの」
「む、村から!?」
手ひどい暴力と陵辱を受けたのだろう。
ポチはアイテム調合師であるダイモスから受け取っていた薬草と、痛み止めを彼女達に渡す。
後はこの牢だが、鍵は無い。
しかし、強靭な肉体を誇るミノタウロスの前では、役に立たなかった。
手に持った、たたら作の専用戦斧によって、木の牢はきれいに切断されていた。
「いまよ、私達に着いてきて!」
ハピナが一人、ポチが二人、それぞれ担いで、外にでる。
その頃、村の奥では、陽動部隊が行動を開始していた。
その隙に送迎部隊は素晴らしいスピードで、村へと空を、地を、それぞれ駆けていった。
戦闘部隊が真っ先に目指したのは、この群れの長のところだ。
音もなく、静かに寝入っているようだ。
一番奥のこの建物の付近で、わざと大きな音をたてる。
「おら、敵だぞ、ウスノロ共!」
ダビデが大きな声で、敵をおびき寄せる。
アーニャの情報によれば、敵は全員造魔とのこと。
その戦力は、普通のオークの比ではない。
建物からわらわらと、オーク達が鈍重な足でかけてくる。
いくら造魔でも、落ち着いて居れば勝てない相手ではない。
造魔が真に恐ろしいのは、ミハエルに率いられて居るときだ。
普通に戦う分には、その恐ろしさは半減というものだ。
その数15。
「敵がお出ましだぜ!」
ダビデ、ジェイクが前衛に立ち、後方から。弓手であるココロとダイモスが弓を仕掛ける。
アイテム師のダイモスがオークの群れへと投げた一掴みの袋。
それをココロが熟達した技を持って射抜く。
その袋の中には、唐辛子や胡椒などの刺激物がたっぷりと詰まっている。
鼻も目もよく効くオークたちにはたまらない目潰しとなる。
「行くぞ!」
ダビデとジェイクが前に出る。
剣士と斥候でありやりの使い手。
熟練の兵士である二人にとっては、目や鼻の利かないオークなど、物の数ではない。
恐慌を起こし、武器を適当に振るオークたちを速やかに殲滅する。
それだけだ。
だったが。
「まて、数が足らないぞ!?報告では30だったはずだ!」
門番が二人、そして今現在が15匹。
13匹足りない。
激しい地響きとともに、背後から巨大な何かがやってきた。
巨大なオーク。
他のオークも3メートル近くあるが、そのオークはさらに倍近くある。
おそらく、この群れのボスである。
完全に背後の警戒を怠っていた四人は、後衛に弓手を置いてしまっていた。
「きゃあっ!」
ボスオークが無造作に振るった腕が、ココロを吹き飛ばす。
エグゼとの房中術で、前日とは比べ物にならないほどの力を得たはずの女エルフが、たったの一撃だった。
ダイモスはすばやくはないが、懸命に短い足を動かし、何とかボスの攻撃を避けていた。
ちょっとした油断から、挟撃を許してしまった四人。いや、ココロが戦線離脱した三人は、ピンチに立たされていた。




