クロス・クルセイド
「いや、いいものを見せてもらいましたよ!」
控え室で休んでいたソウマに誰かが話しかけてきた。
「その人離れした強さ!感服しましたぞ!」
クロス・ティターンズと名乗った男は、握手を求めてきた。
その握手に答えながら、ソウマは言った。
「なんの、なんの。これくらいなら」
手を離し、このクロスという男の真意を探る。
(勧誘か、懐柔か、それとも…)
「もしよろしければ、私の家へでもいかがですかな?」
「連れもいますが、それでもよければ」
ユーノとティアラがよってくる。
「魔物!?」
男は大層驚いたようだ。
「魔物はだめだ! 貴方だけなら、ご招待するが」
「では交渉決裂ですね『クロス・クルセイド』の総統、クロス・ティターンズ殿」
「わ、私の事を知っているとは、貴方は一体!?」
「申し送れました。私は『メリクリウス』のソウマ・ブラッドレイです」
こうして、予定より早く、『クロス・クルセイド』と『メリクリウス』のTOP会談は始まったのだ。
「ご足労願い、恐縮です」
結局は、ユーノとティアラは置いて、ソウマは一人クロスの家へと来ていた。
クロスは思った以上に善人面をしていた。
本人もまだ戦場に立つことがあるのだろうか。
壮年ながら、引き締まった肉体と、鷹のような鋭い目つきをしている。
が、言葉使いは丁寧なものだった。
「レイスを倒すほどのお方が率いる組織だ。あれだけの数の差がありながら、負けてしまうのも当然ですな」
「いやいや、あれはミハエル陣営の横槍があったからですよ」
ソウマも謙遜して言う。
実際、『武神・タイガ』との戦いはソウマが勝っていたであろうし、そのソウマが遊撃に回って敵を殲滅することも出来たのだ。
「うちの四天王はミハエルの神魔に手も足もでずに殺されてしまった」
そして、指揮系統が乱れ撤退がおくれ、更なる神魔の攻撃で大多数が戦闘不能になったのだ。
「私のところも戦力が半分にまで減ってしまいましてね」
「うちももそれは同じですよ」
ソウマは謙遜しながら、腹を探る。
「そう警戒しないで下さい。私はただ、『メリクリウス』と停戦をしたいと考えてるのですよ」
停戦。協力ではなく、停戦だ。
「私はてっきり、共闘か、どちらが傘下にはいる、という提案だったと思ったのですが」
「私を信じた人のためにも『クロス・クルセイド』をつぶすわけにはいかんのですよ」
ふっと、息を吐くクロス。
たとえば、とソウマが言う。
「たとえば、うちが『トール・ド・ルート』が戦っていたとして、戦力で劣るうちを攻撃もしないし、一緒に戦うこともしない、と?」
「はい、その逆もまたしかりです。あなた方も私たちに、攻撃もしない、共闘もしない」
「しかし、たとえば、『メリクリウス』がグランベルトもトール・ド・ルートも倒したとしたら、どうしますか?」
「はは気の早いお人だ! もう勝つ気でいるのですか! さすがにそうなったら、我々は降参しますよ!」
とても嬉しそうに笑って見せた。
「こちらとしては、ぜひ共闘して頂きたいのですが」
とソウマは真顔になっていう。
「しかし、私たちは、人間のみの国家を作ろうとしている魔物排斥が信念だ。あなた方とは相容れない」
元は。とクロスは語り始める。
元は、聖エルモワールに『正教』はなかった。
信仰の自由は認められているので、各領地ごとに宗教が違うこともザラであった。
一番多く分布している宗教は『聖教』という、宗教だが、そこの教えとしては、人間も魔物もともに暮せる教義だった。
しかし、このクロスが信仰していた『正教』は違う。
完全に魔物を悪しき者といている、徹底的な魔物排斥組織だ。
それだけではなく、かなり非人道的な事もしている過激派だった。
先日ソウマが立ち寄った魔女の村。ユーノがスライムになってしまった村も、正教の領地だった。
その教義の違いにより、度々聖教と激突したこともあったし『トール・ド・ルート』のような敵対組織までできてしまった。
そして、決定的になったのが聖エルモワールの壊滅であり、『グランベルト』が打ち立てられた事だった。
聖教が滅ぼされたのは、その教義が間違っていたからで、『クロス・クルセイド』こそが、真の宗教なのだ! と。
実際、聖エルモワールはミハエル率いる、魔物の大群に滅ぼされて事になっていた。
造魔の存在がまだ世間に認知されていないそのときには、魔物も造魔も区別はなかった。
その出来事があってから、余計に魔物たちは肩身が狭くなった。
魔物の所為で。
魔物がいなければ。
『クロス・クルセイド』の情報操作や、洗脳は完璧だった。
そうして、魔物に虐げられていた人たちを懐柔し、仲間にしていったのだ。
そしてその行動が、余計に魔物たちに人間不信を強くさせた。
聖エルモワールの王は、その辺をうまく調停していたのだが、ミハエルがその全てを壊したのだ。
「報復が報復を呼び、負の連鎖がいつまでも残り続けるわけか」
ソウマがいた大陸がつい先日までそんな有様だった。
「私たちは、少なくとも私たちの領地に入ってこなければ、魔物たちが居てもいなくても、かまいません」
とは言いながら、他の宗教を信仰するものや、魔物、魔物とのハーフも排除し続けてきたのだ。
「なので、停戦なのですよ。共闘ではなく」
そして、『クロス・クルセイド』が勝利した暁には、魔物の住む地域と人間の住む地域を分けるらしい。
逆に、他の組織がこの大陸を支配したとしても、自分たちの領地だけは確保したい。
それだけだという。
「まあ、今は戦う余力も残ってないのが現状です」
そういって、クロスは椅子に座る。
「私も信仰の自由は認めています。それで争うほどおろかではない。が、やられたらやり返すつもりではいますよ」
それ以上でも、それ以下でもないと。
「なるほど。では、停戦という形で手を打ちましょう。そんなことで我々が争って、戦力を低下させたら、『トール・ド・ルート』や『グランベルト』の思う壺だ」
「では、停戦協定を」
そうして、正式な書面にて、契約がなされたのである。
「そして、実は一つお願いがあるんです」
契約追え、この町を去ろうとしたソウマに、クロスは一つ話を持ちかけた。
「ここから西にある、『武器不能地帯』があるのはご存知だと思いますが…」
理由はわからない。
しかし、昔からいかなる武器も、鞘や入れ物から取り出すとたちまちに崩れ去ってしまうというなぞの地域がある。
「実は、魔水晶はそこから取れるのですが、最近強力な魔物が住み着いて、取りにいけなくなってしまったんです」
今までは『武神・タイガ』が取りに行っていたのだが、先日の戦闘でタイガは死んでしまった。
「もし魔物を倒してもらえれば、これから先、取れる魔水晶の採掘量の4割位を正規の値段でお売りしようとおもっています」
かなり破格の条件だ。
「もしかしたら、最終的には敵に塩を送る形になる可能性がありますが?」
今までは『クロス・クルセイド』が占領していた魔水晶。
『黒のカーテン』が展開されて以来、この大陸で魔法力を使う、唯一の方法でもある。
最悪、もう一度『メリクリウス』と『クロス・クルセイド』が戦う可能性もゼロではないのだ。
「先だっての戦では、たくさんの兵が死にました。兵の補充や、戦没者の家族への弔慰金などの支払いもあり、お金が必要なんですよ」
戦争とはそれほどお金のかかるものなのだ。
ソウマの今回の『クロス・クルセイド』との交渉の中には、魔水晶を手に入れることも含まれていた。
それを考えれば、わたりに船である。
罠である可能性も無くはない。
しかし。
武器不能地帯で、は武器が使えない。
つまり素手での戦いを強いられるわけだが、素手でソウマに勝てるほどの腕を持つ者が、今の『クロス・クルセイド』に居るとも思えない。
「いいでしょう、そのモンスターの特徴や、居場所を教えてもらえますか?」
ソウマは結局、このクエストを受けることにした。




