斥候
「ここを駐屯地として『メリクリウス』傘下に治めたい。そこで、近隣にある、ミハエルの息のかかった、オークを退治することになった」
事情を部下たちに説明して、少し寄り道をすることになった。
「多くのオークが…」
と呟くビスタ。どうやら気に入ったらしいが、もういいよ。
「でも、この村に駐屯できない僕とビスタが退治しても意味がない」
ビスタの呟きを無視してエグゼが話しを進める。
エグゼとビスタ抜きでも、ここを守ってもらわなければならない。
「そこで、僕たち抜きでオークたちを退治してもらいたい」
隊員たちに動揺が走る。
「そうやって、協力してくれる町や村を増やしていかないと、ミハエルとの最終決戦には勝てない」
ビスタが何事もなかったように話に戻って来た。
そしてこの村が落ち着いてきた暁には、少しでも税金を『メリクリウス』に納税してもらうようにすれば金銭面でも助かる。
「やってやるっすよ! 私たちも、ただただ扱かれてたわけじゃないって所を見せてやるっす!」
と、ハピナが鳥胸を叩く。
「ありがとう、ハピナ。そしてこの中の誰かから、駐屯長を選ぶことになると思う」
オークの群れも手ごわいが、もっと恐ろしいのは,造魔の存在だ。
最悪、エグゼとビスタの出番もあるかも知れない。
「膳は急げっす。私は、オークがどこに群れを作っているか、偵察に行ってくるっす!」
やっとキャラが定まったハピナはやる気満々だ。
「俺も一緒に行こう。簡単な斥候なら、得意なんだ。地図も簡易だがつくろう」
「じゃあ、俺たちは武具と装備の点検だ。足りないものはここで買い足さないといけないしな」
「私は矢を作るわね。ハピナの抜けた羽もとっておいたの」
エグゼたちが指示しなくとも、みなテキパキと役割分担をしていく。
こうして、斥候とハピナは出かけて行った。
あるものは武具の手入れ。
あるものは装備の買い足しに。
村で食料が到達できない以上、食料も自分たちで手に入れなければならない。
そのため、動物を狩りに行く部隊も結成された。
「私たちがいなくても、大丈夫そうだな」
各々が出来ることを精一杯やっている。
「私なんか、もっとやることないよ……」
非戦闘員のアーニャは、こういうところでは役に立てない。
それは非常にもどかしく、最近は弓の練習もしているそうだ。
「エグゼ殿、報告を」
「うん」
ワーウルフの隊員、ジェイクが話し合いの結果を報告しに来た。
「決行は、明後日の早朝、見張りも一番だれる時間帯に行います。それまでは、斥候に力を注ぎ、敵の兵力や、罠の有無を確かめたいとおもいます」
「分かった。この村の娘さんが何人か捕まってるみたいだけど、その人たちはどうするつもりだい?」
「もし一箇所にまとめられているなら、そこに固まっていてもらった方が安全かと。ですが、人質の命は最優先にしたいと思っております。最悪、一度出直すことも考えています」
「出直すことになったら、相手も次は死に物狂いで反抗してくると思うよ?」
「それでも、です。俺たちがやらなきゃいけないのは、この村の方たちに信用してもらうことです。そのためには村人の犠牲は一人たりとも出してはいけないと考えています」
「よし、分かった。期待してるよ、ジェイク」
「はい、ありがとうございます」
「でも、もしかしたら、オークたちとも、話し合いの場をもてるかも知れないことを忘れないで欲しいんだ。造魔が恐怖で彼らを支配していることもありえるからね」
「なるほど、自分たちではそこまで思い至ることが出来ませんでした。ありがとうございます!」
人間と魔物の共存を目指す『メリクリウス』だ。
話し合いの出来る種族なら、出来る限り交渉して、こちら側につけたい。
魂のない造魔は別として。
「斥候一時部隊、ただいま帰ったっす」
ハピナと、斥候の人間、ダビデが帰ってきた。
「敵の居所は、ここから役10キロほど北に行った、山の麓の小さな森っす。そこに、小屋を立てて、一つの村を形成してるっす!」
「見たところ、罠は致死性の物はなく、鳴子程度だと思われます。村の中まで罠は仕掛けてないとは思います。一番厄介なゲリラ戦は回避できます」
「明日は、敵が何人規模なのか、人質がどこにいるのか、突き止めたいっす!あとは、アーニャさんに来てもらいたいっす」
「私に?」
アーニャが驚いた顔をしている。
「そうっす!敵の内、造魔がどれくらいいるのか、把握しておきたいっす」
「足で纏にならないように、気をつけます!」
アーニャも自分の出番があると分かって、すこしモチベーションを取り戻したようだ。
次の日にも続々と情報が入って来る。
「アーニャ様の魔眼で、敵は全員が造魔の模様。これで交渉はなくなりました」
人間のダビデ。
「人数は30。装備は槍や手斧で、弓矢などの飛び道具は無いと思われます」
ワーウルフのジェイク。
「明日の早朝、やつらの油断を突くっす!」
ハーピーのハピナ。
「思ったよりも、敵のアジトが近かったため、食料は携行食で十分。昨日捕獲した食料は、自分たちの分は保存食にし、残りはこの村に献上しました」
牛頭人身のミノタウロスのセスタス。
「人質の数は3人。全員同じ箇所に集められ、檻の中に閉じ込められているです」
エルフのココロ。
「人質の命最優先で、行動といくかのぉ」
ドワーフのダイモス。
「敵は殲滅。一人でも逃して報復されるとやっかいだ! がふっ」
ケルベロスのポチ。
エグゼ、ビスタ、アーニャを除いた7名でこのオークの村に潜入、人質の解放、敵の殲滅を行う。
「うん健闘を祈る。明け方の行軍だ。今日は早めに寝て英気を養ってくれ!」
ビスタがその場を締めて解散となった。
「しかし、誰かに何かを任せて、待つだけというのも中々落ち着かないものだな」
うずうずとしながらビスタが言う。
すでに明日のメンバーは眠りに着いている。
「僕は一応騎士団長だったから、慣れてはいるけどね」
エグゼが苦笑する。
「今までは規模が小さかったし、味方にも手練れがいなかったから、私が前線で戦うしかなかったからな」
エグゼは黙ってビスタの独白を聞いている。
「私はこの任務が終わったら、ツクヨミの街に戻るつもりだ。あの街を基点に、各地に兵を派遣したり、指示を出すほうに回ろうと思っている」
もちろん、最終決戦には駆けつけるがな、といって。
「だから、これは私の指揮官としての練習でもあるのだ。だから、これからは口出し無用でお願いしたい」
「分かった。ビスタもいろいろ考えてるんだね」
「貴様は私を馬鹿にしてるのか? といいたいところだが、私もいろいろと考えさせられてな」
ソウマとの出会い。エグゼとの共闘。
そして今回の遠征。いろんなものがビスタを揺り動かしたのだろう。
「今までは、ツクヨミの街を守っていればそれでよかったが、ソウマとアーニャがきて、どんどん協力者が増えて、いつの間にか、大陸の三大反乱軍の一員になってしまったからな。私も今までの立場以上に責任をもたなければいけないと思い始めたのだ」
「そうだね。これからは、部下の命も守らなければ行けなくなる。上に行けば、自分が前線で戦うことより、部下を戦場に送り込むことが多くなる」
それはビスタが今肌で感じていることだろう。
「それでも僕は、平和な時代の団長だ。人を襲う知能のない魔物の討伐くらいが関の山だったし、造魔ほど強くもなかったから、安心して送り込めたけどね」
今は状況が違う。人と人、今までなら共存していたモンスターとも戦わなければならない。
順調に行けば『トール・ド・ルート』と戦う日もそう遠くない。
さらに、もしかしたら、『グランベルト』と共闘して、襲ってくるかもしれない。
そうなると、今の『メリクリウス』ではまるで歯が立たない。
「もっと個々のレベルアップと、組織の巨大化が必要になってくる。休む暇なんてないな」
やれやれ、とビスタが方を竦めた。
「さて、そろそろお客さんが来そうだ。私はお暇しよう」
といって、ビスタは部屋を出て行く。
「へ、お客さん?」
その問いには答えることなく、ひらひらと手を振ってビスタはいなくなってしまった。
そして、しばらくして、エグゼの部屋の扉がノックされた。




