レイスと町助け
「あれが、ここの最強の魔物か」
魔物と呼んでもいいのか。
「れ、レイスだよ、お兄ちゃん!」
死霊『レイス』元は人間の魔法使いであったとされるこのモンスターは、アンデッドの中でも上位の存在である。
モンスターとは名ばかりで元は人間であるため、その知能はきわめて高く、高位の魔法も使いこなすといわれている。
しかし、本当に恐ろしいのは、このレイスに通常の方法ではダメージを与えられないことだ。
レイスの本体は、我々が存在している『主物質界』ではなく、『幽体界』にあるといわれている。
幽体であるレイスはあらゆる攻撃が聞かず、唯一聖属性の魔法や、魔法付与されている武器でしかダメージを与えることができないという。
そして、今現在『黒のカーテン』により、魔法が使えなくなった今、レイスを攻撃する手段は、『黒のカーテン』が展開される前にすでに魔法付与されていた武器か、魔法巻物、魔水晶と呼ばれる魔法力を有した鉱石から作られた武器のみである。
魔法が使えないのはレイスも同じことで、その強さは全盛期ほどではないが、攻撃手段が限られてるいるのは大きな問題であり、また悠久の時を生きているレイスは、武芸百般に長けていることも覆い。
この闘技場最強のレイスもまた、長き寿命の中で剣技を習得した強敵である。
今回レイスに挑むパーティは、全員が魔水晶を装備し、何点か魔法巻物も持っているようだ。
「ふむ、連携も悪くはないし、個々の力量も良いが…」
「レイスのほうが、一枚上手だね。魔水晶に蓄えられた魔法力がなくなりそう」
魔水晶の純度も余り高くなかったのだろう。
レイスのを打ち倒すには、蓄えられた魔法力が足りないようだ。
「大丈夫かな?」
ティアラがハラハラしながら見ているが……。
「おそらくは負けるだろう。そして……」
そう、この見世物は悪趣味なのだ。
「ふうっ」
ユーノとティアラは思わず目を背ける。
10人いたパーティーは、一人残らず殺され、その魂をレイスに喰われたのだった。
「何でレイスみたいなのがボスをやってるかと思ったら、そういう訳か」
挑んで来る者の魂。
それが目的である。
レイスのような幽体を持つものは、人間のたましいを喰らうことにより、その強さを増すことが出来る。
「そ、ソウマ、本当にあんなの倒せるの?」
ティアラがなきながらたずねる。
「当然だ。こんな悪趣味な見世物は、終わらせる。健全にお互い技量だけを試す場所にしてやる!」
そう決意して、ソウマは受付に再び足を向けるのだった。
昼はとにかく進み、夕方の早い内から夜営の準備に入り、訓練をする。
エグゼ、アーニャ、ビスタ、ハピナに数名の人間の隊員。
総勢で10人からなるパーティーは、せっかくの実戦経験も詰めるこの機会に、隊長クラスの人員を一緒に連れてきていた。
「長物相手に、そんな体捌きで懐に入れると思うなよ!」
ぺし、と木で出来た槍で頭を軽くはたくビスタ。
「まだまだ、剣に振り回されてるね。もっと細かく、一撃一撃を丁寧に振るんだ」
脇があいている、と隙が出来た部分にエグゼの木剣が飛ぶ。
「全員、素振りからやり直し」
「「はいっ」」
その間に、アーニャと一緒に夕食の準備に取り掛かる。
「エグゼもちょっと前まで激弱だったのに、ずいぶんと言うようになったな」
「それは言わないでくれよ。僕も柄じゃないとは思っているんだ」
苦笑しながら、薪に火をつけるエグゼ。
エグゼが剣聖と同じ実力に立てたのは、鎧のおかげだ。
鎧に施された魔法付与。それは、前任者の技術を、後任者に受け継がせること。
そして、この鎧は代々剣聖にのみ受け継がれてきた。
歴代の剣聖すべての技術を、今エグゼは体得したことになる。
「肉切れたよ~」
具材を切り分けていたアーニャが戻って来た。
10人分の料理となると、結構なものになる。
「こういう時、ソウマがいると楽なんだけどなぁ」
ソウマは料理の腕前もプロ級だ。
長旅用の保存食から、驚くほど美味しい料理を作り出す。
「材料は同じなはずなのだが、何が違うのだろうか…」
アーニャと同じく、余り料理が得意ではない女性陣である。
「一度、ソウマの持ってる荷物を見せてもらったことがあるけど、調味料と香辛料ばかりだったよ」
回復薬や薬草などはほとんどなくて、見たこともない瓶がたくさん入ってるのを思い出した。
エグゼも料理はからきしである。
三人で何とか試行錯誤して、それなりの煮込み料理を作ることが出来た。
「明日には、途中にある村で、食材も補給しないとね」
馬車の中にある食料では心もとない。
エグゼたちの想像以上にみんなの食欲は凄まじかった。
「なんなら、私が卵産んでもいいすっよ」
あたりを偵察していたハピナが帰ってきた。
「な、なんかちょっと食べるのに抵抗がいるなぁ」
あはは、とアーニャが笑う。
「無精卵ならどうって事ないっすよ、美味しいっすよ?」
「10人分、産めるのか?」
「うっ、確かに全員に行き渡らないっすね……」
残念そうにハピナがうな垂れる。
「ハピナって、伝令役してるときと印象かわるよね」
アーニャが突っ込む。
「キャラ作りは重要っすよ!最初によくキャラ付けしてなかったどっかの誰かさんがいけないっす!」
誰とはいわないが。
「「「素振り100回出来ました!」」」
残りの隊員も三々五々帰って来る。
「明日は途中にある村によることにしよう。できれば、食料と水の補給をしよう」
この村は、まだソウマもいったことない村である。
どこにも属していない村だといいが、もし親『トール・ド・ルート』の村だったり、ミハエルの息のかかった村だったりすると食料なども買えないかもしれない。
みんなで料理を平らげ、交替で晩をしながら夜はふけていく。
そして、翌日。
「というわけで、食料を買わせて頂きたいのですが……」
村の長の所に、エグゼとビスタはきていた。
宿は快く借りることができたので、このまま食料も……。とは行かなかった。
「私らも重税で苦しんでおりましてな、この村は、貨幣ではなく、食料の納税なのですよ。毎年、自分らが暮らす分もひねりだすのがやっとです」
と村長が語る。
「水ならお譲り出来ますが、食料だけはなにとぞ、ご勘弁を」
ここは交渉のし所だろう。
「なら、我々『メリクリウス』に力を貸していただけませんか? この村は、ラーズの町に行くために、非常に便利です」
実際、平和だった聖エルモワールの統治下では、この村も宿場町として栄えていた。
しかし、ミハエルが王になり、魔物の討伐をしなくなり、危険が増したせいで旅人は激減。
さらには貨幣でなく食料による税の取立てで、もともと食料事情のよくなかったこの村はどんどん衰退していったのだ。
「この村に駐屯兵を置き、魔物の討伐とミハエルの手のものを倒します。そして、また昔の様にここを宿場町として、栄えさせましょう」
と。
村長はエグゼの顔を見る。
この男に、それだけの力量があるのか。それを見極める為に。
「貴方を信用しないわけではありませんが、その実力が本当にあるのかどうか、示してもらわねば、我々としても安心できません」
村長の言うことももっともだ。
「では、どうすれば信用していただけますか?」
「……。この村は、ミハエル様の使いが仕切っている、オークの集団に食料の多くを献上しています。そいつらを倒して頂けたら、そのときはお力をお貸ししましょう」
「オークに、多くを、か」
満足げにビスタがうなずく。
「分かりました、お任せください」
十中八、九造魔が絡んでくることだろう。
しかし、今回つれてきた隊長クラスなら、並みの造魔なら倒せることだろう




