四天王
拳と拳がぶつかり合う。
同時にのけぞる二人。
ためのある大きな技はお互いに使えない。
ソウマは左の拳を繰り出しながら、思案する。
技量はそこまででもないが、魔水晶の武器防具が強力だ。
攻撃をすべて吸収してしまう。
そして、その攻撃には魔法力が備えられ、攻撃力を格段に上げているのだ。
そして、その攻撃は直撃すれば命も危ぶまれる。
「ちっ。面倒くさいな!」
「さすが、『メリクリウス』のNO・1.技量じゃ負けますな」
そういいながら、手甲でソウマの攻撃をガードする。
魔水晶に蓄えられた魔法力は無限ではい。
湛えられた魔法力がそこを尽きればただの水晶でしかない。
しかし、どれだけ時間がかかるか。
ソウマは隙を伺っていた。一撃必倒を狙って。
相手は『武人・タイガ』である。隙はなかなか見せない。
それでも、タイガは防戦をせざるを得なかった。
拳を避け、蹴りをかわし、受け流す。
もしタイガから仕掛けたなら、その隙に間違いなく致命傷を負っていただろう。
自分よりも相手の方が格上。
悔しくもあるが、勝利のためなら、そんな小さいプライドなどいらない。
そう割り切って、タイガは専守防衛に努めていた。
ソウマの小さな隙を狙って…。
しかし、なかなか尻尾を出さない。
小さく、鋭く、大振りしないよう。
対人戦のお手本だ。
タイガは心の中でため息を着く。
まさにこれは自分たちが武道家目指す頂点の一つだ。
一撃一撃が重く魔水晶越しでも腕が、身体の芯がしびれる。
もしこの装備がなければ、すでに勝負は着いていただろう。
一度だけでもいい。
この男のように一切の武器も持たずに戦場を駆け抜けてみたい。
敵とはいえ、タイガはこの男に心酔していた。
『メリクリウス』の結束が固いのもうなずけた。
しかし、今は敵同士。
ならば、勝てぬ戦であったとしても、せめて一つ。
この男に報いたかった。
片や洗練された体術で。
片や予知の如き先読みで。
一撃必殺の剣がかすりもしない。
その姿は美しく、まるで舞踏でも見ているかのようだった。
「さすが団長。それとも、さすが『日の大精霊』といったほうがいいですか?」
「そうだね、僕の力じゃない。精霊のおかげさ」
このやり取りは、訓練の時に幾度かわした事だろう。
7大精霊の力を借りていた当時のエグゼ相手には、それこそ足元にも及ばなかった。
しかし、今のエグゼはまだ、大精霊1柱としか契約してないのだ。
それならいけるかも知れないとおもったのは、思い上がりだったと、ダムドは思い知った。
尊敬していた。
敬愛していた。
憧れていた。
越えたいと思っていた。
いわば、ダムドは騎士の到達点として、エグゼを見ていた。
今ここで、その思いを断ち切り、自分こそが最高の騎士となるのだ。
精霊石で作られた『大いなる精霊王の剣』
魔水晶で作られた『至高の魔水晶の剣』
武器の優劣はない。
どちらも稀代の名剣である。
紙一重。皮一枚。
しかしあたらない。
(ならば…)
この停滞を打破する一撃を、ダムドは狙っていた。
「『秘儀・影太刀』」
何の変哲も無い大上段からの剣撃。
エグゼはそれを剣で受け流し、体勢が崩れた隙を狙ってたい。
しかし、違和感がある。これは…?
危険察知したエグゼは、すぐさま大きく飛び退く。
「まさか、気付かれるとは」
わざと隙だらけの大上段の攻撃にしたのだが。
それでも見切られた。
「なんかいやな予感がしたもんでね」
あれを受けていたら、今頃エグゼの頭はかち割られていたことだろう。
実剣のすぐ後ろ。そこに影のように魔法力で作られた剣戟が潜んでいたのだ。
もし受けていたら、実剣は受けられても、実体のない魔法力で作り上げられた刃はエグゼのの剣をすり抜け、その脳天に突き刺さっていただろう。
「騎士時代には無かった、私のオリジナルの剣技です」
そういい、追撃を仕掛けてくる。
実剣と虚剣。
二つを折り交えた攻撃に、苦闘する。
(ツクヨミと契約できてれば…!)
『月の大精霊・ツクヨミ』は。契約者に大いなる回復力と、月の剣技を授けてくれる。
その剣技が使えていれば、と悔やまれる。
しかし、そうは言っても、後の祭りだ。
今は手持ちの駒で戦うしか無いのだ。
懸命に交わし、打ち込み、受け流し、切り付ける。
拮抗した戦いは、まだ続きそうだった。
「どうした、動きが硬いぞい」
円を描き、時には鋭く突き。
それはまさに『神槍』だった。
自由自在、千変万化。
人間の攻撃など、型に嵌められたパターン化した攻撃だろうと思っていた。
実際パターンはあるのだろう。
しかし、引き出しの数が以上なのだ。
時には驚くような体勢から槍が飛んでくる。しかも、小回りの利く老体は、身体の大きなビスタの死角、死角へと移動しながら攻撃してくる。
(思い出せ。ユニコーンはとても小回りの利いた体捌きをみせていたではないか!)
思い出す。試す、失敗する。
また試す。
ビスタは楽しんでいた。
これほどまでの槍の使い手が居ようとは!
自分が学び、練習した足捌きは、今まさに開花しようとしている。
流馬足。
上位の神馬系の魔物がよく操る歩法である。
四足を生かしたこの歩法は、二足歩行で小回りの利く人間にも負けずに相手の側面にまわりこむことができる。
今までの敵はそんな技など使うまでも無く倒せてしまっていた。
(戦力の拮抗した相手と戦うのは、これほどまで経験値がたまるものなのか!)
どんどん強くなっていくのがわかる。
そして、それは相対しているカムイにも伝わっていた
(まだ力を秘めていたとは……)
若い力は素晴らしい。そろそろ『神槍』の名を返上するときが来たかもしれない。
好々爺は、愛おしい弟子を見るような目で、ビスタの成長を見守っていた。




