生きて勝ち残る
「『深淵流絶技・破城腕』!」
なんと形容すればいいだろう。
ただの人間が己の膂力だけで、あの魔法の大砲を打ち砕く。
仲間である『メリクリウス』のメンバーも、本気で戦っているソウマを見るのは初めてだ。
ここまでの実力があろうとは!
さすがの四天王『魔砲のライデ』もこれは予想していなかった。
魔法が使えない今、この魔砲を防ぐ手立てなど無く、この一撃で大勢が決まるはずだった。
それほどの威力を込めた一撃であった。
しかしこの男は。
たった一騎でそれをとめて見せたのだ!
そして、その驚愕の一瞬の隙を見逃すソウマではない。
一息でライデの元まで潜り込むと、一撃で無力化したのだ。そして。
「『深淵流・破滅の咆哮』!」
足、腰、肩、腕と螺旋を描きながら増幅された大地の力はその両手から放たれる。
この一撃により、魔砲の発射台は吹き飛んだ。
『クロス・クルセイド』に同様が走る。
そもそも、この戦いは数が半分にも満たない敵を一蹴するだけの作戦だったはずだ。
しかも、『魔砲・ライデ』まで来てくれたのだ。苦戦する要素が見当たらない。
ところが、だ。
その魔砲も、『魔砲・ライデ』と悉く一人の戦士に敗れ去った。
話しには聞いていた。
途轍も無く強いものが『メリクリウス』のTOPにたった。
しかし、ここまでとは。
ソウマを囲むように円陣を組んでいる兵士たちだが、誰一人飛び掛れない。
「ここは私が行こう…」
いつの間にか、ソウマの眼前に、一人の男が立っていた。
全身を魔水晶に身を包みながらも、武器は持っていない。
「あんたが『武神・タイガ』か」
「『メリクリウス』のTOPにまで知られているとは、光栄だな。武人として。一人の格闘家として、興味がある」
「ほう、気が合うな。俺もそう持っていたところだ」
こうして二人の徒手空拳者は相対した。
「久しぶりです、団長」
エグゼが無双をしていたころ、突如としてその背後に現れ、きりつけてきた剣士。
寸でのところで交わしたが、薄皮一枚、首元を切り裂かれた。
「『剣神・ダムド』ダムドと聞いて、予想はしていたが、やはり君だったか」
エグゼがまだ騎士団長だったころ。腹心として、副団長の位置についていたのがこの男『剣神・ダムド』だった。
その腕前は、剣聖にも勝るとも劣らないと噂されていた。
「残念ですよ、団長。あの時のあの屈辱を忘れたのですか?」
淡々と。しかし、積念を込めて。ダムドがつぶやく。
「忘れられるわけが無い。王の死に、姫への陵辱。そして仲間の死。全てがこの瞼に焼きついて離れないさ。忘れたことなど一日たりともない」
エグゼはダムドに剣を向ける。
「しかし、あれはミハエルの謀反だ。翻った魔物は、造魔と呼ばれる、人造の魔物だ」
「それでも、魔物は魔物だ! 魔物がいなければ、その造魔と呼ばれる怪物も生まれなかったはずだ!」
「それでも、僕らの団員には魔物もハーフも多くいただろう! 死した彼らの忠誠心まで、誇りまですべて無かったことにするつもりか!?」
「たしかに、彼らは仲間でしたよ。しかし、魔物も魔物たちだけの国を作ろうとしている。彼らにも不満はあった。ならば、ミハエルが謀反を興さなくても、『トール・ド・ルート』の連中は組織してクーデターを起こしていたはずだ! ならば人間は人間で手を取り合うしかないでしょう?」
「聖エルモワール一世は無血にてこの大陸を平定した。昔できたことが今、できないはずがない」
「理想論ですね。甘ちょろい理想論だ。なんの根拠もない。この信念、お互いに曲げられぬとあらば」
「剣で語らうのみ」
「大精霊とやらの力、試させてもらいます。まだ本調子でなくとも、全力で叩かせてもらいます!」
「望むところだ!」
遥か遠くから、槍が飛んでくる。
投擲用の槍だ。
「この乱戦の中、まさかよけられるとは」
蓄えた顎鬚をさすりながら、ふらりと現れた老人。
ぐびり、と瓢箪の中身をあおる。
おそらく中身は酒だろう。
普段なら、戦場で酒など飲んでいる相手には激怒したであろうビスタ。
しかし、相手の力量を見て取るに、そんな些細なことで冷静さを失うわけには行かなかった。
「馬は直進的な動きしかできないと思っていたが、なかなかどうして。よく訓練されておる」
まるで重さを感じさせない流れるような動き。
槍と身体がいったいとなったその演武は敵でありながら、惚れ惚れとする美しさを備えていた。
「貴殿が『神槍・カムイ』か」
「いかにも。わしとしちゃぁ、『神酒』の方が性に合ってるがのぉ。ふぉふぉふぉ!」
そしてまたぐびりと酒を煽る。
しかし、その間にも隙は見つけられない。
「わしゃあ、強い者が好きだ。人間、魔物は関係ない」
酔っ払いの戯言、といいながら話す。
「ならば、なぜ人間のみの組織に着く?」
「相手が強いほど燃えるというものよ。相手が魔物なら、もっと楽しめるじゃろう? 人間相手は決まった型に嵌められていて詰まらん」
「なるほど。より強い者を求めるが故の選択か」
その気持ちはビスタにもよく理解できた。
「敵ながら、味方よりも話が合いそうだ」
「わしも、おぬしと語ろうてみたいのぉ」
「なれば、槍にて語り合うとしよう」
「いい事言うのぉ! 賛成じゃ!」
こうして二人の戦いは幕をあけた。
戦力は拮抗していた。
いくら魔水晶の武具があるとしても、配下全員に配る余裕は無い。
末端の兵士は普通の武具しか手渡されていない。
そして、敵の三割りほどを前衛の三人が倒してくれたのだ。
たった三人に負けるわけにはいかない!
まさに鬼神の如き活躍をした前衛に続けといわんばかりに、後衛の部隊も士気も高く、応戦に出る。
末端戦士の武器に関しては、『メリクリウス』に勝ち目がある。
ツクヨミの街についてから、一心不乱に剣をつくり続けていた、たたらがこの戦までに、武器を揃えてくれたのだ。
スピードもさることながら、一切手の抜かれていないその業物は、鉄の鎧、鋼の鎧をまるでバターのように切り裂くことができる。
折れず曲がらず、こぼれず。血脂の影響があったとしても、問題なく連続使用が可能な名剣。
これは敵である『クロス・クルセイド』脅威だった。
武器の調達は各自で行っていた『クロス・クルセイド』メンバーは、武器も瑣末なものが多い。
そのため、戦場では自分の剣がだめになったら、敵の剣を奪って戦っていた。
だから、倒せばこの名剣が手に入る!
それは一つの大きな戦利品である。
敵も味方も入り混じっての乱戦。
『クロス・クルセイド』の飛び道具はすでに無効化されているが、こちらの飛び道具はまだ有効だ。
弓に投擲矢、投石器がその威力を発揮している。
今の段階で戦力は、五分五分になっていた。
三人の主戦力が四天王の相手をしてくれているだけ、マシだろう。
「弓矢隊、すべての弓を使い終えました!」
「よし、剣を取れ!直接攻撃に移るぞ!」
「「「はいっ!」」」
弓手はその役目を終え、弓を捨て剣を取る。
しかし、敵はよく訓練された兵士だ。
数を物を言わせ、『メリクリウス』を前後左右から包囲する。
「敵将を狙え!指揮系統を狂わせるんだ!」
怒号が飛び交う。
悲鳴が響き渡る。
血が流れる。
人が、死ぬ。
昨日ともに酒酌み交わした友が。
昨日まで一緒に訓練していた仲間が。
しかし、それは敵も味方も同じだ。
それを覚悟でこの戦いに参加している。
一兵卒の少年は思った。
(あ、死んだな)
と。悲観的になったわけではない。
ただ単純に、目の前に敵兵が現れ、剣を振るったのである。
それはお手本のような洗練された動きで、その武器を少年の頭に叩き込もうとしている。
少年は目を閉じる。
後悔はしていない。
自分から志願して、ソウマ様は自分を信頼して、戦場に立たせてくれたのだ。
感謝すらしているが、自分はその期待にこたえられなかっただけ。
しかし、いつまで立っても、少年に死は訪れなかった。
恐る恐る目を開けると、そこにはスライムの少女が立っていた。
「早く体勢を立て直して!」
スライムの少女は剣をその身体で受け止めていた。
軟体は切られることなく、剣をはじき返した。
粘液とはいえ、その密度が異常なまでに濃いのだ。
マウンテンスライムや、人間をスライムに変える呪いをすべて吸収したのだ。
その密度は鋼にも勝るものとなっていた。
「私だって、戦力になるんだから!」
少女。ユーノは、戦場に出るのは初めてだが、スライムとして吸収した敵の戦力や戦略をその身に宿していた。
鎧や盾は装備していない。よほど自身のスライムボディのほうが強固で柔軟性があるからだ。その代わり、武器はたたら作の一級品だ。身の丈ほどもあるブーメランを装備していた。
剣のように切り付け、または投擲して敵を撃破している。
その武器は、大地をも切り裂き、敵の鎧や盾など意図も容易く貫通している。
それは十二分に訓練された兵士に匹敵する戦いぶりだった。
ソウマは言った。生き残れ、と。
しかしそれがどれだけ無謀な理想論かは誰もが理解していた。
それでも生きて欲しい、と。
新しい国に生きて欲しいと叫んだリーダーを、『メリクリウス』のメンバーは忘れなかった。
誰もが必死に戦っていた。
新しい朝を生きて勝ち取るために。




